#完全ノープラン艦これ与太話 【ブラッディ・シャダー・バッドランズ・マッドネス】 #1～#2

春魔解丼 @vespiking

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薄暗い管理室を、多数設置されたモニタのブルーライトだけが煌々と照らし上げる。部屋は静寂そのもので、音とも言えぬディスク駆動音と、空になったドリンク剤の瓶が転がる音だけが、この世界が現実である事を示していた。それ以外は無音。本来あるはずの呼吸音すら、そこには無い。 #KZNPLN

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ポタリ、ポタリ。音の限られた虚無の世界に、新たな音が加わった。水音だ。液体が垂れている。白目を剥き机に倒れ臥す艦娘の足を伝って。呼吸や鼓動の類は、相変わらずない。唯物世界がそこにあった。 #KZNPLN

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静寂が破られたのは、水音の数分後であった。管理室のドアが開き、長身眼鏡の艦娘が中を覗いた。そして管理室の長たる己の秘書艦を見つけ、血相を変え飛びついた。「……ゴーヤ？ゴーヤ！しっかり！ちょっと！しっかりしなさい！誰か！誰か来て！」 #KZNPLN

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３０分後。管理室長伊58はオヒガンの彼方から、簡易医務室のフートンの中へと舞い戻った。「……もうっ、バカ！何してるのよ！」工廠長霧島が目を赤く腫らし怒鳴りつける。普段の彼女からは想像もつかぬ姿に、当の伊58は鬱陶しげに返事をした。「ウェー、おう、オハヨでち」 #KZNPLN

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「アー、ヤり過ぎた」伊58はぶれる視界に身を任せ、身体を起こす。「何がよ！何やってんのよアンタ！動力部まで止まってたのよ！？あと数分遅かったら本当に死んでるわよ！」「ウェー、しかたねーでち。ノードラッグで入り込めるほど大本営は甘くねーんでち」 #KZNPLN

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ハッカーの間では、ダウナー作用のあるドラッグを摂取する事で一時的に精神をフラットにし、集中力を高める裏技が稀に用いられる。伊58ほどのハッカーでさえ、中毒死寸前のドラッグを要する堅牢なセキュリティ。そのような場所は、大日本帝国に一箇所しかない。 #KZNPLN

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「――大本営じゃ、ないわね」霧島は鋭く言った。「大本営のセキュリティは、そこまで堅牢強固じゃない」「おうおう、言いよる。まー、ゴーヤは天才でちからな！そういうソンケイをもたれても仕方がねーでちか」「……スガモ重犯罪刑務所」伊58の顔色が変わった。 #KZNPLN

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「なんでー。お見通しかよ」「貴女、どこまで知ってるの」霧島が睨む。「おめーが知らねーとこまで。でちよ。デーチデチデチ」霧島の平手が伊58の頬を打った。「ふざけないで。貴女1隻で、どうこうなるレベルじゃない」「……んだよ。ゴーヤに不可能はねー」 #KZNPLN

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伊58は車椅子艤装に飛び乗り、ふらつきながら運転を始めた。「……待ちなさい！どこ行くの！」「行き先は『地獄』でちよ。安心しろよ。帰ってきたら、全部教える」ペットボトルの水をゴクリと飲み干し、大きくゲップした。「必ず教えてやる。待ってろ」 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ブラッディ・シャダー・バッドランズ・マッドネス】 #1 #KZNPLN

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基盤めいて規則的に並ぶ囚人たちが、絶対的秩序に従い分刻みのパターン・スケジュールを黙々とこなす。ここにいる囚人はただの囚人ではなく、半数以上が懲役100年を超える重犯罪者だ。なお、あとの半数に刑期はない。死刑か終身刑である。 #KZNPLN

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ここはスガモ重犯罪刑務所。かの大戦後に戦争犯罪者専用の刑務所として開設された断罪の檻は今、当初の役目を完遂した後、軍事国家として生まれ変わった新大日本帝国により帝国中の凶悪犯罪者を集結。帝国で最も治安の良い場所となった。……地上区画に限っては。 #KZNPLN

