BCJ音楽監督鈴木雅明の「今日のバッハ」

バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督鈴木雅明による「今日のバッハ」。随時更新中!
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

ゲバントハウスに始まった長いひとりツアーがようやく終了。最後はグラナダのバッハ!でした。真昼の本番を終え、今アルハンブラの夕映えに身を委ねてしばし休息。さて先日ブランデンについて毎日書いていたら、とても楽しかったので、今日から【今日のバッハ】シリーズを始めることにいたしましょう。

2014-06-29 03:45:31
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ6/29】①1723年のこの日、バッハはJ.M.ケースという女性のお葬式でモテット『イエス、わが喜び』を初演したはず。この人は重要人物だったらしくお葬式の様子も伝わっているが、実はお葬式は「音楽なしで」という資料もあり演奏は埋葬式の時だったかもしれない。なぞ多し。

2014-06-29 04:20:31
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ6/29】②このモテットは、全11楽章が見事にシンメトリーに並べられて、前半と後半の小節数さえ同じという徹底ぶり。ローマ人への手紙8章とコラール「イエス、わが喜び」の歌詞が1曲ずつ交代して、ひたすら神学的な構造と個人的な信仰の喜びが見事に対比されている。

2014-06-29 04:27:25
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ6/29】③それにしても、モテットのほとんどは葬送目的の作品だけれど、お葬式は突然決まるものなのにこんなに複雑な曲を演奏したのは驚き。ここまで緻密な対位法で、死と復活について説得されると、悲しんでいる暇はない。「退け、悲しみの影!」なんと力強いお葬式のメッセージ。

2014-06-29 08:50:59
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ6/30】①1747年の今日、バッハはクリスマスのコラール『天の高き所より我来たりぬ』に基づくカノン風変奏曲を提出して、L.C.ミーツラー主宰の「音楽学術協会」に入会。ミーツラーは理論家だったが、晩年「時代遅れな作風」などと批判されたバッハを暗に援護したと思われる。

2014-06-30 08:39:36
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ6/30】②カノンの作曲は単純なようで高度な対位法技術が必要なので、学識ある音楽家としての指標だったが、バッハの場合は、理論的に正しいだけでなく極めて美しい線に満ちている。この「カノン風変奏曲」も高度な技術が使われているとはよもや思えない、明るくほのぼのとした名曲。

2014-06-30 08:47:33
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ6/30】③実はこの作品の初版譜のひとつが日本の南葵文庫にあるので何となく親しみを覚えているが、今まであまり演奏したことがなかった。そこで今年は何度か演奏するつもり。自筆譜と初版譜で内容が違うので問題があるが、最後にBACHの名前が潜んでいて、なかなか楽しみが多い。

2014-06-30 08:57:28
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ1/7】①1726年の今日、バッハの8番目の子クリスティーナ・ゾフィア・ヘンリエッタの埋葬式が行われた。この娘は、2番目の妻アンナ・マグダレーナの最初の子。生まれはちょうど彼らがライプツィヒに移ってきた1723年なので、たった3才で亡くなったことになる。

2014-07-01 13:18:53
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ1/7】②バッハは、2回の結婚でちょうど20人の子供が生まれたが、そのうち10人は夭折。本当に子供の誕生の喜びと死の恐怖が、表裏一体だったに違いない。シュティラーという研究者が、バッハは、子供の死ぬとすぐ聖餐式に出席した、という関係を指摘しているのが印象に残る。

2014-07-01 13:31:21
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/2】1723年の今日、カンタータ147番『心と口と行いと生き様をもて』ライプツィヒのニコライ教会で初演。ワイマール時代の初稿では、例の有名なコラールは存在しないので、このコラールはこの日のために作曲された。本当に、この4つが一致できるような人間になりたいものだ。

2014-07-02 07:25:16
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/2】②もっともカンタータのテーマは、「心と口と・・」の4つが一致するだけでなく、揃ってキリストの証しとなること。だから神を象徴する3を重視して3連符が多用される。ソプラノアリアも例の有名なコラールも然り。こちら→ youtube.com/watch?v=nvdwTX…

2014-07-02 17:44:11
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/4】①調布音楽祭開幕!というわけで今日のバッハは、今夜佐藤俊介君と鈴木優人によって演奏される「オブリガートチェンバロとヴァイオリンのためのソナタ」全6曲。これは一体チェンバロ曲なのか、ヴァイオリン曲なのか。チェンバロの右手とVnが丁々発止と競奏する #調布音楽祭

2014-07-04 07:01:06
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/4】②チェンバロの右手とVnを対等に聞かせるのは至難の業。が、今日はクルスベルヘン作チェンバロで対等に響くはず。この二つの線とバスラインで3本線のトリオが出来るが、これはオルガンのトリオソナタ等と同じく、まぎれもなくバッハの発明と言っていい。 #調布音楽祭

