不知火に落ち度はない その13

@yamoto 氏の #不知火に落ち度はない をまとめました。 以下本家より抜粋 【不知火に落ち度はない】 続きを読む
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神通教官の回

yamoto @yamoto

事務仕事を終えて──夜。自室の前。 俺はいよいよもって緊急事態になりつつあると、ため息を吐いた。 なぜなら、幽霊のようなものが、俺の自室の前にいたからだ。 月の相手を照らし、薄闇の中にいるソレを浮き彫りにしていた。 それとは──神通であった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:17:25
yamoto @yamoto

いったいいつから居たのだろうか。 時刻は午後の9時を過ぎている。 両手で大事そうに紙切れを抱え、その横には物騒な気配しかしない布袋が立てかけてある。 まさか飯も食わずに──とかは考えたくなかった。 どうする? このまま何も言わず引き返して…… #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:22:07
yamoto @yamoto

あ、目があった。 こっちに気づくと、一礼された。 逃げ道なくなったぞ、これ。 どうするんだよ、もう。 「よ、神通。久しぶり」 片手を上げて挨拶をしてみる。 ここで罵倒の一つでも飛んでくれば、と思うのだが。 そうは問屋が卸してくれなかった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:24:32
yamoto @yamoto

「……どうもこんばんわ……です」 気弱なアジアンビューティ代表と言える神通は、か細い声でそう返してくる。 こいつがこの間木刀を振り回し、追い詰めに来た奴と同一人物とは全然思えない。 街角に立ってたら、さぞ面白半分で寄ってくる男が続出することだろう。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:32:12
yamoto @yamoto

ただし、中身は猛獣とさほど変わりがない。 あの布袋の中身、当ててやろうか。 絶対真剣だからあれ。間違いなく人が殺せるものが入ってるから。 「はいこんばんわ。こんな時間に何か用か?」 「……あの……その」 もごもごと言いづらそうにする。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:38:13
yamoto @yamoto

知ってる。その紙切れが何かもわかってる。 今日で10通目ぐらいになる果たし状だ。 中身は毎回読まずに捨ててるので、何が入ってるかは知らない。 おそらく──今日もすっぽかしたら、ドアの前にでも置いたのだろう。 「これ、読んでください」 やだ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:46:54
yamoto @yamoto

俺は手紙を一応受け取りつつ、中身を開くのはやめたいところ。 開けた瞬間、お前を殺す宣言が実行化されるシステムだからな。 そいや決闘罪ってあったよな。あれって艦娘にも適用されるんだろうか── とまで考えてやめる。 部下をしょっ引かせるのとか良くない。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:54:05
yamoto @yamoto

「じゃあ、読んどく。わざわざ待ってて貰って済まんね」 果たし状はポケットへ。 ドアの鍵を開けて中へと入ろうとし。 ──袖がつん、と突っ張る。 振り返ると神通が、わりと涙目で俺の袖を掴んでいたわけで。 「嘘は……いけないと思います」 ばれてーら。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 02:59:32
yamoto @yamoto

「嘘じゃないとも。これから──」 「部屋に入って、破り捨てるのでしょう……?」 うん。ばればれですか。 こりゃ逃げ場ねーな。 「シンプルに行こう。神通」 「……?」 「お前、何がしたいんだ?」 月が雲を払い、神通を照らす。 目がこちらを見上げ── #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:08:32
yamoto @yamoto

「月が、綺麗ですね」 は──? えーっと。 うん? 何だっけか。聞いたことがある一説だが。 「まあ、綺麗だな」 としか言いようがない。 まさか月見に付き合えとでも言うのか。 果たし状って、名月を見るお誘いの手紙だっけか。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:16:48
yamoto @yamoto

「………あの……」 「まさか、これ月見の話だったりするわけか?」 果たし状を差し出しと言うと、首を振られる。 「……1日」 「うん?」 「……1日じゅ、お話……しま……せんか?」 話し合えと。 「話し合うのはいいが、何についてだ?」 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:32:53
yamoto @yamoto

「……あ、あの……その……」 首を左右に振られる。 よく見ると涙目である。 なんだろうか。これ開いて読んだ方がいいのか? 会話よりそっちの方が早い気がしてきた。 しかし、直接言えと言ってしまった以上付き合う必要有り。 選択肢を間違えた感強い。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:35:28
yamoto @yamoto