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改装・移転後のスガモ重犯罪刑務所に地下区画はない。3階建ての建造物に、上へ上へと檻が積み重なっている。何故か？通説では、囚人を白日の下、完全なる監視下に置くため。地下での決起などを防ぐ為だ。だが、真実は違う――そういった噂が、実しやかに囁かれる。 #KZNPLN

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スガモ重犯罪刑務所の地下には秘密がある――。こうした建築物にはありがちな都市伝説が、やはりここにも多数存在する。政府高官の核シェルター。新型核兵器の秘密研究所。飛来した宇宙人が捕えられている。謎めいた海外小説翻訳チームのアジト。好奇心は憶測を呼び、噂が飛び交う。 #KZNPLN

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噂は真実を覆い隠し、好奇と疑いは人の目を曇らせる。スガモの地下に秘匿された真実を知る者は、帝国でもほんの一握りだ。『次のニュースドスエ。悲しいニュースドスエ。大人気アイドルが不幸な事故で――』例えば、このオイランニュースキャスターも真実を知らぬ者の一人だ。 #KZNPLN

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囚人休憩室のテレビで、相方を事故で失ったアイドルが涙ながらに記者会見をしている。『今日はみなさんに、とても悲しいことを伝えないといけません。私ナカチャンと一緒に「ナカムツマジイ」を支えてくれたムッチャンが、とても不幸な事故で天国へと旅立ちました』 #KZNPLN

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「ウオーッ！ムッチャンが死んじゃった！そんな！おれはこれから何のために生きればいいんだ！」「どうせ死刑だろ、おれたち」「ウオーッ！おれはナカチャンが好きだったが実際悲しい！」休憩室で訃報を嘆く凶悪殺人鬼妖精の3人組もまた、真実を知らぬ者達である。 #KZNPLN

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そう、例えば。今まさに刑務所入口で帝国軍IDパスを確認する守衛の妖精は、真実を知る者だ。「ああ、軍人さんですね。ドーモ。行き先はどの面会室？」「行き先ですか？『地獄』ですよ」「……あいよ。ドーモ」パスをかざした黒髪の巡洋艦もまた、真実を知る者だ。 #KZNPLN

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彼女の名は矢矧。新大日本帝国軍において中将を冠し、元帥大淀を除く全巡洋艦の中で最高権力を持つ軽巡だ。彼女はそのまま不自然のない所作で、隠し通路へとエスコートされる。存在せぬ筈のスガモの地下、『地獄』へと。 #KZNPLN

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「こちら矢矧。スガモインフェルノに入ったわ。そちらは？」矢矧は携帯IRC端末を操作する。この異空間でも動作する、特殊通信機だ。『こちら陸奥よ。そうね、地下四階あたりで落ち合いましょう』矢矧の携帯端末に、今しがたテレビに映った死亡アイドルの顔が映る。 #KZNPLN

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矢矧は簡単な準備運動を終えると、砲を構えた。「さて。運動は嫌いじゃないのよね。今日のデイリー任務は何かしら？」手始めに、左舷側から飛び出した駆逐艦イ級を砲撃殺。悠々と進撃を開始した。 #KZNPLN

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その直後だ。異常事態を告げるアラートが、矢矧の携帯端末に届いたのは。「どうしたの！？」『ちょ、ちょっと待ってよ！聞いてないわ！ン、ンアーッ！？ヤメテ！来ないで！……何で「青虫」が此処にいるのよッ！？グワッ……』ブツリ。突如通信が途絶えた。青虫。矢矧の背筋が冷える。 #KZNPLN

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青虫。その名で呼ばれる艦娘を、矢矧は1隻だけ知っている。怪しまれぬよう、大和や浜風は別に入る予定だ。暫くは援軍が期待できない。矢矧は周囲に湧くザコ深海棲艦をほとんど無視しながら、地下に広がる暗い海を駆け抜けた。 #KZNPLN

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