Eテレ「地球ドラマチック選 『ピダハン 謎の言語を操るアマゾンの民』」への反応

放送のたびに話題になっているEテレのドキュメンタリー「ピダハン 謎の言語を操るアマゾンの民」への反応をまとめました。
人文 Eテレ ピダハン ピンカー チョムスキー 言語学 NHK アマゾン
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Мэй Аренберг @May_Arenberg
大人がそれを学ぼうとした時、理解出来なくて勉強を諦めた。しかし、子供は学校に通っていて、そこではポルトガル語と算数を勉強している。
Мэй Аренберг @May_Arenberg
ただ、当然ポルトガル語における数字と計算の理解だから、ピダハン語に数字がないという概念への反論にはならないが。そもそも大きい数(10以上とか)の発達ってそんな原始的なものではないし、左右の概念と同じくらい後天的なものだと思うから、言語あれば数詞ありとは限らないと思う
Мэй Аренберг @May_Arenberg
再帰とかは言語に広く見られるけど、必ず全ての言語に見られるものではそもそもないし、ある程度の普遍性があるだけで絶対ではないので、ピダハンの存在は必ずしもその否定にならないということだと私は考えている

アニ@gorotaku さんによる「生成文法」についての解説

アニ @gorotaku
例のピダハン問題と絡んで、チョムスキーによる「生成文法」という企てについて少し連投します。興味のない人にとってはまるきり関係のない話ですが、まあこれは言っておかないといけない気がするので。
アニ @gorotaku
人間の両親から生まれた赤ちゃんと、パンダの両親から生まれた赤ちゃんを、全く同じ環境で育てたとしても、二者が全く同じに育つ、ということはありえません。例えば人間の赤ちゃんが目の周りに黒い毛、それ以外に白い毛を生やすようになったりすることはありません。
アニ @gorotaku
じゃあどうして、どんな環境で育てようと、人間の赤ちゃんは自然にパンダ柄の毛を生やすようにはならないのか。当たり前ですが、「遺伝子によってそう決定されている」という以外の答えはありません。
アニ @gorotaku
同じようにパンダの赤ちゃんは、人間の両親が人間の赤ちゃんと全く同じように育てたとしても、1歳で最初のことばを発し、2歳では文を理解し、3歳でアンパンマンに飽き、5歳で山手線の駅名を暗唱するようには決してなりません。
アニ @gorotaku
つまり、「自分の身の回りで話されている言語を自然に身につける能力」について、人間の赤ちゃんとその他の動物の間には、否定しようのない大きな違いがあるわけですね。ではその違いはどこから来ているのか、といえば、結局のところは「遺伝子」以外の答えはありえないわけです。
アニ @gorotaku
チョムスキーが「言語能力は人間に遺伝的に備わっている」というとき、それが意味することは「英語やピダハン語のような特定の個別言語の知識を生まれつき持っている」ではありません。彼が言うのは、「自分の身の回りで話されている言語を自然に身につける能力」が生得的である、ということなのです。
アニ @gorotaku
で、これはクソ当たり前の前提であって、この世で実際に起こっていることを観察する限り、議論の余地があるような主張ではありません。だからチョムスキーはピダハンのドキュメンタリーの中でも、「これを否定するのは非常に難しい」と(半分皮肉を込めて)述べているわけです。
アニ @gorotaku
チョムスキーの貢献は、このクソ当たり前の観察をもって、新たな言語学の課題を立ち上げたことです。つまり、「自分の身の回りで話されている言語を身につける能力」の中身を明らかにするという研究目標を、言語学の問題として位置づけた点が、これまでの言語学を塗り替えるものだったのです。
アニ @gorotaku
チョムスキーは、人間言語を調べることによって、人間の脳に生まれつき組み込まれている何らかの能力の正体を見極めることができるはずだ、と考えたのです。すなわち生成文法とは「人間はどのような言語を自然に身につけるようにできているのか、を明らかにしようとする研究分野」と言うことができます
アニ @gorotaku
