rsbs日誌#17

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　雷鳴なり響く大雨。暗黒の曇天が地上にあるもの全てを叩き、濡らしてゆく…まるで何かを洗い流さんとするかのように。まるで数日は止みそうもない…匣舟を運んだ大洪水でも起きているのではないかと思える程に…

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#rsbs日誌　号泣した涙の様な、大粒の重い雨を唐笠が遮る…数人の艦娘を引き連れた、人影が見えた…歩哨が小銃を構えながら問い掛ける。「失礼ですが、お名前を」利根型に傘を差させていた小柄な司令官は…暗がりの中でも目立つ紅い眼を歩哨へと向けた…

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#rsbs日誌　「横須賀鎮守府所属、比良坂巴提督である」そのか細く可憐な相貌から放たれたとは思えぬような、ねっとりとした声が放たれた。歩哨は身震いしたが、提督へと敬礼を返した。「失礼致しました！基地司令が、中でお待ちです」「任務ご苦労…」短く呟き、彼女らは門を抜けた。

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#rsbs日誌　「つくづく、、趣味が悪いのう」唐笠を持っていた利根が呟いた。「比良坂とは、全く質が悪い」「今更言うた所で始まらんのじゃよ、利根よ」銀髪を揺らした少女が声を掛けた。「この罰当たりと来たら、意味を知る者を見ると厭らしく嘲う始末じゃ」初春はやれやれとばかりに頭を振った。

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#rsbs日誌　「何、細やかな遊び心と言うものじゃ」くくく…と笑いながら、提督は呟く。「生と死の上で輪舞を舞う愚か者には似合いの偽名であろう？」「まぁ…其れ位の気概がなければ妾らの提督なぞ勤められんじゃろうがのう…」嘆息しながら、初春はぼやいた。

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#rsbs日誌　「吾輩は憐れな女郎蜘蛛にでも心を寄せている物かと僅かながら思うたりしたがのう」利根の言葉に、提督は小さく俯いた。「…あの御仁はまこと美しかった…わしが唯一怖れずに居られる蜘蛛じゃよ」寂しげに、懐かしげに提督は呟いた。

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#rsbs日誌　「さて…無駄話は終いじゃ。嫌な空気がするのう」帽子の唾を僅かに持ち上げ、大雨に霞むぼんやりとしか見えない鎮守府を見上げる。普段は美しく見えるであろう、白いモルタルで化粧されたそれは嫌におどろおどろしく見えた…

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#rsbs日誌　「比良坂提督。お待ちしておりました。御足労戴きありがとうございます」「構わんよ。帝からの願いでもあるでな…して、件のモノは…？」体格の良い、齢30程の基地司令官と握手を交わしながら提督は用件を問うた。「医務室です。二人とも…詳しくは道中で」

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#rsbs日誌　電灯で照らされても尚薄暗く感じる廊下を提督たちは歩いていく。壁にカツンカツンと反響する靴音は何処か寒々しかった…「高雄型重巡洋艦艦娘、高雄並びに愛宕を、貴女に救って欲しい」「わしゃ神ではないぞ」提督がぽつりと呟いた。茶化すわけではなく、ただ淡々と…だ。

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#rsbs日誌　「彼女らは南方での陸軍の戦闘支援に当てられていました。主な任務は陸軍艦艇の護衛並びに敵陣地への艦砲射撃、その他戦闘の雑務…」「陸さんも躍起じゃからなぁ…」「そして悲劇が起きた。はぐれらしき南方棲鬼が現れた」遠く、雷鳴が轟いた。

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#rsbs日誌　「僅かに重巡洋艦二隻で、南方棲鬼を抑えられましょうか？答えは否。彼女らは陸軍と共に惨めな撤退を取らざるを得なくなった。陸の上に…」医務室を前に、基地指令は立ち止まった。「それから数ヵ月間、録な補給も無かったそうです」

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#rsbs日誌　医務室の扉が開かれ、彼らは白いカーテンの森へと足を踏み入れる。消毒液の、鼻をツンと刺す独特の匂い。床もシーツも、清潔にされては居たがしかし…拭いきれぬ記憶が沸き立っていた。床板の隙間にこびりついた、僅かな血やオイルが…

