艦隊これくしょん MIBkai氏による彼女たちの戦後、鳳翔の場合

と言う事で、追加分更新しました。
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MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

彼女たちは雄々しく戦い、勝利し、深海棲艦に勝利した。ある者は軍に残り、ある者は軍を去った。言うまでもなく『予算』という敵には勝てなかったからである。無類の強さを誇ったとしても、大蔵省には勝てないのが、宮仕えの悲しいところである。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:40:41
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「私は……大学に行きたいです」 そう、ある艦娘は語った。高校卒業後、艦娘に志願したその女性は、諦めたものを拾いに行くことにしたのだ。 「それでは、急いで勉強しないといかんな」 「……はい!」 時は巻き戻らないが、取り戻せるものも、ある。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:41:08
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

戦争は終わった。彼女は惜しまれながらも軍を去り、そして大学に行き……まあ、たいそう苦労して卒業して、教師になった。教える対象が子供になっただけですね。と笑っていたが、もっと違うことがある。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:41:31
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

それは、彼女、鳳翔の教え子たちが、戦場に行ったきり、帰って来なくなることは無くなるからだ。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:41:46
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「はあ……」 からからと自転車のラチェット機構が立てる音を聞きながら、鳳翔はため息をついた。 肥料を撒いたばかりなのか、妙に畑から臭いが漂ってくる。それが、なおさら鳳翔の気持ちを沈ませた。 「うまくやっていけるかしら……」 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:42:30
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

彼女の、鳳翔の赴任先は、というと広島県の島嶼部で、10人生徒がいればいい、という位のドがつく田舎の小学校である。せめて、副担任がつけば、と思っていたが、校長が一人居るばかりの、新人には酷なところだった。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:45:00
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

そして下宿先は、というと若かったころが想像できない、梅干しのようなしわしわのお婆さんが住んでいるやたら広い家で、独特の臭いがする。孫がいる、ということだったが、その孫は、というと、恩給で遊び歩いている、ということだった。それを聞いて、鳳翔は顔をしかめた。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:45:25
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「……軍人さんかね」 「元は」 「……制服を着てた当時はまともだったんじゃがのう。今じゃありゃだめじゃわ。カバチばっかり垂れよる」 「……男性なんですか?」 「ああ、大丈夫よ。鳳翔さんに貸す離れの合鍵とかはわしゃ持っとらんけぇ」 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:45:56
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

しわだらけの顔をくしゃり、とさせて、老婆は笑った。どこかで見たような、と一瞬鳳翔は考えたが、しかし私が鍵をなくしたらどうするのだろう、と考え、それを聞いてみた。 「そりゃ困るのぅ」 また、笑っていた。よくわからない人である。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:46:19
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

そして、再び意識を戻すと、その下宿先の門扉の前で、一瞬違和感を覚えた。普段は空いていない母屋の扉が空いているのだ。あの梅干しのお婆さんは、どうも田舎の割に戸締りだけはきちんとしているらしいので、違和感がある。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:46:40
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

ひょい、と覗いてみると、何かと目があった。酒でどろり、と濁った目だ。 んん?と言いながら、こちらに向かってくる。あのお婆さんの顔をどこかで見たような、と思ったのはやはり間違いではなかった。そして、数年前まで確かに呼んでいた呼び方で、彼を呼ぶ。 #彼女たちの戦後

2014-07-30 23:47:04
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

彼女たちの『戦後』 鳳翔の場合(1) つづく #彼女たちの戦後 感想等あったら #彼女戦 とでも入力して感想を言ってくれたら拾います。なお、タグに記号が入っていたことに気づいてなくてそのまま行った結果、投稿し直した模様。

2014-07-30 23:49:05
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

この男が、かつて私たちの指揮をとっていた男なのだろうか。と、鳳翔はじっと見返す。淀んでいた目に、理性が戻り、そして、酒に焼けたものの、聞きなれた声が、その喉から出てくるのを、聞いた。 「鳳翔……?」 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:02:39
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

そう呼ばれたのは、本当にいつ振りだっただろうか。そう思いながら、慌てる提督、いや、元提督を見て、鳳翔は梅干しみたいなお婆さんが言うところの「カバチばかり垂れて」いなかったころを、思い出していた。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:04:20
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「鳳翔?」 ゆさゆさと、肩を揺すられるのを、鳳翔は意識する。口の中に寝乱れ、くろぐろと渦を巻いて居た髪が入って居たことに気づき、慌てて手でそれを出す。 「……鳳翔?」 「は、はい!」 振り向くと、そこには第三種軍装に身を包んだ「提督」が立っていた。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:09:08
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「……一応課業中なので、公然と居眠りしてもらっても困るな」 いや、敵もいないし、戦うべき書類もないから、寝てても問題ないんだが。と提督は言い、おっと、と咳払いをした。 そして、鳳翔は、というとすみません!と勢いよく頭をさげ、あわあわと慌ててしまう。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:11:34
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「まあ、その、なんだ。試験勉強で忙しいのはわかるが、ほどほどにな」 そう言って、提督は笑っている。戦争が終わり、何がしたいか、軍のコネで就職先をあっせんも出来る、と言われた時、鳳翔が選んだのは「行けなかった大学に行きたい」ということであった。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:14:31
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

進学を選ぶ、というのは艦娘だった、いや、艦娘でなくなる少女たちの進路としてはごく標準的なもので、鳳翔もそれに倣ったに過ぎない。ただ、ある目標を果たすには、大学に行く以外の選択肢は無かった。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:18:11
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「ところで……どうして大学に行こうと思うんです?鳳翔さん」 そう、提督は口調を変えて言った。なぜか、提督は彼女のことをさん付けで呼ぶ。年数は鳳翔の方が長いから、というのも有るのだろうが、どうも「さん」付で呼ばないと違和感がある、との弁だった。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:19:56
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「お話しませんでしたか?」 「いえ、大学に行きたい、とおっしゃられたので、資料を集めないといけませんね、といって、肝心のそこを聞かなくて」 蒼龍なんかは復学する、と言っていましたが。と付け加えた。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:21:28
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「先生になりたいんです」 「……それは……今やっている事と同じですね」 一瞬、口ごもって、提督は言った。事実、空母艦娘を鍛え上げるのが鳳翔の現時点での職務である。むろん、新しく入ってくる者が居ない以上、今はやることもないのだが。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:23:19
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「違いますよ」 鳳翔は、思わず首を振る。教える、ということでは確かに同じだが、本質的な意味で違う。 「……見送るのに、疲れたんです。だから、私は先生になりたいんですよ」 「……そうですね。そうでした」 来た、見た、勝った。だが、その過程で失われたものは数多い。 #彼女たちの戦後

2014-08-06 01:26:31
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