で、生成文法では、この「自分の身の回りで話されている言語を自然に身につける能力」を指して、普遍文法とかUGとか呼びます。普遍文法は、「それが存在することによって、人間のこどもが英語や日本語やピダハン語やその他いろいろな言語を自然に身につけることができるような脳の機能」です。
アニ @gorotaku
生成文法の目標は、この脳の機能の中身を明らかにすることです。この「中身」の具体的内容については、60年以上の研究史を通して、様々な仮説が提唱され否定され、チョムスキー自身の立場も常に移り変わってきました。「普遍文法=再帰」という仮説が出てきたのはごく最近のことです。
アニ @gorotaku
そしていずれにしろ、生成文法の問いとは、「あらゆる言語に普遍的に成り立つ性質は何か」ではありません。普遍文法は「あらゆる言語に普遍的に成り立つ性質を抽出したもの」ではありません。ここは極めて頻繁に誤解され、エヴェレットも当たり前のように取り違えている点です。
アニ @gorotaku
チョムスキーは(そしてその他の生成文法家は)、「英語にも日本語にもピダハン語にも、世界のあらゆる言語に再帰が含まれている」と主張してはいないのです。ですからピダハン語に再帰が含まれていようがいまいが、それがチョムスキー理論なり生成文法なりを「覆す」ことはありません。
アニ @gorotaku
ピダハンがチョムスキーの「普遍文法=再帰」の反証になるとすれば、それは「ピダハンのこどもは再帰を含む文法構造を持つ言語を獲得できない」ということが示された時です。そして現在ピダハンのこどもがポルトガル語を学んでいるという情報から考えて、そういうことが起こる可能性はとても低いです。
アニ @gorotaku
以上、N. Hornsteinのブログ facultyoflanguage.blogspot.jp/2012_09_01_arc… の内容を元にまとめました。
アニ @gorotaku
もう一度。生成文法で「普遍文法」と呼ばれているものは、「人間のこどもがそれを使って言語を獲得する脳の機能」です。決して、「どの言語にも必ず成り立つ性質を集めたもの」ではありません。
アニ @gorotaku
従って、最も忠実なチョムスキアンにとっても、エヴェレットとピダハンは「これまで数千回繰り返されてきた、誤解に基づく論難」に過ぎないわけです。ではどうしてあれについて彼らがあれだけ反応したかといえば、それは「これは放置しておくと言語学というフィールドに悪影響だ」と考えたからです。
アニ @gorotaku
仮に僕が30年に渡って、他の誰も調べていない言語と文化を詳細に研究したとします。その成果を発表するとき、僕が一番気をつけるのは、「ウォーフやミードと同じ穴の狢」と見做されないようにすることです。そう見られた瞬間、僕が発表する内容の学術的価値は地に落ちます。
アニ @gorotaku
その言語や文化の記述においては、ある特定の側面をことさらに取り上げることを避けようとするでしょう。その記述について、「人生の意味」みたいな価値判断を乗せることは絶対に避けるでしょう。そうすることが自分の研究の信頼性を担保し、今後もこの研究を続けることができるために必要だからです。
アニ @gorotaku
しかし、エヴェレットの行動は真逆です。彼はことさらに「ピダハンの文化が持つ価値」を強調します。大衆の興味を煽るようなレトリックを駆使し、ピダハンの人々に対する見世物小屋的な興味を掻き立てようとします
アニ @gorotaku
だから、彼がピダハンにアクセスすることをブラジル政府から禁じられたのは、ある意味当然の帰結に思えますし、まともな研究者ならこうならないように注意を払っていたはずだ、とも思うわけです。
アニ @gorotaku
エヴェレットがその研究成果を、冷静で客観的な学術書として残していれば、彼の名声は「この分野では」百年後も残ったと思います。しかし彼は違う選択をした。アカデミアからはそっぽを向かれることがわかっていないはずがないのに、大衆のオリエンタリズムを煽るような本を書いた。
アニ @gorotaku
で、当然のように起こる批判に対して、「チョムスキー達は自分の権威が脅かされるのを恐れているのだ」というストーリーを与えるわけです。もはやこれはトンデモ系のテンプレと言っていい。
アニ @gorotaku
