ホイッスラー《灰色と黒のアレンジメントNo.1 画家の母親》について

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長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

明後日か明々後日に新美のオルセー展に行く予定なので、《灰色と黒のアレンジメントNo.1 画家の母親》について、ちょっと書いてみようと思います。もう行った人にも、これから行くという人にも、記憶に残る作品になればいいなと思ったもので。 pic.twitter.com/sOlZ2lzM6V

2014-07-15 00:14:17
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長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

この作品がアカデミーに発表されたのは1872年ですが、作品を描いたのは1860年代後半とされています。ホイッスラーの母親は1863年にアメリカからロンドンの息子の家に住むようになりました。健康も次第に衰えをみせていたようですが、息子の才能を信じ、彼も母親の愛情に応えました。

2014-07-15 00:15:54
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

その頃のホイッスラーは、自分の進むべき道を模索しているような時期で、リアリズムへの反発、東洋・古代ギリシャとの接触などがあった時でした。注文で肖像画も描いていたホイッスラーが、そんな時、「自分のために」描いたのが、自身の母親、アンナ・マティルダ・ホイッスラーの肖像画でした。

2014-07-15 00:17:05
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

さて、この絵の画面を見てみましょう。室内の狭い空間の中で、横向きに座る全身像の母親を描いています。色調はタイトルの通り、灰色と黒を基調としたトーンで、非常に静かで、「敬虔な」印象を受けると思います。

2014-07-15 00:18:50
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

構図は線的・幾何学的で、背景はほとんど垂直線・水平線で構成されていて、安定した構図になっています。こうした線的な構図の上に、緩やかな線の衣服を着た人物像を置くのは、日本の浮世絵にもみられるもので、浮世絵の効果を狙っている、という指摘もあります。

2014-07-15 00:19:38
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

また、布や画中画が端で切り取られていることは、同時代に普及し始めた写真の影響を、また、幾何学的な構図はデ・ホーホのような17世紀オランダ絵画の影響をそれぞれ指摘されています。こうした多くの源泉から画面を作り出そうとする試みは、ホイッスラーにとって生涯のテーマでした。

2014-07-15 00:21:03
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

左に掛かっている布は、カーテンにも見えますが、着物であるとも言われています。ホイッスラーがこの時期日本の品物を集めていたというのは、この絵に描かれた母親も証言しています。余談ですが、この布の上に、ホイッスラーのモノグラムの蝶のサインが描かれています。探してみてくださいね。

2014-07-15 00:20:17
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

先程の画面の構成、またこうしたタイトルや彼の発言を見てみると(美術史界隈のひとには怒られそうな言い回しですが)、「コンポジション」と呼ばれるような、抽象の萌芽が垣間見えてくるように思えてなりません。

2014-07-15 00:23:38
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

この作品のタイトルは、「画家の母親」の前に「灰色と黒のアレンジメントNo.1」というタイトルがついています。ホイッスラーはこの題についてこう述べています。「母親の肖像は、息子の私には意味があっても、一般の人々にとって、この肖像画のアイデンティティの何を気にかけるのというのか」

2014-07-15 00:22:26
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

信仰の篤かったホイッスラーの母親はこう述べています。「神こそ、かわいい息子に道を踏み外さずに進んでいけるよう、私がすがる唯一の方です」と。ホイッスラーにとって、まさにこの絵こそ、自身の道を指し示す「神様のような」作品となったのかもしれないですね。

2014-07-15 00:24:50
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

最後に、トム・プリドーを引用します。「アンナは、肖像画に不朽の名を残すことになったばかりでない。彼女は偉大なる象徴、威厳と優しさに満ちた母親像として、全世界の母親を喜ばせ、息子や娘たちに安らぎを与えてさえいる。

2014-07-15 00:27:32
長谷川紗花菜 @Hasegawa_Sakana

世俗の生活からはずれ、心身に没頭した日々を送っているかに見える。彼女はまっすぐな椅子に気持ちよく腰かけ、永遠の世界の上に座っているのである。」

2014-07-15 00:29:00