極論・暴論の「痛快な」出版物と、それが生む「憎悪」について 山崎雅弘
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差別や偏見の中にどっぷり浸っていると、それが差別や偏見であることすら自覚できなくなる。そうした世界史の数々の事例は、当然日本とも無関係じゃない。差別や偏見に迎合する日本の書店や一部の出版業界は、戦後の約70年でも異常な状況だし、礼節を重んじるという日本の伝統的な美徳とも相反する。
2014-07-09 17:27:39安田浩一「今、ネットで何が力を持っているのか。力強く、勢いのある言葉だ。『人権を守りましょう』と言っても誰も耳を傾けないが、『人権なんて無視してしまえ』と言えば、客がつく。それを指をくわえて見ていていいのか」「以前、日本、中国、韓国、台湾のメディアが集まったシンポジウムで、
2014-07-30 23:43:47(続き)中・韓のメディアは権力と、台湾は資本と闘っているという話が出た。日本はどうか。弾圧を受けていないのに、書けないし、書かない。社会や空気を勝手に忖度している。その遠慮が紙面に出ている。メディアは何におびえているのか」(神奈川新聞)bit.ly/1pqfYzK
2014-07-30 23:44:53東京滞在中、ヘイト本/雑誌の出版社や書店の姿勢が話題になることも何度かあった。「目先の利益」の「目先」のスパンがどんどん短くなっていること、「自社」がそれに追随することで「全体の構図」や「大きな流れ」にどんな影響を及ぼすかという点に全然関心を払っていないこと等で、懸念を共有した。
2014-08-03 13:02:20ヘイト本/雑誌と出版社や書店の関係も、原発と電力会社や関連業界(地元の旅館やタクシーなども含む)の関係も、「目先の利益」だけに関心を奪われ、そこに潜む災難発生のリスクを恣意的に過小評価するか、最初からリスクを考えずに目を逸らしている。冒すに値するリスクかどうか、という評価が無い。
2014-08-03 13:03:32「他社もその流れに乗って利益を上げているから」という「目先の利益」に釣られて、出版社や書店が追従し、社会が容認すれば、やがてその流れが「過半数の主流」となり、全体の基準が「そこ」に移行する。そして、より強い刺激を求める客の要望に応えて内容がエスカレートし、誰にも止められなくなる。
2014-08-03 13:04:42もう一つ、ネットの一般化で「群集心理」の効果が変質しているのでは、という話も興味深かった。匿名・覆面アカウントで書き込まれる暴言や罵倒は、物理的には孤立した状況(一人)であっても、心理的には「群衆」の中に紛れているかのような気分でなされる。「群衆」の中でしか言えないことも書ける。
2014-08-03 13:06:00最初は「群集心理」で匿名・覆面アカウントだけが書いていたような言説でも、物理的な書き込みの量が増えて「一定の流れ」を形成し始めると、やがて実名で堂々とそれを書く人間も出てくる。ネット上の「ヴァーチャルな群衆」が次第に「実体としての群衆」を形成して、暴言や罵倒で他者を威圧していく。
2014-08-03 13:07:04国民の右傾化等とよく言われるが、最近この国で増えているのは「右傾的な人間」ではなく「自分の傲慢さに無自覚な人間」だと思う。政府の中枢にその種の人間が集まり、傲慢な態度を全く隠そうともしないので、それを見て、心の中に隠していた自分の傲慢さを堂々と、安心して表に出す人が増加している。
2014-08-09 13:03:51「愛国」や「日本の誇り」といった自賛の概念は、こうした「傲慢さ」を粉飾する材料として非常に安価(実質タダ)で、子供の知性でも使える粘土のような「可塑性」も備えている。傲慢な人間の思考には「反省」という発想やその価値の理解がなく、その行為の表面だけを見て「自虐」の一言で切り捨てる。
2014-08-09 13:05:00外国への差別意識や異文化蔑視の感情は「自国/自民族が一番優れている」という優越感の裏返しでもあり、後者を煽れば煽るほど、前者の感情も増大する。国ごとの文化の違いを相対的に認識できず、「日本が一番優れている」という優劣で語る本や雑誌記事が氾濫する現状は、危ない種を蒔いていると思う。
2014-08-11 13:27:28『ヒトラー 権力掌握への道 前編』、ナチ党は最初あまり国民の関心を惹かない弱小勢力だった。そこでヒトラーがとった方策は、ドイツ国民に「憎悪」を植え付け、それを煽るという手法。アーリア民族の優越性というフィクションの裏返しとしてユダヤ人等への「憎悪」で国民を煽り、支持者を獲得した。
