天上院照樹の憑魔録 1~GOOD END~

あらすじ:狗神に取り憑かれた少年、天上院照樹は『怪異』と呼ばれる異形と遭遇する。狗神に操られるがまま交戦するが、一瞬の不意を突かれ絶体絶命の窮地に……その状況下、狗神から放たれる言葉。彼の選びとる選択とは!?※こちらには18禁描写はありません。
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たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

照樹君は、ミコトの言葉を素直に信頼したわけではありません。いきなり姿を変えられて、戻れないとまで言われて。そんな彼女に、突然自分を信じろと言われても……実感など、すぐに湧くわけがありませんでした。 #憑魔録

2014-08-23 23:39:25
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

……それでも。人が危ないといって飛び出した、自分の体。咄嗟に人をかばったせいで、泥をかぶった体。今の窮地は全て、ミコトが人を助けようとしたからなのです。照樹君は、自分の事を信じることはまだできませんでしたが……そんな彼女の事は、少しだけ信じてみてもいいと思ったのでした。 #憑魔録

2014-08-23 23:54:02
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

だから、照樹君は自分にできる事をやってみようと思ったのです。目の前の巨大な敵を打ち倒す為に、何をすればいいのかもわからずに。 ただ、彼女はイメージします。圧倒的な力で敵をなぎ払う、狗神の姿を。自分の理想となる、狗神の姿を……そして、ゆっくりと彼女は立ち上がったのです。 #憑魔録

2014-08-24 00:10:52
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

今もなお霊力を吸われているはずの体で、照樹君は立ち上がったのです。いえ……もうその体には、泥はまとわりついてなどいませんでした。じゅうじゅうと音を立てて、体についていた泥は蒸発をしていくのです。陽炎が揺らめいて見えるほどに、その体温を上げた彼女の体によって…… #憑魔録

2014-08-24 00:19:47
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

照樹君の体を覆う白い毛は逆立って、目の前の敵を見据え睨む眼光は野生の獣のような鋭さを放ち金色に光ります。明らかに異なった雰囲気に呼応するかのように、白い体に描かれた赤い紋様も光りだしたかと思えば……その形をより大きく、複雑に変えていくのでした。 #憑魔録

2014-09-07 08:20:02
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

すっ……誰に言われるでもなく、照樹君は自然と体を屈めます。手は地につきそうな程に近づけて、顔も顎がコンクリートに擦るような距離で。 グルルルル…… 口元から牙を見せた彼女は、喉を鳴らして威嚇の為の唸り声をあげました。怯まず、『塊』は照樹君の元へと向かっていきますが…… #憑魔録

2014-08-24 00:40:16
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ガァッ!! 吠えた彼女は、獣の脚力で空へと跳び上がったのです。 背後に抱く月に照らされた、神聖な紋様をその身に纏う狗の姿。もし、人間が『塊』と同じ場所で彼女の姿を見上げたならばきっとこう思うことでしょう。 ……それはまさしく、気高く吼える狗神であったと。 #憑魔録

2014-08-24 00:49:32
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『塊』はそれを落とそうと黒い触手を伸ばして対抗しますが、照樹君が手の爪を一振りするとそれは水が熱せられる音をたててあっさりと切断されてしまいます。今や照樹君は全身を灼熱により覆っている状態となっていて、どんなに触手がやってこようともその攻撃は通用しないのでした。 #憑魔録

2014-08-24 00:59:56
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

やってくる触手を切り裂いては千切り、切り裂いては千切って前進し……それを繰り返している内に、先ほどまであれだけ怖がっていた『塊』の傍に、照樹君はやってきたのでした。当然、『塊』は必死になって触手を伸ばそうとしますが……それよりも、彼女の行動の方が早かったのです。 #憑魔録

2014-08-24 01:11:46
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

グルッ……ァァ!! 両の手から伸びる獣の爪が交差して、『塊』の泥を吹き飛ばします。そのまま消えてなくなりそうな程の衝撃でしたが、まだ目の前の怪異は消えてなくなりません。さっきまで泥が固まっていたはずのそこには、ふわふわとと禍々しい色の光が浮いて残っていたのですから。  #憑魔録

2014-08-24 01:21:00
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

それは、その怪異の『核』とでも呼ぶべき存在なのでしょう。大部分の泥を削り取られたにも関わらず、その周りには照樹君の爪を逃れた部分の泥がふわふわと浮いているのですから。今はともかく、このまま放っておけばまた泥を集めて元通りになってしまう事は素人の照樹君でも察しがつきます。 #憑魔録

2014-08-24 01:25:07
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

だから照樹くんは、その存在を目で捉えると同時に駆け出して……その勢いのまま、ガブリとその牙で噛みちぎってしまいました。ブチブチと糸が千切れるような音に合わせて照樹君が引っ張ると、泥は形を失いどんどん崩れていきます。…ブチィ!!そんな音が、その怪異の出した最後の音でした。 #憑魔録

