【連載開始】テスタメントシュピーゲル第2巻第一章

テスタメントシュピーゲル第2巻「涙の日」第一章「思い出したまえ Recordare」
0
冲方サミット @ubukata_summit

【TS53】  Ⅰ 思い出したまえ Recordare 1 (――おい、あたくし様)  鏡に映る自分と向き合った途端、あの黒髪の少女を思い出してしまった。 〈アンタレス事件〉の勃発前に見たMPBの特甲児童たち――そのキャンペーン任務。

2014-08-18 12:50:52
冲方サミット @ubukata_summit

【TS54】 あの子のスレンダーな肢体――しなやか/軽やか/スポーティ/モデル体型の理想的で健康的な折衷スタイルといった姿――エキゾチックな切れ長の黒い瞳(シユヴァルツ)/乳製品めいた滑らかな肌/しかもその上/あろうことか――さらさらのストレートの髪。

2014-08-18 12:52:43
冲方サミット @ubukata_summit

【TS55】 鏡の中=まさに対極――いかにも欧風な容姿/再生治療で色素変異した深紫の瞳(ディープ・パープル)/左目の上から頬へ走る海賊傷――そして/いかんともしがたいウェーブ×ロングヘア。

2014-08-18 12:57:36
冲方サミット @ubukata_summit

【TS56】 身体格(ボディマス)指数=二十強――ウエスト対ヒップ(WTH)率=〇.七強――推奨数値にきっちり適合する肢体/飛行型の特甲児童としての最適体格を生真面目に維持――健全コークボトル体形。

2014-08-18 13:02:01
冲方サミット @ubukata_summit

【TS57】 そして/だがしかし――長年の忌むべきコンプレックス――マスターサーバーが示す最適な胴体(トルソ)バランスをキープするせっかくの肩・ウエスト・腹・ヒップの比率を破壊――とまではいかないにしても粉砕している/実に厄介で心かき乱すしろもの――極端なバスト数値。

2014-08-18 13:05:27
冲方サミット @ubukata_summit

【TS58】 努力してそれを克服――とまではいかないにしても堂々と振る舞えていたはず――自分は自分だと開き直れていた――なのに/今になって――大いに動揺をもたら品。 電子戦の演習用着衣――接続カプセルに入るための服=驚愕のバンドゥ式モノキニ形状。

2014-08-18 13:22:12
冲方サミット @ubukata_summit

【TS59】 前から見るとワンピース水着/後ろから見ると完全にビキニ――もはやビーチファッションと呼ぶべき、たわけた小面積。 ノイズ予防=絶縁布が採用――演習で〈羽〉のみ転送=肩紐が外せるバンドゥ式が採用――男子のように上半身裸になれず=背が露出するモノキニ形状が採用――

2014-08-19 08:56:22
冲方サミット @ubukata_summit

【TS60】 信じがたい有様。 アンダーの左腰にプリント――隊員ID=『鳳(アゲハ)・エウリディーチェ・アウスト/二〇〇〇年八月十六日生まれ/十五歳』  第三十五区(ジークムント)にある〈ミリオポリス公安高機動隊(MSS)〉本部ビル地下――その一角にある更衣室。

2014-08-19 08:56:53
冲方サミット @ubukata_summit

【TS61】 特大の三面鏡=普段は戦術班が使用――銃/ホルスター/防弾着/機甲/通信機――装着にぬかりがないか鏡面チェックする小部屋――自分の姿を念入りに見せつけられる鏡地獄。 部屋の外=車両エリア――ガレージ/兵器テスト区画/臨検用サーバー室。

2014-08-19 08:57:47
冲方サミット @ubukata_summit

【TS62】 行き交う大勢の大人たち――隊員/解析官/事務官/エンジニア/医師/兵器業者。 対情報汚染の新システムが予定より早く納品――現場の特甲児童による演習が急遽決定。

2014-08-19 08:59:10
冲方サミット @ubukata_summit

【TS63】 お陰で、二〇一六年七月三日日曜日という今日の予定を――あの少年の誕生日に一緒に出かけるという約束の時刻を――大幅に変更せざるをえず。 お陰で――普段は長い髪と制服でさりげなく隠す身体的特徴を直視せざるをえず。

2014-08-19 09:00:15
冲方サミット @ubukata_summit

【TS64】お陰で――世のファッション誌が示唆する教訓が去来――胸が大きすぎないことが着こなしには/普段着であれ/制服であれ/はたまた水着であれ――

2014-08-19 09:04:42
冲方サミット @ubukata_summit

【TS65】 それなりに重要であり、胸が大きければ大きいほど、しなやか/軽やか/スポーティ/モデル体型といった印象からかけ離れていくのは論を俟たないという現実に衝突。

2014-08-19 09:09:00
冲方サミット @ubukata_summit

【TS66】 お陰で――(あたくし様)――黒髪の少女の記憶がちらつく――なんとも的確に自分のコンプレックスを刺激される肢体――全力で心から叩き出す/蹴り出す――消し去る。 自分は自分と言い聞かせる――赤毛のギリシャっ子に教わった呪文(マントラ)=心の鎧の作り方。

2014-08-20 08:44:02
冲方サミット @ubukata_summit

【TS67】 とはいえ/心からほっとすることに――その姿のまま人が大勢がいる区画へ出るわけではない――部屋のドアにハンガー=絶縁布でできたレインコートじみた丈の長い上着。 男女問わずセクハラ根絶を唱える屈強な解析課の課長が用意させた品――隊員への配慮。

2014-08-20 08:46:40
冲方サミット @ubukata_summit

【TS68】 これなしではバスタオルでも羽織るほかなし――ますます場違いなビーチガールにならずに済む支給品に心から感謝――手に取る/袖を通す/プラスチック製のファスナーを上げる。 つっかえる――ぽかんとなる=ぴったりした上着/胸が邪魔でファスナーが閉じられない。

2014-08-20 08:49:16
冲方サミット @ubukata_summit

【TS69】 押し込む/せり出す/押し込む=己の双胸と格闘――前代未聞の事態。 「くっ……」歯を食いしばる――もはや梱包作業/恥ずかしさと焦燥で身悶えしそう/必死に押さえつけてファスナーの引き手(スライダー)を喉元まで上げる――深い溜息。「ふう……」

2014-08-20 08:49:31
冲方サミット @ubukata_summit

【TS70】 ばつんという音――多少の体積超過は圧迫耐久してしかるべき務歯(エレメント)が砕ける/弾ける/噛み合わせが全解放――ファスナーのスライダーが吹っ飛んで視界から消えた。

2014-08-20 08:49:46
冲方サミット @ubukata_summit

【TS71】 三面鏡に当たるカン・カンという音――左頬にヒット――衝撃=コンプレックスゆえに閉じこめたはずの鏡に映る自分が反逆して見えない手で現実の自分の頬を引っぱたいたかのよう。 思わず頬を押さえてうつむいた――ころんと転がるファスナーのスライダー。

2014-08-20 08:49:55
冲方サミット @ubukata_summit

【TS72】 (泣き虫お嬢様)揶揄する声――誰の声か/以前の仲間たちか――あの黒髪の少女の声か。  自然と零れ出す諦念の吐息――閉じるというきわめて重要な機能が死んだ上着/丈長の裾をだらんと垂らしたまま棒立ち――うっかりその場で膝を抱えて泣きそうになってしまった。

2014-08-20 08:50:07