10周年のSPコンテンツ!
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NJSLYR / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
午前零時を過ぎた。重金属を含んだ酸性雨は高密度ネオン看板の瞬きを吸い込み、濡れそぼった夜にケミカルな色彩を上塗りしていた。編笠を被った市民たちの表情は乏しく、誰もが何かに耐えているかのよう。「安い。安い。実際安い」「アカチャン……」深夜帯を迎え、広告音声はいっそう騒がしい。 1
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POWPOWPOW……自動クラクション発生装置をつけたビークルが絶え間ない騒音を撒き散らしながら水溜りを撥ねると、行き倒れのサラリマンから財布や素子を剥ぐ事に執心していたヨタモノ達が振り返り、キツネ・サインをかざす。高層建築に狭く切り取られた夜空を、マグロツェッペリンが横切る。2
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「とても上がる事!」「日焼けサロン」「中古車」「わ〜なMIRROR店」「賃金馬体系」「たっぷりホットヨガ」。接触不良でバチバチと音を立て明滅するネオン看板の大小。湯気を立てる屋台。混沌。声。死。ここはネオサイタマ。電子的・物理的に鎖国された日本の首都の、あまりに見慣れた光景だ。3
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用のある者、無い者、ビジネス者、ヤクザ、オイラン、観光客、迷子、自殺志願、湾岸警備軍のスカウト、危険業務のスカウト、ファーストフード店の呼び込み、カラオケ店の呼び込み。表通りの喧騒は、このまま黄色い夜明けを迎えるその時まで絶える事がない。一方、路地をひとつ入れば、そこは、闇。 4
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ニンジャスレイヤー「ネオサイタマ炎上」:【バック・イン・ブラック】#1
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「アイエエエエ!」蛍光ゴミの小山に蹴り転がされた男は恐怖と苦痛の悲鳴を上げ、その者を見上げた。「なぜお前がこんな目に遭うか、よもや、わからんとは言うまいな」指骨をボキボキと鳴らしながら再び接近するのは、中肉中背、無地のフード付きPVCレインコートを着た男だった。 5
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「畜生」苛まれた男の手が素早く動いた。男の手元から蛍光ゴミよりも明るい光が発せられた。だが一呼吸の間もなく、その手はPVCレインコート男の足袋によって無慈悲に地べたに押さえつけられていた。民生用プラズマナイフが哀しげに明滅し、アスファルト上をクルクルと転がった。「アイエエエ!」6
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「なぜお前がこんな目に遭うか」PVCレインコート男は繰り返した。「わかるか?オミオマ=サン!」「アイエエエエ!」オミオマはいよいよ悲鳴を振り絞った。手の甲の骨が砕け、その下でアスファルトが砕け、亀裂が広がってゆく。「アイエエエエ!」「わかるか?と聞いているんだ。質問に答えろ!」7
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「カナメ=サンの居場所は!死んでも、アイエエエ!」「質問に答えろ」PVCレインコートのニンジャは冷徹に繰り返した。「なぜお前がこんな目に遭うか」「い、言、」「イヤーッ!」「アイエエエ!」ナムサン!今度は逆の手を踏みしめる!亀裂!「アイエエエ!カナメ=サンを匿ったからです!」8
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「イヤーッ!」「アイエエエ!」ナムサン!もはや両の手は砕け、サイバネ手術をせねばスシ・ユノミを持つこともかなうまい。しかしPVCコートの男は冷徹に繰り返すのだった。「なぜお前がこんな目に遭うか」「カ、カナメ=サンは、その……一人の客に尽くす専属の愛人オイランで……」 9
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「イヤーッ!」「アイエエエエ!」ナムサン!今度は頭だ!今やオミオマは強制的なドゲザ姿勢を取らされている。「質問に答えろ」「カナメ=サンの客はサイバネ・サディストでしたので……苦痛を見かねた私、ボーイのオミオマ・タヤモが……カナメ=サンを逃し、そして匿った為です」「そうだ」10
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PVCレインコート男は足をどけた。「ハァーッ……ハァーッ……」オミオマは今や虫の息である。「俺が命じたのだから、お前は命令に応えねばならん。何をくだらぬ無駄口を叩く」「助けて……」「お前から聞き出す話など何もない」PVCレインコート男は告げた。「カナメの居場所は特定済だ」 11
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「何……」これまでの責め苦よりもなお重い苦しみが、オミオマを襲った。「何だって」「お前は少しやり過ぎた」PVCレインコート男は目を細めた。「そのサイバネ・サディストは、心からカナメを愛しているんだな。奴は己の命をかけた。我々が、奴の生命保険金の受け取り手だ」「何だって……?」12