「……みそ……」 「おう。みそ?」 「お味噌汁……好きですか……?」 「おう、わりと」 本題からずれた気がするが、まあいい。 話に付き合うと決めたのだ。とことん付き合ってやろう。 しかし神通、これでよく教官できるもんだ。 コミュ障度高し。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:39:26
yamoto @yamoto

「そうな。……あさげ、ってあるじゃん?」 「え……は、はい!!」 あ、急に大声になった。 神通のコミュ障度、俺の中でアップ。 「あれの麦味噌が旨いんだぜ。知ってたか?」 「そう……なんです……か」 表情が見るからに陰った。 麦味噌派ではないらしい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:42:59
yamoto @yamoto

「……あ」 「悪い、煙草吸って良いか?」 「あ、……はい、どうぞ」 何だか長期戦になりそうなので一本頂くことにする。 こないだから、携帯灰皿を持ち歩くことにしたのだ。 俺の部屋の前だから、別に吸っていいしな。 すぱあ。 ふう。 煙草うめえ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:51:20
yamoto @yamoto

すう、はあ。 まるで俺の煙草のリズムに合わせるように、神通が深呼吸を始めた。 ここでしびれを切らしてはいけない。 言いたいことを言うまで待ってやる。 できる上司になるために、って本の受け売りだがな。 こう見えても俺、努力してるんですよ。それなりに。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:56:21
yamoto @yamoto

「あ……あい」 「うん。あい?」 お、何か言い出した。 腰を折らないように、続きを促す。 「あ……アインシュタインの名言、わかりますか……?」 「神はサイコロ遊びを好まない、なら知ってるな」 青菜に塩、って知ってるか? 今の神通の表情まさにそれ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 03:58:37
yamoto @yamoto

「……えっと。そうな」 考えたら部屋の前で、話し続けるのもアレだ。 やましことは何もないわけだし。 あの布袋の中身は気になるが、とりあえず部屋の鍵を開けよう。 汚い部屋で悪いが、上げて話をした方がよさそうだ。 「ちょっと待ってろ。鍵を開けるから」 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:05:11
yamoto @yamoto

えっと……どこやったけな……鍵、鍵と。 ごそごそと懐を探るが、出てくるのはレシートと煙草の箱と財布ぐらい。 こういうときスマホが鍵になってるタイプでないのが悔やまれる。 本格的に探さないとダメかもしれないな。 とりあえず果たし状はしまって……と。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:09:15
yamoto @yamoto

「!!!」 ぐっと。 その瞬間手を強く掴まれる。 「……あ、あ、あ…っ!」 ぱくぱくと、まるで陸に上がった金魚のように神通は口を動かした後。 「今一度、立ち会いをお願いします!!」 俺の腕を掴みながら言った。 やっべこれ。逃げられないじゃん。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:15:05
yamoto @yamoto

「えっと……真剣か?」 「はい、真剣です!」 マジで。 聞きたくなかったけど真剣だったのかやっぱ。 「竹刀でやらないか?」 「できません!」 マジでか。 俺をどうやら本気で屠りたいらしい。 まあ10通も送ってきたんだ。 それぐらいあって当然か。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:16:43
yamoto @yamoto

どうするよ。 神通の腕前──しかも、真剣となるとガチで命懸けになる。 もう手加減とか言ってられない。 しかし、それで打ち所が悪かったら、貴重な艦娘を失うハメになる。 いわゆる過失致死ってやつだ。 それは俺が責任を問われるし、そんなん俺も嫌だ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:22:30
yamoto @yamoto

「条件があるが、いいか」 「……」 こくり、神通が頷く。 「まず一つ。お前が本気なら、俺も本気にならざるを得ない。 万一の時は──恨んで良いぞ」 「……もとより、覚悟はできています」 それで怖じ気づくどころか、寧ろ瞳を輝かせる。 凛々しいなお前。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:35:35
yamoto @yamoto

「で、二つ目。俺が勝ったら、以後こういうの、なしな」 「え──?」 意外そうな顔をするな。 何? 真剣での犠牲者を出したいのか、そんなに。 その刀、絶対妖刀だろ。 「分かったら返事」 「は、はい……お約束、します」 よし、あと一個だ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:42:10
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