めったに人を褒めない監督が、ひとつだけいつも褒めてくれることがある。「お前は脚が死んでもスピードが落ちないね。駄目になっても、どーんと駄目にはならない。それだけは誇りに思っていいよ」
2010-02-24 14:17:07エゴロワに抜かれても、追いつけなくても、どうでもいいんだと思った。かまうものか。これは自分だけのことなんだ。自分と自分とのあいだのやりとりであり、出し入れなのだ。
2010-02-24 14:17:29メダルのことは考えなかった。もちろんメダルはほしい。当たり前だ。オリンピックに来て、べつにメダルなんかいらないという人間がいたらお目にかかりたい。そして私が行きているのは、メダルをとって「いくら」の厳しい世界なのだ
2010-02-24 14:18:18もしメダルをとって帰らなかったら、誰も私の言う事になんか耳を傾けはしない。結果を出して初めて、大きな声でものを言えるのだ。そして私には言いたいことがある。そのためにも メダルは 取らなくては ならない のだ。
2010-02-24 14:18:43しかし同時に、メダルなんかどうでもいいという気持ちは根強くあった。私は二度にわたってオリンピックというこの巨大で残酷な肉挽き機に放り込まれ、そのたびに自分の尊厳を賭けて走りぬいたのだ。
2010-02-24 14:19:12でも一方では、何ひとつ終わりはしない。彼女にはそれがわかっている。バルセロナのときにはわからなかった。だからその後の何年かのあいだ、ずいぶん苦しむことになった。
2010-02-24 14:19:57でも今は分かる。これが終りではない。何か別のものの新たな始まりなのだ。ここでもそこでも私は勝ち、同時に負ける。その世界では誰もがおそろしく孤独なのだ。
2010-02-24 14:20:15私が自分を褒められることがあるとしたら、それは何かを恐れないことだった。オリンピックという巨大な渦の中に放り込まれて、しかも何も恐れなかった。
2010-02-24 14:21:00それに目を閉じることなく立ち向かい、勝ち、そして同時に敗れた。私は輝かしい夢を見て、同時にそこから覚めた。手強い敵たちと死力を尽くして闘い、同時に彼女たちを愛した。路上で静かに死に、同時にその死を隅々まで生きた。
2010-02-24 14:21:36私は一人の29歳の女性としてここにいる。私自身の二本の脚で地上を蹴っている。最後の坂を上りきり、そして最後の坂を下る。 アトランタはやがて終わろうとしている。
2010-02-24 14:22:03