2014-07-04 07:10:25
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/4 】③たった2つの楽器だけれど、冒頭を比べるだけでも驚くほど多彩な色が見られる。叙情的な第1番、のどかな牧歌第2番、絢爛豪華な第3番、甘く悲しいシシリアーノ第4番、神秘の淵に深く沈潜する第5番、そして天衣無縫天真爛漫第6番。六者六様のソナタ群。#調布音楽祭

2014-07-04 07:23:15
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/7】①昨日の調布音楽祭もブランデン全曲のファイナルで、大いに盛り上がって終了。次なるバッハは「音楽の捧げもの」のレクチャー(13日(日)15時佐倉市民音楽ホール)だ、と思ったら、ちょうど1747年の今日の日付で、バッハがフリードリヒ大王への献呈の辞を書いていた!

2014-07-07 16:04:55
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/7】②バッハは、次男カール・フィリップが使えるフリードリヒ大王を1747年5月7日にポツダムに訪ね、大王から与えられたテーマによって即興演奏を繰り広げ、後にそれを「音楽の捧げもの」としてまとめた。この「王様のテーマ」が本当に秀逸。本当に彼が作曲したんだろうか?

2014-07-07 16:15:36
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/7】③なにしろ「王のテーマ」はハ短調の三和音が鳴ったかと思うと突然の減七度の跳躍、そして神秘的な半音下降。これに基づく一見単純なカノンの技には目を見張るばかり。前にも引用したけれど、もういちどどうぞ。youtube.com/watch?v=xUHQ2y…

2014-07-07 16:25:04
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/7】補:次なるバッハは佐倉と書いたけれど、実はその前日神戸松蔭でCemb+Orgリサイタル!今年生誕300年のカールフィリップに捧げる唯一の本番なのだ。大バッハをフリードリヒ大王に導いたのは他ならぬこの次男なので、今週は1747年のバッハ親子に思いを馳せよう。

2014-07-07 16:43:32
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/11】①1723年の今日、三位一体後第7日曜のカンタータ第186番「魂よ、つまずくなかれ」初演。これはもともと待降節の曲だったものの改作。ライプツィヒではクリスマスの前3週はカンタータ演奏がなかったのだ。合唱がいきなり長7度の不協和音から始まる印象深い名作。

2014-07-11 08:21:30
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/11】②弱い魂を励ます第5曲テノールアリアは美しい。新バッハ全集では、オーボエとヴァイオリンの旋律を1オクターヴ高く演奏するよう印刷しているが、これは絶対ありえない。私たちはダカッチャとヴァイオリンのユニゾンで演奏した。#BCJカンタータ vol.10参照

2014-07-11 08:25:27
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

【今日のバッハ7/11】③遙か昔神戸松蔭で、今は亡き名バロックオーボエ奏者ブルース・ヘインズを迎えて、この曲を含めてオーボエ2本つきのカンタータばかりを演奏した。彼は「古楽の終焉」や「ピッチの歴史」など数々の名著を残して、遙か未来を先取りして私たちを啓蒙してくれた。

2014-07-11 08:33:39
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

音楽の捧げ物レクチャー@佐倉終了。時間切れで言えなかったこと。①カノン=律法。カンタータの中で最も完璧なカノンは第9番第5曲で、テクストは、神が(律法を守ろうとする)善行ではなく信仰のみを顧みられると歌う。つまりこのカノンが完璧であればあるほど、強烈な自己否定の材料になっていく。

2014-07-13 21:00:56
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

②しかし律法は全うされなければならないので、カノンは完璧でなければならず、それが十字架の贖罪に繋がっていなければ意味がない。そこで「捧げ物」中唯一のフランス風序曲(風)カノン4を、見開きに印刷された6曲のカノンの中心において、十字架を暗示した、のではないかな。

2014-07-13 21:11:50
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

③そして同時に、そのカノン4ではフランス風序曲のリズムが低音を受け持ち、拡大してもはやフランス風序曲には聞こえない反行形が最上声に来て、この世の権威と、上からの権威の対比を象徴する。これは、カンタータ170番第3曲アリアに酷似して、この世の権威の否定を表現している(かもしれない)

2014-07-13 21:16:40
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

③の補足訂正:酷似と書いたのは言い過ぎで、上下の逆転を意識した構造が似ている、という意味。そして、このカノン4は王の権威の象徴リズムをもはやそれが感じられないほど拡大して反転されるので陰鬱な響き。正しくこれは悲しみを担った王、即ちキリストを暗示している、というのがマリッセンの説。

2014-07-14 14:32:19