兄さんの怖い話　「梅雨」

那智王bot @nachioanisan

【兄さんの怖い話】あん時もこんな雨の季節で、雨の夜やった。小学校あがりたてのその女の子は、真夜中にふと目が覚めて、布団の中で雨音を聞いていた。家族一緒の部屋に布団並べて、女の子の布団は窓側。雨音と家族の寝息を聞きながらまたウトウトと瞼が重くなってきた。

那智王bot @nachioanisan

【兄怖-弐】ああ、眠たい。だけどこんな夜中に自分だけ起きてるなんて滅多にない。直ぐに寝てしまうのはもったいない。そやけど布団から出るのはなんや怖い。そうだ、と思いついて女の子は「雨」を数えようと思ったんやて。朝起きたら夜中にこんなに雨が落ちてきたんだよ、て家族に教えちゃろ。

那智王bot @nachioanisan

【兄怖-参】ぱらぱら・・・一、二・・・ざぁざぁ・・・十、十一・・・最初はゆっくりだった雨音は次第に勢いを増して、幼い女の子の数える早さなんぞまったく追いつかない。それでもムキになって女の子は雨音を数え続けた。あれ?百の次はなんだろう?ああ大雨になってきた、百が一、二・・沢山・・・

那智王bot @nachioanisan

【兄怖-四】無茶苦茶に数えて、もう自分が何しとるかわからんようになってきた。もう諦めて寝ようか・・そやけどクセになったように数えるのは止まらない。一・・二・・・バラバラバラ・・二十・・じゃりっ・・・じゃりっ・・じゃりっじゃりっ・・あれ?雨の音じゃない。バラバラざぁざぁ・・じゃりっ

那智王bot @nachioanisan

【兄怖-伍】バラバラ・・五十・・じゃりっ雨音に混じって、その音は大きくなってくるような気がする。なんだか怖くなって女の子はもう耳を塞いで数だけを無茶苦茶に数えた。七十八十百っっジャリッッジャリッジャリッッ耳を塞いでいるのにその音だけが聞こえる。もう数を数えていられる余裕なぞない。

那智王bot @nachioanisan

【兄怖-禄】一緒に寝ている親を起こそうと恐る恐る耳を塞いだ手を離し布団から出て気づいた。雨が止んどる。あの音もしない。良かった、もうこのまま寝てしまおう。カーテン越しに差し込む隣のアパートの街灯の薄明かりが心強い。もう大丈夫・・　　　　　　　　　バンッッッ

那智王bot @nachioanisan

【兄怖-終】反射的に見てしもたんよなぁ、窓を。少し開いたカーテンの隙間からこちらを見ている暗い顔の男を。ぽた、ぽた・・・水滴を滴らせながら窓を叩く手を。「いレてイれテいれてー・・・!」　気が付いたら朝。雨は上がっているのにそこだけ水滴がついた窓と布団が今でも忘れられんそうや。