【艦これSS】朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

――――君が声嗄らし叫ぶなら 三日月さえ　落ちるだろう 躊躇わず　ゆくがいい かすかな光でも……―――― #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

【朝潮サイド】 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

　 「司令官！！！す、好きですッ！！！」 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

言った。 言ってしまった。 私の嘘偽りない本当の気持ちを。 嗚呼、心臓が五月蝿い！ 頭の中がグルグルする。 顔からは火が出そうで、ちょっとでも油断したら泣き出してしまいそうだ。 いけない、まだ伝えただけだ。何も終わってない。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

私はさっきからずっと眼を瞑ったままだ。 開けるのが恐い。 開けた先に見るのが司令官の嫌そうな顔だったら？ そう考えるだけで身体が石になったような感じになる。 嗚呼、やっぱり言うんじゃなかった。 伝えるべきじゃなかった。 この胸の内に秘めておくべきだった。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

迷惑だったろうか？ ……かもしれない。部下からこんな……いや、そもそも私は艦娘だ。云わば兵器。司令官から見れば駒に過ぎない。そんな相手からあ、愛の告白を受けたのだ。気分を害しても仕方ない。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

そもそも、「断られる」という選択を私は考えていたか？全てが上手くいくと錯覚していなかったか？ この数週間、私は何をシミュレーションしていた？ もしも、もしも断られたら……どうしたらいいだろう？どんな顔をしたらいいだろう？ #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

司令官は優しい方だから。 とてもとても優しい方だから。 いつもみたいに困った顔で笑うのだろうか？ あの少し影のある顔で……。 あんな寂しそうな笑顔をさせたくなくて……お役に立ちたくて……少しでも心から笑わせてあげたくて。……そうしたら……いつの間にか好きになっていて #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

その司令官をまた困らせてしまうのだろうか……。 あの寂しそうな笑顔をさせてしまうのだろうか……。 あ……駄目だ。なんか泣きそうになってきた。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

私が想いを叫んでからどれだけ経った？ 数秒？ ううん数分？ 数時間？ 数日経ったような気さえする。 駄目だ。もう涙が眼の端に溜まり始めている。 「お、お返事は……いつでも構いませんから！」 それだけ伝えるのが精一杯だった。 呼び止める声を振り切って、私は駆け出した #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

【提督サイド】 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「司令官！す、好きです！」 それを聞いた瞬間、俺の世界は止まった。 目の前にいる幼い少女――朝潮だ――は耳まで真っ赤になってぷるぷると震えている。 目には涙すら溜まっていた。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「お、お返事は……いつでも構いませんから！」 そう言って踵を返す。 「お、おい朝潮！」 ようやく声が出た。止まっていた世界が動き出す。 だが朝潮はそのまま走り出した。 「待て！朝潮！朝潮！」 だがすぐに朝潮は通路を曲がり見えなくなる。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「参ったな……」 頭をかきながら胸ポケットから煙草を取り出す。 え……と、火はどこにやったかな？ と探していると、細く白い指に握られた百円ライターが火をつけて差し出された。 「どうぞ……」 「おう……ふー……サンキューな大鳳」 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「いえ、提督のお役に立つのが、この大鳳が務めですから」 そう言って穏やかに微笑む。 肺一杯に吸い込んで思いきり吐くと、少しは気分も落ち着いてきていた。 「で……」 「？」 「どっから見てた？」 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「？仰ってる意味が理解出来かねますが……私が見たのは提督が煙草をくわえられているところでしたよ？」 「…………そっか。ならいい」 どうやら見られてはいなかったようだ。 まあ、見られていたからなんだということはないのだが……。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「はい、提督」 「お、すまんな」 携帯用灰皿を差し出す大鳳。流石に長い付き合いなだけはある。俺が吸い終わるタイミングも分かってるというわけだ。 俺は靴裏で火を消してから吸い殻を中に放り込む。 「何かお悩みごとですか？」 「うんにゃ、別にそれほどでもないさ」 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

流石に鋭いので適当に誤魔化しておく。 これ以上つつかれるとボロが出そうなので「んじゃ、残りのお仕事頑張りますか」そう独りごちて執務室に退散することにした。 大鳳は「お仕事頑張って下さいね？」と元気の出るような笑顔をくれる。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

執務室に向かう最中も、執務室の椅子に身体を沈めた後も頭の中から朝潮の声が離れなかった。 頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、空中に話しかける。 「島風……俺はどうしたらいい？」 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

【大鳳サイド】 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「お仕事頑張って下さいね」 提督は「おう」と答えてくださり、執務室の方へむかわれました。 その姿が見えなくなっても、私は手を振りながら時間を図っていました。 ３０秒、４０、５０、１分……。 ２分を数えて提督が戻られる気配がないと、私は軽く息を吐き出します。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

　 ――――ﾊﾞｷﾞｯ！―――― 気がつけば手の中で握っていたライターが、ぐしゃぐしゃに壊れていました。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

感覚が鋭敏になっていくのが分かります。 今なら真後ろの窓の外で、何枚木の葉が舞ったのかすら分かります。 まるで世界が私を中心に閉じていって、全てが自分と一体となったかのよう……。 そして胸の中で静かに、浮き上がるように燃える何か……。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

確かあのませガキが向かったのはこちら。恐らくは工廠の裏でしょう。あそこなら誰も来ないし、五月蝿いからべそべそ泣くのにはもってこいのはずです。 許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない。 提督を苦しめる奴は誰であろうと許さない。 #朝潮の蝶

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「待たれよ」 後ろから声をかけられました。 「何です？初春さん」 「ご挨拶じゃな大鳳の」 「今少し忙しいので……後にしていただけます？」 「忙しいとは、朝潮を詰問することがかえ？」 #朝潮の蝶