【詩小説、レッズ・エララ神話体系】セリゼ・ユーイルトット(ほうき星町の人々)

詩と小説のあわせ技(詩小説)です。 これは第一回です。何回か、この「血の吸えない最強の吸血鬼」の過去話が続きます。 「ほうき星町シリーズ」の過去に書いた話は「小説家になろう」「note」で過去にアップされております。 http://ncode.syosetu.com/n7900bs/ https://note.mu/modernclothes24/m/mc6b011e4a4d3
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8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

この物語は、ある吸血鬼の話である。彼女は血が吸えない。生まれてからこのかた血がすえない。吸血鬼足り得ない吸血鬼……だが、現存する誰よりも「強くなりえる」吸血鬼だった。いまはまだそのときではない。だが少なくとも40年の月日をたてば、旧来の動物のほとんどは駆逐される。 1

2014-08-05 21:23:45
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

この物語は、そんな「出来損ないの吸血鬼」の話である。死は彼女にとって怖くはなかった。怖かったのは……気持ち悪かったのは……苦しんだのは……いわゆる同胞というものである。吸血鬼コミュである。生まれてからこの方、彼女に味方した吸血鬼というのはいない 2

2014-08-05 21:25:12
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

まるで刃物を突き刺すかのように、彼女は「先生」の説いた「魔術ドーピング」を自らに行った。先生が言っていた言葉は正しかった。はじめの投薬による「遺伝子書き換え」は、処女膜を破るのの50倍は痛かった。出産の経験はないが、体内からウニの群れが出るかのような感覚だった 3

2014-08-05 21:27:27
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

魔術ドーピング。それは、体に、心に、脳に、実存に、魔術という「スミ入れ」でもって刻み込む魔術式である。それをリアルタイムで何回も何回も何回も何回も。人間凡夫が一度行うたびに失神する魔力の量。それを絶えず「投与=刻印」していないと、己を書き換えることは出来ない 4

2014-08-05 21:29:34
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

元来吸血鬼は痛みに強いものである。自在に痛覚を遮断できる……ある程度までは、であるが。もちろん、凡百の吸血鬼を凌駕するセリゼという少女は、どのような痛みも耐えることができた。だが……問題は、痛みではなかった。自分が、「何者か」になってしまうことだった。師は、それを畏れた 5

2014-08-05 21:31:22
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

それはこの世に誰も「仲間」「同類」がいなくなる、というのと同じことだからだ。彼女を助ける者が、老魔女の知己たる、「父」……ユーイルトット第13代公爵以外、いなかったというのも知っている。だが、彼女は、まさに吸血鬼でもない、「ナニカノイキモノ」になってしまうのだ 6

2014-08-05 21:33:01
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

彼女のこころを推し量るものは、「そうなって」しまった彼女には、もはやいまい。人外の果ての人外。全き孤独。ちょうどナユタに広がる海の中にただよう資源ゴミの醜悪さと同じように。……そこまでして、彼女を「強く」する必要はあるのか。老魔女は、悩む 7

2014-08-05 21:35:12
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

老魔女は自分の魔術ドーピングの達成度を疑っていない。でなければ「体格差50倍の巨人族の群れを独りで虐殺した」ということをなしえることなど出来なかったではないか。魔術ドーピング。それは思うがままに自分の限界を書き換える理(ことわり)……理の外にある理。8

2014-08-05 21:37:55
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

魔術ドーピング。それに求められるのは「耐えること」と「捨てること」。覚悟などわりにどうでもいい。覚悟は、正義のためのものだ。そうではない……魔術ドーピングという「存在の書き換え」に必要なのは、自分に対する嫌悪と、世界に対する嫌悪だ 9

2014-08-05 21:39:46
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

そのことを懇懇とセリゼに説教しなかったのは、老魔女がセリゼを「同類」だ、と、まるで足元を流れる静かな水脈のように悟ったからだった。闇の中で、闇を呼吸して、闇の中でなんらかの栄光を得るモノ。生まれたことが間違った存在。それは、……よくわかる。わかってしまう。10

2014-08-05 21:41:15
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

同情じゃない。眼前で、人間凡夫だったら発狂してしまう「ステップ1」の魔術ドーピングにのた打ち回る弟子を、同情などするものか。 ……私が通ってきた道なのだから。私は、きっと、この娘を生かす義務がある。11

2014-08-05 21:42:32
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

多くの弟子を育ててきた。その中には、結局下衆の道に進んでしまった者もいた(ケジメということで彼女はその不肖を殺した)。だが目の前にいる貴族の娘は……なんらの「貴族の優雅と愉悦」を覚えることなしに、ただ屈辱をのみ飲み込んできた娘は…自分が通ってきた「ナニカ」にひどく似ているのだ12

