FitEar須山社長によるカスタムIEM解説

現在オーディオファンに注目されているカスタムIEM(インイヤーモニター)について、日本屈指のカスタムIEMメーカーであるFitEarを展開されている須山歯研の須山社長による解説と歴史を説明されています。 よりカスタムIEMについて知りたい方は、音楽出版社刊ヘッドフォンブック 2014別冊付録『CUSTOM IEM BOOK』を参照される事をお勧めします。 FitEar : http://fitear.jp/
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須山慶太 @kindo3

カスタムIEMって何・・・。う〜む、何なんだろう・・・。まず、カスタムってなんなんだ?IEMって?カスタムとかイヤモニとかCIEMとか色々言われてますが、さてどっから説明を始めれば良いものか・・・<説明すんのか?

2014-06-27 17:54:51
須山慶太 @kindo3

カスタム(Custom)は注文の、あつらえのって意味ですな。IEMとはIn-Ear Monitorの略ですが、コンサートなどでステージ上の演者に向け演奏に必要な音を提供する方法の一つで、ステージに設置されたスピーカーではなく遮蔽性の高いイヤホンでモニターミックスを伝える方法です。

2014-06-27 18:05:02
須山慶太 @kindo3

IEM自体には本来イヤフォンの意味はありませんが、その利用が前提ゆえ代名詞(?)的に使われるようになった模様。Cが付かないIEMはユニバーサルタイプのイヤフォンも含まれます。古くはShureのE1、E5、E2とかがありました。

2014-06-27 18:07:55
須山慶太 @kindo3

カスタムインイヤーモニター(CIEM)の神と言えばUltimate Ears設立者であり現在はJH Audio代表のジェリー・ハーヴィーさんですが、実はジェリーさん以前にもカスタム(何で用語統一すっかな)は存在し、確か1990年頃からステージユースで利用されていました。

2014-06-27 18:10:59

JHAUDIO : http://www.jhaudio.com/
(日本総輸入代理店ミックスウェーブJHAUDIOページ: http://www.mixwave.jp/audio/jhaudio/jhaudio.html )

須山慶太 @kindo3

確か1985年とかにはダイナミック型だったと記憶してますが、Westoneがそれと組み合わせて利用するカスタムのイヤーモールドを作ってますし、オーディオロジストでSensaphonics代表のマイケル・サントゥッチさんもいち早くカスタム開発に取り組まれたレジェンドの一人です。

2014-06-27 18:12:59

Westone : https://www.westone.com/
(日本総輸入代理店テックウィンドWestoneページ : http://www.tekwind.co.jp/products/WST/category.php )

Sensaphonics : http://www.sensaphonics.jp/

須山慶太 @kindo3

大規模化するコンサートで明瞭なモニター音が求められる中、聴覚保護という観点からも非常に合理的なシステムとしてスタートしたIEMですが、ヘッドフォンでは見た目や動いた時のずれ、イヤフォンでは遮蔽性や再生音の質といった問題があり、専用となる再生装置が求められていました。

2014-06-27 18:15:31
須山慶太 @kindo3

補聴器をベースとしたアプローチから、耳穴を完全に遮蔽し(補聴器ではハウリング防止のために耳型を採取してぴったりと耳穴に適合したカスタムカナルシェルを作ります)、大変小さく、密閉条件下での動作規制が無いバランスドアーマチュア型レシーバーを用いた製品が作られます。

2014-06-27 18:17:43
須山慶太 @kindo3

補聴器で得られていたノウハウから、なるべく耳の奥まで塞ぐことで自分の声の響きを抑える(顎関節の動き対応や痛みの抑制のため軟性シリコンを使用)といったアプローチもSensaphonics社製品に見る事ができます。

