座敷鎮守府◆艦これSS◆その1

座敷犬 @zash_dog

《フライクレーン・アイ3よりフライクレーン・マム、てきかんたいはっけん、せんりょくしょうさいふめい、おくれ》『フライクレーン・マムよりアイ3、了解しました。可能な限り情報を収集、危なくなったら直ぐに戻ってきて、オクレ』《アイ3りょうかい。こうしんおわり》 #座敷鎮守府

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深海棲艦接近を知らせるアラート。先程まで眠りの底に落ちていた僕の意識はすっかり元に戻っていた。時刻は0133。ベッドから転がるように抜けだし、インナーの上から軍装を羽織り、部屋を出ようとした瞬間。「急げ提督！」木曾がやってきた。けたたましくドアを蹴破って。 #座敷鎮守府

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自室から司令室(ミッションコントロール)までは二分と掛からない。駆け足で飛び込むと既にスタッフ達が揃っていた。人間、妖精、艦娘たち。「状況は」「敵艦隊、第一警戒線を突破。20ktで侵攻中」「アイ3――彩雲隊より入電です」新たな情報を持ってきたのは正規空母、翔鶴。 #座敷鎮守府

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《てきかんたいのへんせいかくてい。せんかん1――ルきゅうとすいてい、じゅうじゅんリきゅう2、らいじゅんチきゅう1、ワきゅうタイプとおもわしきようりくかん8》夜間哨戒任務に当っていた妖精からの報告。得られたデータが正面のモニタに反映されていく。 #座敷鎮守府

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「編成(オーダー)。木曾、旗艦を担当しろ。北上、叢雲と陽炎で切り込め。金剛と比叡に砲撃支援(バックアップ)をやらせる。出撃は10分後」「分かった」足早に司令室を去る相棒の背を見送り、各艦とのネットワークを形成。6隻のステータスを示す表示がモニタの右端に加わる。 #座敷鎮守府

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《珍しいデスネー提督、私達がintercept担当なんて》最初に口を開いたのは金剛型戦艦のネームシップ。強力な打撃力を対価に速力を捨てる傾向の戦艦娘の中でも、軽快な機動力を保つ金剛型は日本製艦娘のベストセラーだ。尤もカタコトの彼女、金剛の「本来の」故郷は英国だが。 #座敷鎮守府

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《北上、準備完了したよー》間延びした声。球磨型軽巡洋艦3番艦、北上。木曾の姉の一人。「重雷装巡洋艦」というカテゴリに属する彼女の武器は計40門にも及ぶ魚雷発射管だ。普段の飄々とした態度から考えられない程冷静な照準からの投射は、数多くの深海棲艦を葬ってきた。 #座敷鎮守府

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《準備完了よ》《何時でも出られるわ》陽炎型駆逐艦のネームシップと、特型駆逐艦5番艦の叢雲。片や女子中学生の外見から想像できない程の戦術眼。片や高いプライドを裏付ける戦闘能力。共通するのは高い機動性。キス島撤退作戦を成功に導いた6人の内の二人。 #座敷鎮守府

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《コラ比叡、何時まで寝ぼけてるつもりデスカー？》金剛の叱責。《ね、寝てませんってば！》咄嗟の応答を返したのは金剛型2番艦「比叡」。かつての御召艦。尤も普段の抜けた天然熱血っぷりから想像はつかないが。だが速力と戦闘能力は確かだ。 #座敷鎮守府

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《全艦準備完了だ、提督。指示を》木曾の声。全艦の状態が「ONLINE」である事を確認し、命令を出す。「出撃だ、『魚釣り』に行こう」 前は「天敵の」脅威に耐えるばかりだったが今は違う。奴らにとって「明確な脅威」となった僕たちと、「強敵」たる深海棲艦との戦いが今だ。 #座敷鎮守府

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#座敷鎮守府

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「迎撃艦隊前進開始。会敵予想時刻0201――0158」木曾を旗艦に置いた隊が作戦行動を開始する。モニタ上のグリッド、その右下に6つの緑点が浮かび、艦娘達の座標とリンクして移動する。敵の位置も表示させたいが、彩雲の偵察、尚且つ夜間では然程詳しいデータは取れないのだ。 #座敷鎮守府

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故に駆逐艦の眼が必要だ。「陽炎、叢雲、先行して敵を捜索してくれ」《了解！ 陽炎、前進しまーす》《了解、前進するわ》インカムから指示を出せば、直ぐに応答が帰ってくる。二つの点が他の4つを抜き去る。そうして停止と前進を繰り返し、海域を隈無く捜索していく。 #座敷鎮守府

