スクリューボール・コメディについて私が思い巡らす二、三の事柄

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ロマンチック・コメディとスクリューボール・コメディはどうちがうか？　同じであると考えても大きな問題はない（小林信彦は同じだという説である。）が、スクリューボール・コメディはロマンチック・コメディよりもさらにアクが強く、ひねりが効いていることを特徴として両者を分ける人もいる。

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別のいいかたをすると、スクリューボール・コメディには狂気がそこはかとなく内包されていて、ロマンチック・コメディにはそれがなく、恋愛というものを無防備に讃歌するヌルさがある、という分類も可能かもしれない。

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一般論としては、スクリューボール・コメディの「狂った感覚」は1930年代に色濃い。

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1940年代以降、スクリューボール・コメディの「迅速さ」「狂った感覚」を薄めて、大衆にもわかりやすいものにしたのがロマンチック・コメディなのだと、両者を分ける人は定義づける。僕もそのように二つをあいまいに区別している。

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スクリューボール・コメディは1930年代、ドイツからハリウッド（Paramount）にやって来たエルンスト・ルビッチという大監督によって確立されたジャンルである。

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この頃のアメリカは大恐慌の時代。不況まっただなかの暗い雰囲気を、ゴージャスな設定でいささか狂気じみた笑いで忘れようという観客のニーズにスクリューボール・コメディはマッチした。

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また、この時代は、映画においては、性的な表現が厳しく制限されていたので、台詞や微妙な映像表現によってこれらを表した。それがまた品位を保った表現に繋がり、時にソフィスティケイテッド・コメディとも呼ばれる。

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1940年代に入ると、ルビッチの弟子（元シナリオライター）のビリー・ワイルダーが、マイルドなタッチにこれをアレンジして、ロマンチック・コメディが確立する。一方、ルビッチ的なスクリューボール・コメディの正統な後継者とでもいうべきなのが、プレストン・スタージェスである。

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スクリューボール・コメディは、30年代のルビッチ、40年代のスタージェスと覚えれば、そう間違いではない。しかし、大衆はマイルドなビリー・ワイルダーを選んだ。

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スクリューボール・コメディにおける適正なランニングタイムはどのくらいか？　どうやらスクリューボール・コメディは1時間半くらいを目安にしていたようだ。 『生きるべきか死ぬべきか』　1時間35分 『街角 桃色の店』　1時間36分 『赤ちゃん教育』　1時間42分

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（続き） 『青髭八人目の妻』1時間20分 『或る夜の出来事』１時間45分 『ラブパレード』１時間47分 『教授と美女』1時間51分 『恋人たちの予感』1時間35分 『レディ・イヴ』　1時間33分

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キャラクターの配合 ①ちゃらんぽらんな色男＆お転婆美女 『青髭八人目の妻』 ②ちゃらんぽらんな色男＆（ちょっとヘンな）お堅い美女 『ニノチカ』『シュア・シング』『恋人たちの予感』 ③神経質でおとなしい男＆こわれキャラの美女 『赤ちゃん教育』『猟奇的な彼女』

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スクリューボール・コメディにおけるキャラクター配置図。 pic.twitter.com/OwCKJPeZZG

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明日は、なぜスクリューボール・コメディの男女はすぐにくっつかないで喧嘩ばかりしているのか、その物語の構造についてつぶやこうかな。気分が乗れば。

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スクリューボール・コメディというのは、笑わせてなおかつロマンスの行方を描く映画なので、２つのＬ（LaughとLove）をうまく表現しなければならんというのは当然である。

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で、この笑い（Laugh）の方はシチュエーションよりもむしろキャラクターの配合によって作り出されているという傾向が強い。その掛け合わせについては、このあいだつぶやいた。

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で、Loveのプロットなのだが、これは、最初はギスギス(>_<)であるが後半はスキスキ♡に変化していくというのが一般である。

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では、この二人、最初は憎しみ合っていたが、相手の思わぬ一面を発見して好きになったのかというとそんなことはない。実は最初から好きなのである。

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『赤ちゃん教育』のかなり序盤で、キャサリン・ヘプバーンは「どうしよう、好きなのに」と叫ぶ。さんざん悪態をついていたのに、である。

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『レディ・イヴ』ではヒロインがラストで「わたしたち、どうしてこんなに回り道をしなければならなかったのかしら」という。それは観客もそう思っているからこそである。

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では、なんで好き同士ならばさっさとくっつかないのかというと、それではお話にならないからというのが一番適確な意見であるかも知れないが、これではあまりにも身も蓋もない。

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では、どのようにして、二人がくっつかないようになっているのか？　二人の恋愛の生涯とは何か？　これにはパターンがある。

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①わだかまり系 ソリが合わないと互いに信じている。いってしまえば「わだかまり」である。『青髭八人目の妻』『ラヴ・パレード』『街角 桃色の店』がこれにあたる。

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②敵だから恋愛できない状況にある。 これはわりと書きやすい手法である。『ユー・ガット・メール』は商売敵。『ニノチカ』は共産主義VS資本主義『レディ・イヴ』もこのパターンだと言える。

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③状況があまりにも複雑でいちゃついている場合ではないというパターン。これにはスラップスティック・コメディの手法を導入しなければならない。すごく難しい。『生きるべきか死ぬべきか』がこのタイプの傑作だと思う。