エヴェレットはあのドキュメンタリーの終盤で、ピダハンの人々に感傷的なメッセージを送ります。その選択はとても象徴的です。研究対象に対して、あのような感傷的な思い入れを晒すすというパフォーマンスは、「研究者としては」全くプラスにならないからです。
アニ @gorotaku
ところで、僕は自分は全くもってチョムスキアンではない思っている。しかし、チョムスキーがシンボライズする何かが、どうしてここまで様々な人から攻撃的な反応を引き出すのかにはとても興味があるね。
アニ @gorotaku
なぜ人は「チョムスキー曰く」と聞くと、それを何が何でも否定しなければいけないという義務感に駆られるのだろうか
アニ @gorotaku
例えば僕は自分の単著論文では、(直接引用部分を除いて)Universal GrammarとかUGとかのタームを一切使わないぐらいは非チョムスキアンではあるのだが、どうも世界はそういうキャラ設定は許してくれないようなのよねー
アニ @gorotaku
わたくし個人はチョムスキーをディフェンドする道理も義理も全くないのだが、何故かいつもそういう立場に追い込まれるのだった
アニ @gorotaku
まあ、彼が「権威」であることは否定のしようがない。
GAKU@還暦日記🎉🎉 @GAKU_IZ
@gorotaku まあ、チョムスキーによってそれまでの言語学の存在が根本から否定された、と少なくともそれまでの言語学をやっている研究者のみなさんが感じたからでしょうねぇ。
アニ @gorotaku
そういやわたくしの師匠も全くもってチョムスキアンではないが、チョムスキーの主張については世界で五本の指に入るくらいは詳しいのではないか、という方だった
アニ @gorotaku
まあ、チョムスキーのネーミングセンスがクソだということは衆目の一致するところである。知性のモジュール性。
アニ @gorotaku
あのLasnikですら、「Chomskyのネーミングだけはアレだな、アレのせいでいらん誤解ばかり生んでるよな」って言ってたね
トミー副部長(カービィ) @kduck_4869
@gorotaku 表層⇔深層構造、とか誤解を生みやすそうですね。
アニ @gorotaku
@yk_ahiru ああもう数えきれないほどの酷い歴史があります。

コメント

kakuyu @southmtmonk 2014年8月16日
まとめを更新しました。
石部統久 @mototchen 2014年8月16日
参考まで。アマゾンの PIRAHÃ族とその言葉ピラハ語についてとピンカーによるエヴェレット批判についてのまとめ - Togetterまとめ http://togetter.com/li/357320 @togetter_jpさんから
kakuyu @southmtmonk 2014年8月16日
まとめを更新しました。まとめ作成後のtweetを追加させていただきました。
Shimaden⛄ÿú*゜司馬殿 ซิมะเด็ง @SHIMADEN 2014年8月16日
言語に詳しい方々のNHKのピダハン語の番組への指摘が正しいとして、なぜああいう番組ができたんだろう。悪意はないが制作者に知識がなくてああなったのか、意図的なのか。意図的だとしたら、ああして得するのは誰なのか。
大石陽@聖マルク @stmark_309 2014年8月16日
知識もないし、なんかすごそうで視聴率が取れそうだからこれで、程度で、深い考えはないだろう。「文明から隔絶した人がなんか素晴らしいものを~」というのはヒッピームーブメントの残滓のようにしか感じないけど……。
MASUDA Kooiti @masuda_ko_1 2014年8月17日
「地球ドラマチック」は外国で作られたドキュメンタリーを紹介する枠です。「ピダハン」の番組はウェブページ http://www4.nhk.or.jp/dramatic/x/2014-08-16/31/2875/ に「2012年 オーストラリア」とあります。番組最後には制作の放送局かプロダクションの名まえも出たはず。NHKにはもちろん伝えた責任はありますが、制作主体ではないです。
Muji @ togetter憲兵隊 @643Myshelf 2014年8月17日
パンダを人間が育てても言葉を話さないから遺伝子に言語能力が備わっているが正しいとすると、100年あまり前のインドに実在した狼に育てられた姉妹が言語を理解しなかった件はどう説明されるのかな。
