アイヌ研究者による「アイヌ民族とは何か?」

札幌市議の金子快之氏が「アイヌは、もういない」とツイートしたことに端を発する、アイヌ研究者・丹菊逸治氏のツイートのまとめ。考古学から見るアイヌ研究の現在など、非常にためになる。
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丹菊逸治 @itangiku

札幌市民として件の市議、「金子快之@札幌市 kaneko_yasuyuki」氏の8月11日のツイートについてちょっと考えてメモしておく。「アイヌ民族なんて、いまはもういないんですよね。せいぜいアイヌ系日本人が良いところですが、」という例のやつである。

2014-08-16 00:34:37
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 「せいぜいアイヌ系日本人が良いところ」というのはどういう意味なのか。なぜ「せいぜい」なのか。「せいぜい」というのは何か程度が計れるものについて「程度を多く見積もっても」というような意味で用いられる言葉だ。

2014-08-16 00:37:35
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 市議は「アイヌ系日本人」は「アイヌ民族」の「程度が少なくなったもの」とでも思っておられるようだ。だが、「アイヌ系日本人」と「アイヌ民族」は「程度の差」ではなく、同じ存在の二つの見方にすぎない。氏のような「アイヌ系日本人」の使い方はずいぶんと失礼ではないか。

2014-08-16 00:40:00
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 「せいぜいアイヌ系日本人」という表現からすると市議は「アイヌ系日本人」は「アイヌ民族」の「程度が少なくなったもの」とでも思っておられるようだ。だが両者は「程度の差」ではなく、同じ存在の二つの見方にすぎない。「アイヌ系日本人」を自称する人々に失礼ではないか。

2014-08-16 00:49:24
丹菊逸治 @itangiku

私がアイヌ文化行政の問題点を指摘しても、アイヌバッシング勢力は誰も私の批判を利用してアイヌ文化行政を攻撃したりはしない。彼らが「利権批判」をするのは、代わりに自分たちがそのカネを手に入れたいからにすぎない。「美味しい話」を原理的につぶす私の主張なんぞには魅力を感じないのだ。

2014-08-16 01:53:22
丹菊逸治 @itangiku

@Esamani 「German AmericanかAmerican Germanか」のようなレトリックとしての「日系アイヌ人」でしょうか。日本語ではあまりうまく通じないような気がしますが。「日本アイヌ人」ですかね。

2014-08-16 02:13:41
丹菊逸治 @itangiku

@Esamani かといって「所属している感じ」を払拭しようとして「在日アイヌ人」だとまた話がややこしくなりそうですしね。「日本国籍ではない」ニュアンスが入ってしまうかのような。

2014-08-16 02:17:20
丹菊逸治 @itangiku

@Esamani 「Ainu JapaneseかJapanese Ainuか」をそのまま日本語に置きかえるのは難しいですよね。一種のキャッチフレーズですからね。近代国家的空間がないから、というのもその通りだと思いますが。

2014-08-16 02:31:39
丹菊逸治 @itangiku

アイヌ民族はじめ、北方諸民族の多くは「外部(異民族)との異文化間婚姻をしながら民族集団を維持する」形態をとってきた。「DNA」や日本的な「血」の観念とは異なる原理である。自民族独自の価値観にもとづいて他民族のアイデンティティについて云々するのは馬鹿げている。

2014-08-17 18:07:05
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 「民族」というのは物理的に、生物的に外部から完全に隔離された集団のことではない。日本は四方を海に囲まれて偶然、一定期間隔離されていたがゆえに、それを「民族」だと思い込んでいるのかもしれないが、それは日本でしか通用しない自分勝手な基準だ。

2014-08-17 18:10:32
丹菊逸治 @itangiku

アイヌ民族には「アイヌかそうでないか」という本来の基準がちゃんとあるが、行政的に現在運用されているのは、アイヌ自身の基準とは異なり、戸籍による証明まで求められる厳しいものだ。配偶者等に準メンバーシップを認めるとはいえ、どちらかといえば民族人口を小さく見積もる基準である。

