ラバウル少佐日誌:華麗なる機動部隊編其ノ参

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

全ての艦娘を手中に収めた赤城が、徐々に艦隊の総指揮権へと手を伸ばし始めた頃の事でした。 丁度、私達が間宮の食堂を貸しきって食事をとっていた時です。(1) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

唐突に、『ひす』な声を上げて、赤城の事が気に入らないだの、お前達は貴族のつもりか、等と壊れた再生機のようにまくし立てたのは、翔鶴型の『次女』、瑞鶴でありました。 そのあまりにも脈絡の無い事態に、二航戦の二人が呆然としていたのを記憶しております。(2) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

あの娘は、少々問題のある言動が元から多く、艦隊の風紀……というよりは士気へ悪影響を及ぼす事が多々ありました。 特に『姉』の事を『幸運の女神』或いは『被害担当艦』呼ばわりしていた事に関しては、私達も著しく問題視しておりました。 (3) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

彼女は私達のような、閨閥に使われる迄の間の御遊戯的な社会奉仕としてではなく、才能を見込まれて軍属となった艦娘で家はやや貧しかったようです。 其の様な境遇が、彼女の心根を歪ませたのでしょう。 私達に食って掛かり、赤城を潰すと声高々に喚いたのでした。(4) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

其の日の夜は、久々に飛龍ではなく私が赤城と同衾する事となりました。 彼女が私の下で、 「飛龍と違ってあなたは痛くしないから」 と穏やかな笑顔で囁いたのが、今でも昨日の事の様に思い出されます。(5) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

翌朝、飛龍は自室にて自殺未遂を働いて気絶していた状態で発見されました。 艤装を外し、大量の睡眠薬を飲んでいたのです。 然し、何故彼女が其の様な行動をとったのかは、結局誰にも言おうとはしませんでした。 ……赤城には、言わずとも知れてしまったのですが。(6)#ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

瑞鶴は其の日の内に、赤城へ一対一での演習を申し入れてきました。 それが意味するものは、至極明快で言わずもがなでしょう。 蒼龍と翔鶴は唯々慄いているばかりで…… 否。 私も、彼女のとった一連の大胆な行動には怖れを抱きました。 怖じなかったのは、赤城のみです。(7)#ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

夕陽の照らす海上沖にて、二人は弓を構え合いました。 赤城は逆風さえも涼しげに受け、可憐にして勇壮なる『戦姫』の様相でありました。 瑞鶴は、追い風と夕陽を背に黒服を靡かせ、宛ら『魔王』の出で立ちをしておりました。(8) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

……結果は、赤城の飛行戦隊の壊滅、そして正面より爆撃、雷撃を受けての大破による戦闘不能に終わりました。 赤城の錬度は瑞鶴の二倍は有りましたが、然し。 彼女は忘れていたのです。 瑞鶴が経った二つしか無い『平民』の登用される正規空母枠の片割れであるという事を。(9)#ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

『慢心』が敗因であった事は、さぞ赤城の心を打ちのめした事でしょう。 翔鶴型の艤装が幾ら最新式の技術の盛り込まれたものであったとはいえ、 瑞鶴が十年に一人の弓の逸材であったとはいえ。 (10) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

私や赤城自身の様な貴族の嫡女でもなくば、 二航戦の様な財閥の令嬢でもない、 また翔鶴の様に新興企業の娘ですらない『卑しい者』に敗れ、艦隊の支配権を奪われた。 ……いえ、其れを屈辱と思ったのは私だけでしょう。 彼女は血筋や身分には、拘りませんでしたから。(11) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

彼女は然し瑞鶴へ負けを認め、悲しげな笑みを浮かべながら「暫くは大人しくしておくわ」とだけ言うと、彼女へ背を向け、足早に基地へと戻ったのです。 瑞鶴は有頂天でありました。 蒼龍は私に泣き付いてきました。 ですが……。(12) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

私と翔鶴は、うっかりして彼女の顔を見てしまったのです。 敗れて尚、負けを認めて尚、 正義と謂う薪を炉へ詰め込み、不屈の支配者たる狂気の炎で天上を舐める、その眼を。(13) #ラバウル少佐日誌

檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

彼女は敗けを認めてなどいなかったのです。 赤城は、遂に己の正義の為に正義を捨てる決断を前にした彼女自身へ、怖れていたのです。 唯一つの目的である、 瑞鶴を殺す事。 其れすらも己が『理想』の為なれば容易く行えるであろう、自身へ怖れていたのです。(続く) #ラバウル少佐日誌