太宰府レポート 断片の一 まとめ

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

『艦これビターエンド合同 薄墨色ノ越流』 梯子屋 usuzumiiro.ikaduchi.com こちらに寄せて、艦これ二次創作SSの掌編を投稿致します。お暇な方は御覧あれ。お邪魔な方は御免なさい。連続でツイート致しますので、各々ご対処下さいまし。#太宰府レポート

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

唸りを上げて砲弾が、風を裂いては過ぎてゆく。朗々と高い青空には千切れ雲が浮かび、海原は穏やかに広がっていた。スリルを求めるには場違いな日和だ。伝書艦“アオバト”は身を捩った。砲撃がその脇を掠める。仄青い干渉光を散らし、制服の加護が抉られる。 #太宰府レポート 1

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「ええい！避けるんじゃないわよ！」「撃っているご本人が仰ると、成程、説得力が違いますね」逃げの一手を打ちながら、アオバトは淡々と返す。伝書艦娘はあくまで非戦闘員であり、碌な海戦能力は無い。追い来る駆逐艦娘のように、何らかの由来を持つでもない。 #太宰府レポート 2

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

深海棲艦の呪威に対抗するため、人工の巫者へ更なる改造を施し、加えて過去の艦艇の霊威で鎧ったもの。それが栄えある日本国海軍の戦闘艦娘である。一方我ら特務艦も卑下はすまい。兵站無くして戦線は維持し得ぬ。仮にもその功労者に銃を向けるとは何事か？ #太宰府レポート 3

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

次々と上がる水柱をパイロンに、アオバトは蛇行した航跡を描く。外部艤装のカメラ眼が全周の光景を伝える。背後、髪を二つに飾り結んだ少女は、駆逐艦『満潮』由来の艦娘だ。追走する満潮の両斜め上方の空間から、それぞれ半透明の砲塔が突き出している。 #太宰府レポート 4

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「止まりなさいったら！」駆逐艦娘の叫びと共に、砲塔が熱の無い爆炎を吐く。撃ち出された砲弾が実体化し、伝書艦の正面で海水を噴き上げた。アオバトに言い返す余裕はない。前へ。受動障壁を頼りに水柱を潜り、直後、左へと急旋回する。 #太宰府レポート 5

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

これで一瞬なりとも追手の目を晦ませたと思えば、甘かった。怒りの形相の駆逐艦が、腰に提げていた蛮刀を二振り、今まさに投じた所である。「冗談じゃ……ッ」当然、首を刈る軌道だ。しゃがむように躱す。吹き飛んだ制帽に指を引っ掛け、アオバトは更に加速を入れる。 #太宰府レポート 6

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

勢いそのまま、蛮刀が遠い海面へ潜り込む。「冗談じゃあない」横目には、絶海の孤島めいた第〇八三九衛星鎮守府のシルエット。アオバトの目的地だ。満潮の所属先でもある。「ガンキ提督の薫陶は、隅々まで行き届いていると見えます」「煩いわね！アンタに何が分かるのよ！」 #太宰府レポート 7

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

海域に散在し、作戦網を形成する無数の衛星鎮守府。その一々を巡って信書を送受達するのが、アオバトら伝書艦(ハト)の任務だ。統括鎮守府から各艦隊へ、本土の家族から提督へ、知己の艦娘から艦娘へ。手紙の内容は多岐に渡り、時には修羅場に巻き込まれることもあったが。 #太宰府レポート 8

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

疾走する。砲声。思考の間。ガンキ専任提督率いる衛星鎮守府の面々は、模範的でこそあるまいが、概ね上層部に従順である。面と向かって統括鎮守府に反抗するとは思えない。加速。回避。着弾。「何が分かるのかって？」挨拶を交わす間も無く、満潮が襲い掛かって来た理由とは？ #太宰府レポート 9

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

武装を捨て、索敵と巡航能力に特化した伝書艦にとって、同じ艦娘は棲艦より余程厄介だ。鎮守府の方角から、追加で数名の接近を察知する。これは満潮個人の暴走か、それとも？ 彼女らは敵か味方か。アオバトは舵を切った。まばらに銃弾が飛来する。 #太宰府レポート 10

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

やることは変わらない。逃げるが勝ちだ。之字で距離を取らんとするアオバトよりしかし、高速で海中を迫る影が一つ。満潮の放った魚雷だろう。こちらへ正確に誘導されている。さらに前方、もう二つの影。先程彼女が投じた二振りが魚雷となり、大きく回り込んできたのだ。 #太宰府レポート 11