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二人による一分毎の定時報告のみが司令室に淡々と響く。唾を飲み込む音すら聞き取れそうな程の静寂が10分程続き――《敵重巡発見》ついに途切れた。にわかに司令室が騒がしくなる。索敵情報がグリッドにオーバレイされ、叢雲のスキャンによる詳細情報が画面に追加される。 #座敷鎮守府

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《砲撃許可を出しなさい、ヤツが此方を見つけていない今なら確実に仕留められるわ》 響く声。虚勢の含まれていない、「やれる」確証の籠もった言葉。だが時間は掛けていられない。リ級が単独で現れた事を考えれば、それは斥候である可能性がある。 #座敷鎮守府

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ここで時間を掛けていれば二人は囲まれ、包囲殲滅の憂き目に遭うだろう。そうでなくても他の艦を見逃し続けるリスクは大きい。電光石火の精密な一撃が求められる。一瞬逡巡して――決めた。「許可する。二隻共同の一撃で確実に殺せ」我、夜戦ニ突入ス。二人の宣言。 #座敷鎮守府

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《沈めッ》二人の声がシンクロする。轟く10cm連装高角砲の砲声。本来は艦船に投射して高い効果を見込める装備ではないが、嘗ての大戦の砲熕兵器は深海棲艦に高い効果を示す。ライフル型に改造された砲は本来の能力である毎分19発を安定して射撃する。 #座敷鎮守府

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一撃とは相成らず、それでも二人の攻撃は確実に重巡を葬り去る。陽炎のヘッドセットに内蔵されたカメラの映像がモニタ左上にワイプ。青白い炎に灼かれ、モノクロの人型が沈んでいくのが確認できる――深海棲艦の沈む瞬間だ。《敵重巡排除。偵察を続行するわ》告げる叢雲。 #座敷鎮守府

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直ぐに報告が入る。《揚陸艦よ！ 総数8。ワ級の改造型みたいね》カメラからの映像は陽炎の言葉を裏付ける。《どうするの？》「スキャンだけして偵察を再開。他の奴らは多分後方だ。余り立ち止まっては駄目だ、撃たれるぞ」陽炎に返す。既に此方は見つかっていると考えるべきだ。 #座敷鎮守府

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グリッドに浮かび上がる赤い点6。データリンクに流された座標情報は直ぐ様他の四隻に伝わる。「木曾、北上、揚陸艦の殲滅を頼む。金剛と比叡は待機を継続、何時でも撃てるようにしてくれ」金剛と比叡は動かさない。機動戦でなく、確実な長距離砲撃こそが彼女等の役目だ。 #座敷鎮守府

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「甲標的リリース。さて、ギッタギタにしてあげましょうかねー」北上の威勢のいい声。雷撃戦の時にだけ見られる彼女の一面だ。彼女の背部から切り離されたのは特殊潜航艇、甲標的甲型。45cm魚雷を二本搭載したこの奇襲兵器は航空機に似た性格を持つ。木曾も姉に続き甲標的を分離。 #座敷鎮守府

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軽巡洋艦北上は特攻兵器「回天」の母艦だった、と記録にはある。普段は飄々とした彼女も「特攻」「回天」という言葉には強い嫌悪を示す。だが、甲標的なら話は別だ。何より嘗てのメソッドは特殊潜航艇の運用には最適だった。グリッドに表示される二つの点。 #座敷鎮守府

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「レヴィアタン1、レヴィアタン2、正常に分離を確認。母艦との通信リンク構築完了」 オペレータの報告。航空機や甲標的は司令室のオペレータの補助付きで運用される。「レヴィアタン」と称されるそれ等は、小柄ながらも海の悪魔の名に相応しい能力を発揮する。 #座敷鎮守府

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甲標的を切り離した雷巡は速い。3分程で接敵を迎える。「北上、木曾、交戦開始。5インチ砲の迎撃を受けているようですが現在の所損傷無し――魚雷発射体制に移行」《20門の酸素魚雷、2回行きますよー》《本当の戦闘って奴を、教えてやるよ》横一文字に並ぶ揚陸艦隊との同航戦。 #座敷鎮守府

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映像は木曾の艤装に仕込んだカメラから。敵艦隊の目の前を全力で横断していく二人。脚部に装備された魚雷は向けられないが、腕部或いはバインダー装備の魚雷発射管から次々と61cm酸素魚雷を投射していく。見えない航跡。二人が敵艦隊を通り過ぎた後数秒の静寂が訪れ―― #座敷鎮守府