2014-08-05 21:45:09
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

ああそうか、私はきっと、セリゼを救うことで、自分を救うという自慰をしているのだ―― そのような諦観に、老魔女は襲われた。三秒、嘔吐感に襲われた。だが、それは飲み込むべきなのだろう。このステップ1の苦痛の次には、ステップ2の「ねじ切り」が待っている。ステップは全部で12。 13

2014-08-05 21:47:06
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

それもセリゼ仕様のものなのだから……ああ、ああ、これが私の最期の仕事、か。老魔女は、そろそろやってくる自分の死期を悟っている。 だが。 だが、自慰であろうと。 だが、暗愚の自己肯定であろうと。 眼前の弟子を、最後の弟子と愛すことに、一片のためらいもなかった。 14

2014-08-05 21:48:52
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

【twitter詩小説、レッズ・エララ神話体系「ほうき星町の人々」】セリゼ・ユーイルトット 3【過去話】 つづく (全部で五話)

2014-08-05 21:49:54
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

夢を見た。遥か彼方まで光が広がっていく空間で、ひとりの青年が私(セリゼ)に偉そうに語りかけてくる夢だ。明晰夢ってやつだ。けど私はどうすることも出来ない。身体はひどく歪んだように、カナシバリにあって身動きとれず。そのくせ意識だけはきちんとしっかりしている。二律背反感覚。1

2014-08-13 15:03:36
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「よおーこそ、出来損ないの吸血鬼。これから前人未到の力を得る吸血鬼」実にへらへらした声でその青年は語りかける。だがなぜか、口答えはできなかった。魔王を相手取ってるわけでもないのに。 「さてもさても吸血鬼……いや、「もと」吸血鬼。いや、もともと、吸血鬼かどうか怪しかったセリゼ嬢」2

2014-08-13 15:05:24
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「君がこの世から三行半を突きつけなかったことをまずは言祝ごう。なぜなら君は復讐の血路山河を渡るべき宿命に立たされた「モノ」だからだ」 私は機械か。killing machineか。だが私はなぜか言葉が紡げない。これは夢だ、これは夢だ。 「喜べ、君は吸血鬼の全ての弱点を無化する」3

2014-08-13 15:08:51
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「流れる川、大蒜、聖水、心臓に杭、ああ、すべて君にはなんの価値もない、なんの恐れもない!君には、もとより【夜】より授かった無限の膂力と魔力がある。凡夫がアリなら君は天球を背負うゾウだ。ああ、辛かったね辛かったね、君の屈辱は、今まさに覆されそうとしている!」4 #twnovel

2014-08-13 15:12:12
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「そして太陽!ああ、太陽!君はもはや、魔術ドーピングによる遺伝子…いや、「存在」書き換えによって、吸血鬼の悪夢、陽光の煌きを、暖かさを、焼ける暑さを、もうまるで人間のように愛せるのさ!まあ、魔法である程度カバーする必要はあるがね…しかし人間だって日傘を使うのさ!あははははは」5

2014-08-13 15:14:26
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

これは侮蔑なのか、それとも事実なのか。私は思う。これは両方だ、と。這いつくばった白い世界で、私はその男の告げることを聞く…これがご託宣というものなのか?世の巫女(シャーマン)は皆、このような這いつくばりのもとに「価値」を得るのか? 「いやあおかしいおかしい…まさか、この世にね」6

2014-08-13 15:16:27
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「この世に、まさか君のような、特級のイレギュラーが存在するようになるとはね…まさか、己の存在を否定し、別の己として、生きながらにして生まれ変わる者がいようとは。あのような苦痛を経ても!」 …そして、その男は、まるで預言者めいた口ぶりで、 「…驚いている。この覚悟はがこの世界に」7

2014-08-13 15:18:11
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「死んだっておかしくなかった。死んだほうがよかった運命だった。自殺衝動はいつも心の中にあっただろう。それでも、復讐の二文字をタテに貴女は呑みこんだ。存在の否定の果ての、再構築/脱構築でもって、貴女はようやく「ひと」になろうとしている……これを勇気と呼ぶのか」8 #twnovel

2014-08-13 15:19:56
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

「殺意か、誇りか。狂気か、あるいは全うすぎるほどに全うな良識か。……生まれなかったほうがよかったと、何度思った?」 私は、これにだけは答えたかった。 「何度も…死ぬほど何回も……!」 「なぜ、生きる?」 「それを探すためだ…!!」 血を吐くように、いや吐いて。9 #twnovel

2014-08-13 15:22:50
8TR戦線行進曲/レッズ・エララ神話体系 @RedsElrla

私は言う。 「殺すべき奴を殺すんだ、愛すべきひとを愛すんだ、それくらいのことは、人生のなかで許されるだろう……!」 「いずれ貴女の大切なひとは、愛すべきひとは、ガンガン死んでいく。それでもか」 「………………」 「いずれ貴女の大切なひとは、ドンドン殺されていく。確実に。」10

2014-08-13 15:24:51