【邪悪の樹】決闘フェイズ――民の樹

『智の剣』陣営『不安定』(@Aiyatsbusy) 『理の盃』陣営『拒絶』(@ev_sher
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武殿仁将 @rp_20kw

 扉を勢いよく開けて、中に踏み込む。数歩歩くと、すぐに先の世界へと繋がった。  崩れた街並みは、以前見たものとはまた別の様相を呈している。屹立する裏寂れた建物たちは、どこか墓標のようでもあった。  ──そして、その先に見える人影。 「……不安定」  低い声が、風の中に消えた。

2014-08-29 18:28:50
武殿仁将 @rp_20kw

 生きていたのか、と言いかけて、すぐにやめる──今まで生きていたとしても、今から死ぬのだ。自分が殺すのだ。物質主義の時とは違う、話し合いは許されない。  ──なんだかなぁ。  どんな言葉も、不適当に思えてしまう。仲間としてかける言葉は、これから全て覆すべきものとなり得るのだから。

2014-08-29 18:28:57
武殿仁将 @rp_20kw

 本当は言葉などかけず、さっさと殺し合いを開始した方がいいのだろう。だが、それでは何か釈然としないのはある。数秒口を閉ざして、ようやく一つの回答を見つけ出した。 「──おまえ、なんで向こうに行ったんだ」  物質主義や愚鈍のこともある──責める気はない、純粋な疑問だった。

2014-08-29 18:29:07
人間《ディアドラ》 @actSkbz

──倒れ込むように扉をくぐって、たたらを踏む。ゆら、ゆらり。ゆらり、ゆらゆら。限りなく安定せず安息はどこまでも遠く、胸の奥を焦がすような“きおく”と叫び。 「誰かしら、“拒絶”かしら、」 ゆら、と面を上げて何時もと変わらない笑みを作る。曖昧で朧げで崩れてしまいそうな微笑み。

2014-08-29 18:44:59
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしの、居場所を見つけてしまったから」 「わたしが、在るべき場所を見つけてしまったから」 ゆら、ゆらり。彼を負かして外へ出たとて、不安定には意味が無いのだと理解してしまった。 「“わたし”の生きるべきだった場所と、出会ったから」

2014-08-29 18:45:03
人間《ディアドラ》 @actSkbz

屋敷にいた時は何時もぼんやりとしていて、言葉も曖昧で表情すらはっきりはしていなかった不安定が、息も荒く口早にそう告げる。ゆら、ゆらり。 「わたしは、“わたし”は、」 不安定の白い肌を、青い茨が覆う。それは地へと落ち、彼女を中心に廃墟の壁を伝い広がる。

2014-08-29 18:45:08
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「──“わたし”、は!」 不安定は今、限りなく揺れている。目の前には嘗ての仲間。他の扉をくぐっていった幼き残酷。──囁きと微笑を残し、扉をくぐった貪欲。 胸を掻き毟るようにドレスの胸元を掴み、握る。今そこに、青い薔薇の飾りはない。 「もう、はなれるのは、いや」 風に消える囁き。

2014-08-29 18:45:20
武殿仁将 @rp_20kw

「離れるのは嫌、か」  彼女の言葉を、ひっそりと繰り返す。片目を眇める。ふ、と小さく息を吐いた。少し間を置き、ぼそりと告げる。 「──なら、一緒に死ねばいい」  その声に、感情は含まない。 「一緒に死んで、一緒の墓に入って、あの世でも一緒になればいい。──ほらずっと一緒だ」

2014-08-29 19:22:53
武殿仁将 @rp_20kw

 幸せだな、と呟いた。 「おまえはそいつの側にいられればどこだっていいのかもしれない。──俺はだめだ。外に出て、全ての清算をしなきゃならねえ。『ここ』じゃだめだ」  生きて、勝ち抜いて、外に出なけりゃならねえ。  なぞるように、もう一度言う。

2014-08-29 19:23:04
武殿仁将 @rp_20kw

「不安定──今ここでおまえと、おまえの連れが一緒に死ぬとしよう。おまえたちは一緒に居られて幸せだ。俺は外に出られて幸せだ。みんな丸く解決するじゃないか」  なあ──と問いかけるように。  拒絶の傍らに、ざぐり、とどこからともなく、彼女自身の所有する短槍が突き刺さった。

2014-08-29 19:23:11
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしは、しぬかしら、どうかしら」 くてりと首を傾げる。青色を持つ茨は彼女を取り巻くように集い可視化する。 「わたしはそもそも、いきているのかしら、しんでいるのかしら」 曖昧な言。変わらぬトーン。 「──“わたし”はいいの」 首を振る。ゆら、ゆらり。思考が揺蕩う。波間に消える。

2014-08-29 19:49:48
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしの幸せは彼の幸せかしら」 曖昧と言は零れる。茨はうねり、本数を増やし、青すぎる程に蒼い目はたっぷりと涙を含んで、ただ一点を──拒絶の目をじいと見つめる。 「わたしは、はなれたくないけれど、彼は外へ出たい人だから、ちがうわ」 「わたしがしぬときは、あなたが一緒よ、“拒絶”」