2014-06-27 18:21:57
須山慶太 @kindo3

耳をしっかり塞ぐ事でステージ上の環境騒音を抑制して耳の中に静かな環境を作り、ここに適切な音量でモニターミックスを再生する。これがカスタムが実現しようとした開発意図ですが、激しい動きにも外れることなく、また過大な音から耳を守るという聴覚保護の観点からも少しずつ利用が広まります。

2014-06-27 18:28:06
須山慶太 @kindo3

一方、補聴器ベースの製品、かつ耳穴を密閉すると言う特殊環境での動作から、問題点も明らかになります。バランスドアーマチュア型レシーバーは元々、そのシェアのほとんどをアメリカKnowles社が持っており、その用途もほぼ全てが補聴器に利用されていました。

2014-06-27 18:29:42
須山慶太 @kindo3

バランスドアーマチュア型レシーバーは構造が単純で小型化しやすく、振動するアーマチュアがドライブピンを介して金属製ダイヤフラムを直接駆動する方式ゆえ、密閉空間において鼓膜が持つスティッフネスとの整合性が高いという特徴を持っています。

2014-06-27 18:31:39
須山慶太 @kindo3

その一方、一つのユニットが担当し得る周波数帯域は、一般的にヘッドフォンやイヤフォンで用いられるダイナミック型レシーバーに比べ狭いという特徴がありますが、主に人の声を扱う補聴器にとってはそれほど問題にはなりませんでした。

2014-06-27 18:33:27
須山慶太 @kindo3

帯域幅の狭いBA(なげーので省略)の代わりにダイナミック型を用いた製品もありますが、これまでもちょっと触れたか、密閉空間で動作させるには適した構造とは言えず、気圧に負けないようにダイヤフラムを設計すると直径を小さく、厚みを厚くする必要があります。

2014-06-27 18:35:36
須山慶太 @kindo3

直径が大きければ豊かな低域が、薄くすれば透明感のある高域が得られるダイナミック型も、密閉空間(そして耳穴と言う狭いスペース)という動作条件から、そのメリットを活かす事が難しく、高いアイソレーションが求められる業務用機での採用は極めて一部となります。

2014-06-27 18:37:01
須山慶太 @kindo3

ワイドレンジのダイナミック型をきちんと動作させるには、鼓膜とイヤーチップにより形成される小さな空間の気圧を逃がし、ダイヤフラムの動作規制を回避する必要がありますが、このために通気孔となるベントホールを設けると、低域再生に大きな影響が生じます。

2014-06-27 18:38:31
須山慶太 @kindo3

また、ベントホールからは外部雑音が侵入するため、特定周波数帯へのマスキングが生じモニター音が不明瞭になる上、それをボリュームで対策しようとすると、再生音のための環境が許容するダイナミックレンジが狭小化することで、再生音が持つダイナミックレンジの再現性に問題が生じてきます。

2014-06-27 18:41:08
須山慶太 @kindo3

BA型ではレンジが狭く、ダイナミック型では動作不全や外部騒音侵入という問題がある中、より優れた再生音を得るべく開発されたのが、ジェリー・ハーヴィーさんがアレックス・ヴァン・ヘイレンのリクエストで試作したとされる2ウェイタイプのカスタムでした(ジェリーさん、すげーっ!!)。

2014-06-27 18:45:11
須山慶太 @kindo3

ユニットの狭帯域を複数のユニットを用いることでレンジ拡大を狙ったもので、スピーカーでも一般的に用いられる手法ゆえ今考えれば「へ〜」レベルかも知れませんが、この「発明」によりカスタムは大きな進歩を遂げ、SHURE社によるワイヤレスシステムの開発と相まってスタンダード化していきます。

2014-06-27 18:47:17
須山慶太 @kindo3

アレックス・ヴァン・ヘイレンでの成功から、ジェリーさんはUltimate Ears社を立ち上げますが、興味深い点としては、開発やオペレーションはジェリーさんが行うものの、実際の製作に関してはWestone社が担当していたということ。この関係は2002年(だったかな)まで続きます。

2014-06-27 18:50:44