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「つまり」男は欠伸した。「お前の惨殺体で心を慰めたのち、カナメに対し思う存分、想いの丈をぶちまけて、その後、自殺するんだとよ。阿呆の性癖なぞ知ったことではないが、知っての通り奴は電磁培養納豆コングロマリットの御曹司。将来もある。そいつの死亡保険金は、十分、ビジネスになる」 13
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「ア……」オミオマは震えた。男はおもむろにレインコートを脱ぎ捨てた。その姿を見たオミオマは、陸揚げされたマグロめいて白目を剥き、絶叫した。「アイエエエエ!?ニンジャ!?」おお、ナムアミダブツ……その絶叫ももっともだ。レインコートの下から現れた男の姿!それは紺のニンジャ装束だ!14
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「ニンジャ!ニンジャ!ニンジャナンデ!」「ドーモ。オミオマ=サン。サブシスタンスです」紺のニンジャはわざわざアイサツしてみせた。オミオマはしめやかに失禁した。「なお、カナメの美貌と素質を買って御曹司にマッチングしたのは我々ソウカイ・シンジケートだ。この結末は我々の書いた絵だ」15
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ニンジャの邪悪な目が闇に閃いた。「御曹司の行き過ぎた性癖と自己破滅願望、オイラン損傷願望は、コングロマリット会長にとっても懸念点でな。遅かれ早かれこうなった。次男が後を継ぐことになっている。お前のような馬鹿者が現れるのも想定済だ」「アイエエエ」オミオマはもはや失禁する他ない!16
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「今頃カナメは別働隊が既に確保!なかなかのグッドビズだ。わかるかオミオマ=サン。こんなことをいちいち話してやるのは、お前をこれから惨たらしく……」「オヌシをこれから惨たらしく」笑いを含んだ嗄れ声が、サブシスタンスの背後から湧いた。サブシスタンスは言葉を切り、振り返った。 17
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その時サブシスタンスに押し寄せた感情を、どのように述べたものだろう。信じられぬものを見た。とにかく彼はそう感じた。なぜなら彼はニンジャであった。ニンジャを恐れぬ者など無い。遺伝子に深く刻み込まれた闇の記憶がそうさせるのだ……通常であれば!だが闇の中に光るその目は!笑ったのだ!18
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「ドーモ」闇が膨らみ、人の形の影を産み落とした。影はサブシスタンスにオジギを繰り出した。「……はじめまして。サブシスタンス=サン」バチバチと廃棄ネオン看板が爆ぜ輝き、悪魔じみたその影を……赤黒の装束を着たニンジャの姿を照らし出した。「ニンジャスレイヤーです」 19
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「ドーモ」サブシスタンスは気圧されながらもアイサツを返した。アイサツは絶対の礼儀。オジギをされれば、必ず返さねばならぬ。古事記にもそう書かれている。「……サブシスタンスです」彼はオジギを戻しながら後ずさった。「なぜ俺の名を」「今しがた、そこの男に自ら名乗ったばかりであろう」20
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「バカな!」「アイエエエエ!」オミオマはニンジャスレイヤーのジゴクめいた眼差しにひと撫でされるや、再失禁して泡を吹き、意識を失った。「そしてサブシスタンス=サン。儂は、こうも聴いたぞ」ニンジャスレイヤーは言った。「ソウカイ・シンジケート」21
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廃ネオン看板が再び爆ぜ輝き、メンポ(面頬)に刻まれた禍々しい漢字、「忍」「殺」を浮かび上がらせた。サブシスタンスは心臓を死神の鉤爪に抉り出された。否。恐怖妄想に過ぎない。彼は深く息を吸い、平静を保とうとした。ニューロンが高速稼働し、聞き流した噂を記憶の中から浮かび上がらせた。22
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マルノウチ・スゴイタカイビルを爆発炎上させた昨晩の抗争直後、証拠隠滅の任務についていたニンジャ達を殺害した謎の存在があったと……その者はまんまとその場を逃走し、いまだ発見されておらず……「まさか」サブシスタンスは呻いた……今、こうして彼の眼前に立っている。 23
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「別働隊と言ったな」ニンジャスレイヤーはじりじりと近づきながら問う。「それもニンジャか」「……」サブシスタンスはカラテを構え、無言。「そうか、ニンジャか」ニンジャスレイヤーは目に喜色を滲ませる。何たるニンジャ洞察力!ニンジャスレイヤーは瞳孔収縮から情報を読み取ったのだ! 24
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