朝ピノ4

朝ピノ4
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伊月遊 @ituki_yu

朝ピノ 四日目 「朝ピノって、知ってる?」 と、ヨッコがそんな事を言ってきた。 私はというと、丁度お気に入りなショートケーキに載ったイチゴを口に入れたばかりである。 「ひらひゃい(知らない)」 「ええー、ホント?今スゴい流行ってるのに」 #朝ピノ

2014-07-27 16:00:54
伊月遊 @ituki_yu

またこの調子である。 ヨッコは流行ってる物があるとすぐに飛び付くのだ。この前も、やれ 「野々村議員って知ってる?」 だの 「STEP細胞がすごいんだってー」 だの言ってくる。 その度に私は「知らない」とだけ答えると、彼女は嬉しそうに「えー、本当?」と驚くのである。#朝ピノ

2014-07-27 16:03:56
伊月遊 @ituki_yu

「またヨッコの『知ってる?』が出た」 とおどけた口調で言ってからスムージーのストローをくわえるのは、私たち共通の友達であるミナエだった。 それを聞いて「またって何よ、本当に流行ってるんだってば」とふくれっ面になるヨッコ。#朝ピノ

2014-07-27 16:08:38
伊月遊 @ituki_yu

これもいつもの流れ。いつもの三人組で、いつもの店、いつもの会話だ。 口の中にあるイチゴを飲み込んでから、私は仕方無しに聞く。 「それで、その朝ピノっていうのはどういう物なの?」 すると彼女は待ってました!と言わんばかりの笑顔で話し始めた。#朝ピノ

2014-07-27 16:14:47
伊月遊 @ituki_yu

「うんとね、ピノってあるじゃんか」 「ピノって、あの、アイスの?」 「そう、それそれ」 「それをさ、朝に食べるとなんか、凄いことになるんだって!」 「凄いこと、って……具体的になに」 「色々。人によって違うんだってさ。でもB組のエミちゃんも朝ピノでカレシが出来たんだって」#朝ピノ

2014-07-27 16:17:14
伊月遊 @ituki_yu

「ふぅん」と適当に返事しながら、テーブルの上に置いてあったポテトを一本口に運ぶ。若干冷めてるが、それなりに美味しい。 「それでさ」 ヨッコが身体を乗り出しぎみに言う。 「私たちもさ、やってみようよ、朝ピノ!」 ほらきたこれだ。 #朝ピノ

2014-07-27 16:21:18
伊月遊 @ituki_yu

こうやって流行りの物があると、いつも私たちを巻き込むのが彼女流なのである。 ミナエと私の大きなため息が店内の一角に唱和した。 「ヨッコ、ねえ、良い?いつも言ってるんだけどさ、世の中にはそんな美味い話や面白い話なんて何も無いのよ」 #朝ピノ

2014-07-27 16:25:57
伊月遊 @ituki_yu

「この世には宇宙人や未来人なんて居ないし、ましてやペンダント一つ買っただけで札束一杯のお風呂に入った人なんて居ないんだってば」 そう言ってミナエがたしなめるも、そんなこと彼女は聞いちゃ居ない。 ただ「えー、でも居た方が面白いじゃんか」 と笑顔のままだ。 #朝ピノ

2014-07-27 16:29:15
伊月遊 @ituki_yu

「とにかく決まり。うん、決まりね!今週末はミナエの家に集合ー!」 そうやって強引に話を打ち切る彼女は実に彼女らしい。そして実験場は、相も変わらずミナエの家だ。 #朝ピノ

2014-07-27 16:33:13
伊月遊 @ituki_yu

「まあ、聞いてくれると思ってないけどね……」 と言ってもう一度深くため息を付くミナエに、私はいつものように肩にポンと手を置くのであった。 #朝ピノ

2014-07-27 16:33:47
伊月遊 @ituki_yu

  「―――みんな。準備、良い?」 とヨッコが神妙な顔付きで話す。 私とミナエは「あーい」とやる気なく答えながら、小さなアイスを持った右手を上げた。 それを見て「もー、ちゃんとやってよー」と、ヨッコは仏頂面になる。 #朝ピノ

2014-07-27 16:36:06
伊月遊 @ituki_yu

あれから丁度三日が経っていた。 あれが水曜、と言うことで今日は土曜日である。 週末ということで、私たちはヨッコの言った通りミナエの家に集まっていた。ちなみに現在時間は午前6時、早朝である。 #朝ピノ