2014-08-17 18:19:16
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku アイヌ文化行政には問題点が確かにある。その一部については少しツイートした。また、過去に起きた問題については知られている通りだ。だが「誰がアイヌか」というメンバーシップについてはさほど問題はない。あるというなら、具体的な数字をあげて批判すべきだろう。

2014-08-17 18:23:29
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 「『誰がアイヌか』というメンバーシップについてはさほど問題はない」というのは、「和人側が不利になるような状態ではない」という意味だ。現状ですでにアイヌ側にとってかなり不利なのだ。

2014-08-17 18:24:45
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku アイヌ文化関連事業の最大の問題はメンバーシップなどではない。「アイヌ文化のためのお金」が、和人業者の過大な利益になっていることだ。「1000万円で500万円程度の内容のものを買う事業」の差額500万円は、アイヌではなく和人業者の利益になっている。

2014-08-17 18:31:28
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 「1000万円で500万程度の内容のものを買う事業」は公共事業ではありがちだ。だが、アイヌ文化関連の事業費で儲けを出しているのは和人業者なのだ。それなのにアイヌが叩かれるのは、ちょいと気の毒ではないのか。

2014-08-17 18:34:31
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku アイヌ民族自身の手に渡るのはほんの一部で、残りは全て和人業者の事業に使われる。いわゆる「復興予算」と同じ「経済効果」構造である。だがアイヌ事業の場合「経済効果」が目的ではない。「目的」を考えれば全部返還不要の奨学金にでもすべきだ。民族の将来への投資だ。

2014-08-17 18:43:22
丹菊逸治 @itangiku

↓ 人のせいにするのか。知里真志保もいまであればあんな表現を用いはしなかっただろう。あれは「最後の抵抗がつぶされる」という反語だ。

2014-08-17 19:02:11
丹菊逸治 @itangiku

件の百科辞書の記述はいずれ改訂される。予想に反して、アイヌ民族が消滅したりはしなかったからだ。

2014-08-17 19:05:40
丹菊逸治 @itangiku

これは世界中で起きていることだ。数十年前、世界中の少数民族(特に先住民)について「数十年後には消滅する。すでに引き返し可能な点は過ぎた。つまり既に滅びた」という悲観論が多かった。だが今では「そう簡単に誰もいなくなったりしない」ということも分かってきたのだ。

2014-08-17 19:08:35
丹菊逸治 @itangiku

考古学を引き合いに出す人もけっこういるので、それについては書いておこう。

2014-08-17 19:11:13
丹菊逸治 @itangiku

まず、いわゆる「縄文文化」については、人骨研究などからも「北方の独自性」が確認されている。今より少し独自性は弱いが、独自性自体は存在する。それをどう考えるか。少なくとも「縄文文化の担い手は単一の人間集団である」という推定は根拠薄弱である。

2014-08-17 19:13:41
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 次に続縄文以降、いわゆる「北海道的な擦文文化」が展開するが、その一部地域に「本州的な擦文文化」がみられる。これが「北海道には和人がいた」「アイヌより前に和人がいた」として騒がれるものだ。これは渡島半島から内陸部にモザイク上、線上に伸びる。面的ではない。

2014-08-17 19:16:17
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku だが、それらの「本州的な擦文文化」は時期がたつと消滅してしまう。ただし、それらから吸収したらしい要素が「北海道的な擦文文化」にみられるらしい。つまり研究者の多くは「和人がやってきたが、少数だったのでアイヌに吸収された」とみる。

2014-08-17 19:18:45
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku 次に道北・道東にいわゆる「オホーツク文化」が出現する。外部から渡来した文化が急速に広まったと考えられている。かつてより分布域が広いことも分かってきた。だがこれも擦文文化に同化して消滅する。そして、それ以降の「中世アイヌ文化」はオホーツク文化的要素も含む。

2014-08-17 19:22:19
丹菊逸治 @itangiku

.@itangiku その後、日本史でいう近世にはもうすでに、北海道全域がかなり均質の文化になっている。基本的に北海道においては、メインランドを押さえた文化集団に、それ以外の渡来要素が次々に合流し続けているのだ。研究者の多くは「交代」は起きていないと考えている。そんな痕跡はない。

2014-08-17 19:27:53