2014-08-24 01:32:33
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

べちゃりとした泥が辺りに撒き散らされて、後に残されたのは口の中に残った飴玉みたいな形をした口の中のもの……怪異の核だったもののみ。舌でそれを確めた照樹君はベキ、と牙を立ててそれを砕くと、一気に飲み込んでしまいます。一瞬だけ、体の中に悪いものが広がったような気がしました。 #憑魔録

2014-08-24 01:38:20
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

しかしその悪い感覚も、照樹君の体が発する熱に溶かされるように体の中で自然と消えていき……後には月に照らされる狗神を残して、怪異『泥人形』は、跡形もなく消滅していったのです。それが、照樹君の初めて行った退魔なのでした。 #憑魔録

2014-09-17 18:53:16
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

夜の街に佇む狗神の体に描かれた紋様は、複雑な形から元の形に少しずつ戻っていきました。荒い吐息も逆立った毛も少しずつ落ち着いていき、四つん這いに近い姿勢が二本足で立つ姿勢に戻っていくと…… ……っ!?に、苦っ……!! ……『照樹君』は、驚いた声をあげました。 #憑魔録

2014-09-17 19:14:06
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

驚くのも無理はありません、狗神の本能に体を預けた照樹君の意識はずっと水の中に沈んでいるかのようにぼんやりとしたものになっていたのです。自分が怪異と呼ばれるものを自分の手で倒したことも、覚えてはいるのですが半ば夢の中の出来事だったかのような認識でいたのでした。 #憑魔録

2014-09-17 19:15:51
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『…ふぅ。やはり、お主に任せて正解だったようじゃな』 あ…み、ミコト…? 頭の中ですっかり慣れた声が聞こえてきて、照樹君は戸惑いながらも落ち着きを取り戻します。 『儂の体で【覚醒】を行うとはの…やはり主は、間違いなく「天上院」としての血を引いておるようじゃな』 #憑魔録

2014-09-17 19:23:28
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

か、覚醒って…? ゲームなどでしか聞かないような言葉に、照樹君はいぶかしげに聞き返します。 『それはの、主がつい先程行った事じゃ。お主も分かっておるように、狗神は人に取り憑き変異させることで人の体を操る。しかしの…儂等には、自分で自分の全力を引き出すことはできぬのじゃ』 #憑魔録

2014-09-18 01:35:59
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『儂等の霊力を引き出す事ができるのは、宿主に選んだ人間のみなのじゃ。それにしても主、紋の紋様が変わる程儂の強い霊力まで引き出せるとは…流石儂の見込んだ「天上院」じゃ』 なぁ…天上院って、何だ? 頭の中にずっとあった疑問を、照樹君はもう一度言ってみることにしたのでした。 #憑魔録

2014-09-18 02:02:29
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『お主…先より思っておったが、お主は母から何も聞いてはおらぬのか?』 照樹君の疑問に返事をするミコトの方も、どこか訝しむような調子でした。 母さんから…? 聞かれて照樹君は自分の母親、天上院 読詠(てんじょういん よみえ)を思い出しますが…心当たりなど、ありません。 #憑魔録

2014-10-28 19:24:30
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

照樹君の記憶の中で、お母さんは少々口うるさいところはありますがただの専業主婦なのです。昔からいたずら好きだった照樹君はしょっちゅう怒られたりもしていましたが……しかし、こんな異常な状況で何故お母さんの名前がミコトの口から出てきたのかはさっぱりわかりませんでした。 #憑魔録

2014-10-28 19:30:18
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『なんじゃ……本気で知らぬようじゃのう……』 やれやれ、とため息のようにミコトは言います。 『どうも、そこから教えてやった方が早そうじゃな……お主の母である読詠じゃがな、あやつは……』 ミコトがそこから言葉を、照樹君の頭の中で続けようとした時の事でした。  #憑魔録

2014-10-28 19:34:56
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

鋭くもよく響く女性の声が、照樹くんの大きな耳には鋭敏に聞こえてきたのです。その声は、聞き間違う事が無いほどに照樹くんには良く馴染んだ声でした。今しがたその顔を浮かべたばかりの照樹君の母親……天上院読詠の声。 それが聞こえてきたのは、照樹君のすぐ後ろからでした。 #憑魔録

2014-10-28 20:46:36
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

か……母さん……!! 照樹君は、今の自分がどんな姿になっているのも忘れて後ろを振り返りました。 嬉しかったのです、自分のいつもの日常の中にいる人間がすぐ傍にいてくれたことが。 かぁ……さ、ん……? ……振り返ると同時に、その声には疑問符が混じりだしましたが。 #憑魔録

2014-10-28 20:47:29
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