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#rsbs日誌　「我々の艦隊はどうにか陸軍の生き残りと、彼女ら二人を無事に保護しましたが…しかし、彼女らの容態はあまり回復しません。入渠させ、整備妖精にも重検査を行って頂きましたが結果は芳しくなく…」提督はカーテンで区切られたベッドの前に立つと言葉を区切った。

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#rsbs日誌　「今や彼女らは、こうなってしまいました」静かに開けられたカーテンの奥には、痩せ細った二人が静かに横たわっていた。膨よかな胸も今や控えめな物となっていた…「栄養失調そのものじゃな」提督は呟いた。しかし、ここまで痩せ細るのは珍しい…

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#rsbs日誌　「端的に問おうか。どんな症状じゃ？」眠る高雄の頬を撫でながら、提督は問い掛けた。彼女の細い手は妹の愛宕の手と結ばれていた。「拒食症の栄養版と申しましょうか…失礼。此の様なあやふやな答えしか持ち合わせて居らず…」「いや、よい」

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#rsbs日誌　高雄の頬を撫でた指先はかさつきを感じて居た。乙女の張りの良さは無く、只々、肌が其処に在るだけの様に感じられた。「吸収不良症候群…と言ったかのう。そう言う病もあるそうじゃが、これはちと違うな…」「では、何なのでしょうか？私達にはもう、皆目見当が…」

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#rsbs日誌　提督は、小さく笑みを浮かべた。だがその笑みは珍しく…何処か困った色も含んで居た。「簡単な事じゃよ。至極簡単なことじゃ。魚を食べる鯨には魚を与えてやればよい。と言う訳じゃ」失礼する。と一言呟くと提督は懐から小さなナイフを取り出した。

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#rsbs日誌　ナイフの刃は黒く輝き、良く研がれて居た。其れを提督は、自分の手に僅かに押しあて、小さな切り傷を作る。白磁の様な肌に薔薇よりも尚紅く鮮やかな血が、ぷつぷつと湧き出した…それを指先に掬い取ると、提督は高雄の鼻先に近付け、僅かに唇に血を濡らせた。

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#rsbs日誌　「それは、何かの呪術ですか？」沈黙に耐えきれず、基地司令は問うた。「いんや。呪術ではない。只調べておるだけじゃ」提督が、そう言うや否や高雄の鼻先は小さく揺れ、舌先が唇の鮮血を小さく舐めた。まるで唇に落とされた最後の一滴の水を味わうように。

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#rsbs日誌　「答えは出たのう…基地司令よ。汚しても構わぬ部屋を一つ貸して戴きたい。盛大に汚してしまうじゃろう。そして二人をその部屋に運んで欲しいのじゃ」「構いませんが…何を為そうと言うのですか？」ハンケチで手の傷を拭き、瞬く間に傷を消した提督に彼は問う。

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#rsbs日誌　「何…他愛ない事よ」勿体ぶるように呟き、指先に残った鮮血を紅の様に己の唇に塗り、提督は答えた。「空腹の痩せた狼に熱い鮮血の滴る旨い羊を喰わせてやるだけよ。其れも腹一杯、好きなだけじゃ。赤ずきんが血のワインを飲み、親の肉を狼に喰わせて貰った様に」

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#rsbs日誌　急遽、物置として使われていたコンクリ塗りの小部屋を提督は手に入れた。水拭きされ、埃も無くなった冷たい部屋にマットを運び込ませる…「一言先に断っておくのじゃがな」煙管を燻らせながら基地司令へと語り掛ける。紫煙はゆらゆらと妖しく蠢いていた。

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#rsbs日誌　「恐らく、この部屋は暫く使い物にならんじゃろう。それを承知の上で、わしに任せて欲しい…」「…はい」「細やかじゃが、汚した事の賠償金みたいなもんじゃ。取っておくがよい」懐から札束を取り出し、提督は渡した。「…受け取れませんよ」

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#rsbs日誌　「ならん。これを払わねば為らぬ程の事をしようと言うのだ。わしは」頑なな視線に、基地司令は仕方なく受け取った。「願わくばわしの鎮守府でやりたかったんじゃが、あの疲弊振りでは儘ならんからのう」少し苦々しげに、提督は呟いた。