桜浴衣王さん✬ @Dr_sakura 2014年8月17日
「言語」っていうのが、ヒトがしゃべる・聞くものを指しているのなら、そりゃあヒトにしかできないでしょ。ヒトにイルカやコウモリのような超音波を喋れといっても無理なように。それをもって、「遺伝的に」云々いうなら、当たり前以前の話では。
大石陽@聖マルク @stmark_309 2014年8月17日
チョムスキーの言うのは「まったくの無から言語を習得するのであれば、他の動物にも言語を教えこむことが可能なはずだが、実際にはそうではない。つまり、人間はそもそも言語を理解・修得する独自の能力を持っているはずであり、であれば、すべての言語はその能力に沿った形で構成されている。事実、世界中の言語は共通の基本構造を有しているように見える。その基本構造を普遍的文法と呼ぼう」ということ。動物が同種の鳴き声を本能的に識別したりするのと同じ次元で、何らかの言語的枠組みが脳内にあるのではって話。
アニ @gorotaku 2014年8月17日
ですからその「当たり前以前」のレベルの問題に関して、議論の余地があるかのように突っかかってくる人が後を絶たない事について、「それを否定するのは極めて難しい」と述べたわけです
アニ @gorotaku 2014年8月17日
議論の余地があるのは「何が遺伝的に決定されているのか」という部分で、それについては色んな人が色々調べて色々言ってて、チョムスキー自身も理論を修正し続けているわけです。
アニ @gorotaku 2014年8月17日
でもいろんな人が「言語が遺伝だの本能だのなわけがない!だって言語は文化だろ?」みたいなこと言うので、困ったもんだよねこっちはハナからそういう二項対立になるような意味で遺伝がどうとか言ってないんだよね、ということを述べたのが「否定するのは極めて難しい」なんですわ
まどちん● @madscient 2014年8月17日
643Myshelf 別にオオカミに育てられなくても言語を解する能力が欠如する個体はときどき生まれるので、それ何の反証にもならないよ。
Muji @ togetter憲兵隊 @643Myshelf 2014年8月17日
自分が言いたいのは、もし遺伝子や本能が時制レベルの文法まで影響を与えるくらい「強い」なら、人間に育てられないくらいの環境の変化で言語習得に障害が出るのは変じゃ無いの?というくらいの意味。普遍的文法がコメントくらいの位置づけなら、そりゃまあそうだろうな、とは思う。
Muji @ togetter憲兵隊 @643Myshelf 2014年8月17日
エアリプしとくと、自分は言語能力の取得の後天的影響の話をしてるんであって、先天的な能力の障害の話はしてないですよ。#放射脳 連中のことを言ってるなら、「それもゴルゴムの仕業」だと思いますがね。
まどちん● @madscient 2014年8月17日
643Myshelf そもそも、オオカミに育てられたから言語を解する能力が無かった、という因果関係を証明する証拠がない、という話なんだけど。つまり、先天的に言語能力に問題があった個体がたまたまオオカミに育てられた、という可能性を否定できない。
まどちん● @madscient 2014年8月17日
643Myshelf 先天的な能力の障害が疑われているケースを持ち出して「先天的な能力の障害の話はしてない」て何のコントなのそれ。
Muji @ togetter憲兵隊 @643Myshelf 2014年8月17日
madscient なるほど、自分が話題にした件は信憑性自体が疑われてることは理解したので、その点については貴殿の言い分に利があることは承知しました。
石部統久 @mototchen 2014年8月17日
参考に願います。 世界が騙された「オオカミ少女」というウソ - NAVER まとめ http://matome.naver.jp/odai/2137217210189356601 アマラとカマラ - Wikipedia http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%81%A8%E3%82%AB%E3%83%9E%E3%83%A9
kakuyu @southmtmonk 2014年8月19日
まとめを更新。こちらのまとめへの反応tweetをいくつか追加させていただきました。