2014-08-29 19:49:52
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「あなたに、とこしえのねむりを。わたしは、彼の死を望まない」 廃墟然としたそこかしこの瓦礫を突き抜け、青い茨が奔る。 「あなたのしあわせなんて、」 ゆらり。上半身が揺れる。風もなく白い髪が舞う。 「“不安定(わたし)”には、関係ないかしら」 どうかしら、問う口調は柔らかで曖昧に。

2014-08-29 19:49:57
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしは“不安定”……とこしえの安息を求めるもの。とこしえの安定を求めるもの」 ゆらり、ゆら、ゆらり。 「あなたの言葉を、かりるなら──」 浮かぶ笑みに対して、表情は無く。 「わたしは、わたしのしあわせを拒絶するわ」 「わたしは、あなたのしあわせを拒絶するわ」

2014-08-29 19:50:05
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「あなただって、ほんとうは──」 「人のしあわせなんて、考えていないんでしょう」 ゆら、ゆらり。 「どうでもいいって思ってるんだわ」 ゆらり、ゆら、ゆら。 「ああ、……わたしの、安息が……」 くずれていくわ、と。言葉は風に溶けるような声音で。 「ねえ、“拒絶”、」

2014-08-29 19:50:15
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしの、痛いくらいに胸を焦がす“きおく”も、いとしくてたまらないけど何もわからないもどかしさも、」 胸元を握る。たっぷりと涙を含んだ蒼い目から涙が落ちる。 「わたしの思うしあわせも、」 微笑む。欠片程しかない“きおく”も。 「あなたに否定なんて、させないわ」

2014-08-29 19:50:24
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「──“とこしえの、ねむりを”」 空気が変わる。声音が変わる。茨はうねり、物理的な壁を物ともせず突き抜け、拒絶の足へと奔る。絡め取り、動けなくしてしまおうと。何処にも往けぬように。 「“とこしえの、ねむりを”」 繰り返す。涙がまた一滴、落ちた。

2014-08-29 19:50:32
武殿仁将 @rp_20kw

「──ッ」  走る無数の蒼い筋、触れてはいけないと頭の中で警鐘が鳴る。瞬時に之字を描いて飛び退った──が、完全には避けきれなかったようだ。うっすらと蒼い光線が脚で瞬いた。どうやらかすったらしい、僅かながらも点々と麻痺する感覚を察知する。  ──でも、まだ動ける。

2014-08-29 20:45:09
武殿仁将 @rp_20kw

「おまえはさあ──」  言葉を吐いて、息を吸う。 「安息を求めるとかなんとか言ってるけど、自分の幸せを拒絶する──ふん。結局安息を壊してるのはおまえ自身じゃねえか。おまえは、」  不安定な自分に、酔っていたいだけなんだ。  地面に突き刺さっていた短槍を、手元に再現させる。

2014-08-29 20:45:26
武殿仁将 @rp_20kw

「なんだ、連れを見つけた事で、幸せになりたいのかと受け取った俺が馬鹿だったわ。おまえは『連れに振り向いてもらえない可哀想な自分』が、『それでも連れの為に奮闘する健気な自分』が、まるで『不幸で不安定でしかいられない可哀想な可哀想な悲劇のヒロインみたいな自分』が好きなだけなんだ──」

2014-08-29 20:46:11
武殿仁将 @rp_20kw

 短槍を構える。 「不幸ごっこならよそでやれ」  ──『障塞』を展開。一つは彼女の向こう。 「前を見る気のない奴はどうにだってならねえよ」  ──『障塞』を展開。一つは彼女の前。 「俺は否定しない──拒絶するだけだ。全て肯定したとして、その上で拒絶する。理解はしても共感はしない」

2014-08-29 20:46:36
武殿仁将 @rp_20kw

 不安定を挟み込んだ二枚の『障塞』が、不安定に向かって突き進む。 「俺の名は『拒絶』──おまえの甘えた駄々の下行われる全てを、森羅万象一切合財、白も黒も天も地もなく、その命もろとも『拒絶』してやる」

2014-08-29 20:47:48
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「不幸、ごっこ?」 ちがうわ、と首を振る。とん、とんと後方へたたらを踏むように下がりながら、言葉は続く。 「わたしのしあわせは、彼が前にいること」 「わたしが、その背を追えること」 茨は奔る。次は腕を絡め取ろうと、壁から生えるようにして迫る。

2014-08-29 21:07:11
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「でもね、わたしのしあわせは、もうたくさんあるの」 ──思い出せないだけで、沢山ある。きっと充分なくらいに。 「あなたの提示する言葉に、わたしのしあわせははないわ」 「だから、わたしは拒絶する」 後方にもあることに気付けばゆらゆらと右へ歩く。 「自分の言葉に酔うのが好きそうね、」

2014-08-29 21:08:02
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「わたしはもう不安定でしかあれない。“わたし”でのしあわせなんか、望めないかしら」 どうかしら、と。言葉が落ちれば、涙も滴り。 「わたしはわたしが嫌いだし、“わたし”は“わたし”が嫌いかしら」 酔っていると言われれば、否定も肯定もしはしない。──だけれど。

2014-08-29 21:08:08