2014-07-27 16:38:54
伊月遊 @ituki_yu

折角の休みの日。ずっとベッドから出なくても良い素晴らしい日だというのに、眠気に負けずに律儀にこんな与太話につき合うなんて、ああ、私たちはなんて友達思いなのだろうか。 ……と言って無い胸を張りたい所なのだが、事実は大きく異なる。 #朝ピノ

2014-07-27 16:42:47
伊月遊 @ituki_yu

私はいつものように惰眠を貪ろうと、ミノムシよろしくベッドにくるまっていたのだ。 しかしそこに件のアイスを大量に抱えたとある女性が来襲、あっと言う間に毛布を取ると、起きろ起きろの大連呼。 そしてパジャマから着替える間もなく、腕を引かれて着いた先はミナエの家である。 #朝ピノ

2014-07-27 16:45:51
伊月遊 @ituki_yu

勿論とある女性とは、言うまでも無くヨッコである。 つまり平たく言うと、無理やりここに連れてこられたのだった。 ちなみにこの部屋の主も今現在、パジャマ姿で大きなあくびをしている。どうやら同じ様に無理やり起こされたみたいだ。 #朝ピノ

2014-07-27 16:49:41
伊月遊 @ituki_yu

「こんな早朝にやる意味なんて無いんじゃないの?」とかそういう話は彼女には通用しない。だから私たちは何も言わず、半ば諦めきった表情で眠い目を擦るのであった。「いざ開戦!」という何だか良く分からない号令に力無く答えつつ、ヨッコは勢い良く、私たちはもそもそとアイスの袋を開ける。#朝ピノ

2014-07-27 16:52:30
伊月遊 @ituki_yu

その途端に、 「ふ、ふわぁぁ……!なにこれっ!」 思わず私は大きな声を出してしまう。 だって仕方無い。袋を開けてすぐに、とんでもなく良い匂いが漂ってきたのだから。 #朝ピノ

2014-07-27 16:57:42
伊月遊 @ituki_yu

「これ、すごっ……!」 「えぇ、ただのアイスの筈なのに!?」 口々に騒ぎ立てる私たち。 余りに魅力的な香りに、私はさながらヘンゼルとグレーテルに出てきたお菓子の家に入り込んだ様な、そんな錯覚を覚える。 しかもここには怖い魔女なんて居ない。有るのは目の前のピノだけだ。 #朝ピノ

2014-07-27 17:00:46
伊月遊 @ituki_yu

「たっ、食べよう!早く食べようよ!」 ヨッコがいよいよ我慢できないといった様に叫んだ。 でもそれを「待って!」と声で止めるミナエ。 「絶対おかしいって、こんなの!ただのアイスからこんなに良いにおいがする訳無いわ!」 #朝ピノ pic.twitter.com/8BHFSZAJRe

2014-07-27 17:05:56
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伊月遊 @ituki_yu

ミナエは何を言っているのだろうか。食べ物から美味しそうな匂いがしても、別におかしな事じゃ無いだろう。 ましてやまずそうな匂いがする食べ物なんて食べたくない。 「つまり、これはただの美味しそうな食べ物な訳で……?」 いや、何かおかしい。私は慌てて頭を振る。 #朝ピノ

2014-07-27 17:08:03
伊月遊 @ituki_yu

まだ頭の中に薄いもやの様な物が張っている感覚だが、多少は冷静になった。 ミナエの言うとおりだ、こんなの明らかにおかしい。 何故先ほどの私は何の疑問も抱かなかったのだろうか。 違う。何故、疑問を『抱けなかった』のであろうか。 #朝ピノ

2014-07-27 17:10:52
伊月遊 @ituki_yu

駄目だ、頭がぼうっとする。 徐々に何も考えられなくなる。 やがて頭のもやが真っ白に染まっていき、何も見えなく、何も聞こえなく。 何も。 何も。 ガサリと音がした。 急に視界がクリアになる。 視線を落とす。 右手に、ピノがある。 なあんだ、これだったのかぁ。 #朝ピノ

2014-07-27 17:14:21
伊月遊 @ituki_yu

  「落ち着いて!ねぇ、みんなどうかしてるわ!」 何かがうるさい。 でも、もう何も聞こえない。 ここにあるのは、ピノと、私だけ。 口を開ける。 右手を近付ける。 そして、 #朝ピノ

2014-07-27 17:16:08
伊月遊 @ituki_yu

口の中にピノ入れた瞬間、完全に雌入っちまったですわ。もうたぎってたぎって仕方ねぇのですわ。 「キマシタワーーーーー!!!!」 もう辛抱いられませんわ。わたくしは居ても立っても居られずにパジャマを脱ぎ捨て、産まれたままの姿で部屋を飛び出したんですわ。 #朝ピノ

2014-07-27 17:20:58