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「大人しくなさい。命までは取らないわ！」「優しいことで。お気持ち痛み入ります」前後からの挟み撃ちが完成するより一寸早く、アオバトは急制動を掛けた。振り返る半ば、海面から魚雷が飛び出す。その先端から大きく咢が裂け、鋭い歯並びが剥き出しになった。 #太宰府レポート 12

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

咄嗟に展開された障壁を、口裂け魚雷が容易く噛み砕く。僅かにその勢いが殺される。魚雷の側面をアオバトの回し蹴りが叩く。素材だけ見れば、特務艦も戦闘艦も同じ強化巫体だ。見た目より遥かに頑健である。それでも脚部の装甲越しに、じいんと痺れが伝って来た。 #太宰府レポート 13

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

同時にバランサと緩和制御を切り、外部艤装の重量任せに身を逸らす。がちがちと牙を鳴らしつつ、逆方向から飛び出した魚雷が目の前を横切ってゆく。生臭い息。アオバトは眉を顰めた。残る時間差の一発を防ぐ手立てが無い。せめて片腕を盾に差し出す。 #太宰府レポート 14

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

賭けの片方には、既に勝っていた。変化魚雷が威力を爆発ではなく咬撃に寄せていた点だ。そしてもう一方、舵を鎮守府へ向けて切った結果といえば。目前に迫っていた魚雷の片割れが、突如として両断され、赤黒い断面を見せながら吹き飛んだ。 #太宰府レポート 15

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

残る二発も、切断と衝撃を同時に受けて散らばってゆく。突風に吹かれるように、鎮守府から離れる方向へ。安心すること勿れ。怒れる駆逐艦自身がこちらへ一直線に突き進んでいる。その手前、海面が淡く発光し、艦体の鼻先が斜めに突き出される。 #太宰府レポート 16

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

朝潮型３番艦『満潮』の威容が部分的に顕現されたのだ。艦首を斜面に大跳躍を果たした少女が宙空に手を伸ばす。放物線の先には、分厚い鋼の板が召喚されていた。あれも恐らく『満潮』の装甲だろう。こよりのように鋭く折り畳まれてゆく。少女が荒削りの大槍を掴み取る。 #太宰府レポート 17

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「動かないで！狙いが、ぶれるわ！」大質量が束ねられた凶器を構え、満潮が落ちてくる。明らかに過剰な攻撃力だ。あわやの寸前、アオバトの身体が横から掻っ攫われる。黒髪が靡く。直後、海面が歪に凹み、反動で大量の水が跳ね上げられた。 #太宰府レポート 18

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「満潮！何を考えているの！お客様に失礼でしょう！」荷物のように放られながら、伝書艦は少女を見た。駆逐艦娘『三日月』だ。その片手が素早く動く。飛沫の向こうから突き出された大槍が、途中で不自然に勢いを殺される。 #太宰府レポート 19

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

目を凝らす。水霧に映るは、三日月の操る障壁だ。艶光る極薄の曲線群が、槍を雁字搦めに捕えていた。遠距離から魚雷を切り刻んだも同じ技だろう。今更だが、とても駆逐艦同士の攻防とは思えない。ガンキ提督の教育の程が窺える。 #太宰府レポート 20

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

邪魔立てに、満潮は良い顔をしなかった。「しゃしゃり屋め。すっこんでれば怪我しないわよ」三日月も負けじと睨み返す。「黙るのはそっちです。痛い目を見ないと分からないかしら？」 #太宰府レポート 21

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

アオバトは着水し、対峙する二人を窺う。降り注ぐ水量が少なくなってきた。三日月に、身振りで下がるよう示される。そろそろと伝書艦が後退せんとした直後、満潮が大槍に力を込めた。 #太宰府レポート 22

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

爆発と見紛う量・速度で、穂先から無数の破片が飛び出した。特務艦の身では理解の及ばぬ、一瞬の攻防。アオバトを庇う位置で、三日月は幾発か制服を穿たれていた。斬り払われた破片群が、干渉光混じりに宙を舞う。大きく飛び退いた満潮も、胸元を大胆に切り裂かれている。 #太宰府レポート 23

プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「そう！なら、いいわ！」怒気も露わに三日月が、右手を水面に差し込んだ。ずるりと、海中から物々しい曲刀が引き抜かれる。鎖の巻き付くそれを一振りすれば、遠い海原に斬線が弧を描く。「分からず屋の鼻っ柱から削いであげましょう！」 #太宰府レポート 24