2014-08-12 12:48:24書店に行くと「大東亜戦争は負けるはずのない戦争だった」「解放戦争としては成功だった」等、極論や暴論特有の「痛快さ」を売りにする本や雑誌が増えている。戦争を知る世代が減り、当事者の苦悩や厳しい現実から目を逸らすことへの抵抗が薄れている。 pic.twitter.com/dChqq0Vjl9
2014-08-12 12:56:01極論や暴論特有の「痛快さ」を好む読者に迎合して、一部の出版社はそれを煽る本や雑誌を次々と出版し、自社の売り上げを増大させる。一部書店もそれに追従する。その売り上げ増加の「代償」が、国をどんな方向へ動かすかは、このグラフが物語っている。 pic.twitter.com/FzkJ7A4q8h
2014-08-12 12:58:48こちらは神田神保町の某店で買った『写真週報』3冊。太平洋戦争当時、日本政府が国内向けの宣伝に活用した写真雑誌で、いずれも1943年(昭和18年)の刊行。「これらが日本の腕の一本一本の筋金となって」等、結構無防備に「本音」を書いている。 pic.twitter.com/vqkAP4wofh
2014-08-13 15:26:07「大東亜戦争二年目、南方各占領地の建設は着々行われ、日本色もようやく濃くなってきました。現地におけるラジオ体操の普及も日本色の一つです」こうした政府媒体でしか実情を知る術のなかった当時の国民は、南方統治は全て順調だと信じ込んでいた。 pic.twitter.com/U8L3mL3vwp
2014-08-13 15:27:311943年(昭和18年)2月に刊行された『写真週報』の特集は「昭南生まれて一年」。シンガポールの歴史をどう調べても、日本軍の侵攻と事実上の併合、「昭南島」への改名を正当化できる材料は無いが、「生まれた」という言い方で概念操作している。 pic.twitter.com/4jn2E1LUIA
2014-08-13 15:29:15植民地シンガポールを宗主国英国から「軍事力で奪った」のではなく、昭南という新しい場所が「生まれた」という「形式」にすれば、侵略という「実質」から目を背けられる。よく知られているように、日本軍はシンガポールで大勢の中国系市民を虐殺したが、そのような事実は当然、国民には知らされない。
2014-08-13 15:30:36「『アイウエオ、カキクケコ』おぼつかない発音ながら真剣に日本語を勉強する現地人の瞳の中に、盟主日本に対する限りない感謝と任せきった信頼を汲みとることができるだろう」 被占領下の住民の悲哀は「感謝と信頼」という言葉に置き換えられている。 pic.twitter.com/tWxh28CUiz
2014-08-13 15:31:50「大東亜戦争は植民地の解放戦争だった」と主張する人は、その「結論」に合わない事実、例えばシンガポールの中国系市民虐殺や同地の「昭南島」への一方的改名、蘭印や英領マラヤの永続的併合方針、仏のベトナム植民地統治への協力などには一切触れない。togetter.com/li/521489
2014-08-13 15:36:05日本政府がポツダム宣言の受諾を決定した1945年8月14日から69年目の同日、産経新聞に掲載された全面広告。一宗教団体指導者が、著名な人物の「霊に語らせる」という形式をとりつつ、実質は己の政治的主張を腹話術で語らせるシリーズの最新刊。 pic.twitter.com/BfMsH0q0bu
2014-08-16 14:37:08(続き)この宗教団体指導者が執筆の対象とする著名な人物の中には存命の人もいるが、ほとんどは故人で、内容に反論する機会が無い。己の政治的主張を著名な人物「の霊」に語らせる「形式」に惑わされて、著名な人物の人格権毀損や恣意的な思想・意志の歪曲という実質の犯罪的側面が見過ごされている。
2014-08-16 14:38:42(続き)本の内容に驚きは無いが、こんな架空の文言で恣意的に歴史を語る政治宣伝本を「上智大学名誉教授が推薦」というのは、改めてすごいと思う。「日本会議」代表委員加瀬氏の「じつに痛快だ」という言葉が、この種の本が売れる理由を物語っている。 pic.twitter.com/y2x5Mkoko2
2014-08-16 14:40:06「著者が己の政治的主張に偽の正当性を付与するために、著名な人物の知名度を利用する」という詐欺的あるいは歴史捏造的な実質を見ずに「著名な人物『の霊』が著者だけに独占的に語る真実」という「形式」を許容し、この種の出版物を野放しにしている現状は、憎悪を煽る本の隆盛と併せて異様だと思う。
2014-08-16 14:41:54本屋の店頭では「歴史解説本/雑誌」と「歴史解説の体裁をとった政治宣伝本/雑誌」の二種が区別されることなく入り交じって売られているが、両者を見分ける方法はいくつかある。前者は事実を提示して読者に結論を委ねるが、後者は国や民族単位で人間を敵と味方に分け、味方を礼賛し敵への憎悪を煽る。
2014-08-16 14:43:38