黒色中国さんの夜釣り

黒色中国 @bci_

今日は、夜になってから、釣友から電話。近くでガンユイが釣れる場所がみつかったから、今から出てこないか‥とのこと。実は今日は風邪ひきで、汗をたっぷりかいて、気分も悪かったのだけれど、ガンユイと聞いてはじっとしていられない。朦朧としながら、地下鉄に乗って釣り場を目指した…

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着いた場所は、池というには大きく、湖というには小さいところ。真っ暗闇の中で、友人を探したが、キョロキョロしていると、電話がなった。「こっちをみろ」という。「こっちってどっち？」と思いながら辺りを見回すと、ライトがチカチカと点滅している。私もヘッドライトを点滅させて彼に応じた。

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友人と、その父と、友人の友人の３人。全て中国人である。友人と父は湖南人で、彼の家系は兵士が多い。たぶん友人には軍歴がある。父がどういう素性の人なのかは知らないが、敢えて多くを聞かないことにしている。彼が私に言うべきことがあれば、彼の方から告げるだろう。老人というのはそういうものだ

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ガンユイというのは、大きな魚で、１ｍを越えるのが珍しくない。大きいものは何十キロにもなる。中国人はこの魚を釣る時に、より遠くへルアーを投げようとするし、大きく派手な動きをするルアーを使いたがるけれど、実際のところは浅瀬で小魚を捕食している魚である。だから私は浅瀬を至近距離で狙う。

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中腰の忍び足で水辺に近づき、木の影や、草が生い茂っているところに身を隠し、しゃがみこんで静かに小さめのワームをノーシンカーでなげる。連日の雨で岸はぬかるみ、泥になっている。靴が泥にめり込み、汚れるけれど、足音がしないので、魚にこちらの気配を悟られずに済む。こういう釣りが好きである

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友人たちは大きめのルアーを豪快に投げ込んで、「ウッヒャー」とか「アイヨー」とか叫んでいる。それでは釣れるものも釣れなくなるだろう…と思うのだが、そうやって騒ぎながらちゃんと釣り上げるのだから、不思議である。ただ、この日は結局釣果はあがらなかった。友人は１度だけアタリがあったそうだ

黒色中国 @bci_

中国人とは真反対の釣り方をしている私は、果たしてこれで本当に釣れるのか…と迷いが出てくる。釣りというのはいつもこういう悩みがつきもので、他人と同じことをやっていても釣れるとは限らないし、他人と違うことをやれば必ず釣れるものでもない。試行錯誤しつつ、ただ自分を信じるしかない。

黒色中国 @bci_

真っ暗闇の中で、岸近くの浅瀬、半径１５ｍの範囲にガンユイがいるとの想定で、ドロの中にしゃがみこんで、音を立てずにルアーを操り続ける。もしかしたら、ガンユイはそこに全くいないのかも知れない。そうだとしたら、私はとても滑稽なことをやっている。見えない魚をイメージしながら竿を振り続ける

黒色中国 @bci_

池を半周ほど釣り歩いた時、直感的に、ここは足元にいるんじゃないか、という気がした。浅瀬に小魚が群れていてる。岸近くの浅瀬は逃げ場がないので、ガンユイはこういう場所に小魚を追い込むようにして喰らいつくのである。それをイメージしてルアーを軽く投げて、岸に逃げるような動きをつけてみた…

黒色中国 @bci_

「ゴツン！」という感触…ビクともしない。たぶん何かに引っ掛けたのか…と思い、針を外すために適当に竿をクイクイと引いてみたら…勢い良く動き出した！岩が動くか？これは魚だ！しかも大きい！…と思った瞬間に感触がなくなって軽くなった…アワセが浅かったので、針を吐き出されてしまったのだろう

黒色中国 @bci_

闇の向こう側で友人が「見たぜ！」と声をあげた。「あれは大きかったな」。ただしこの時点で１１時を越えていたので、名残惜しいが納竿することにした。とりあえず初めての場所で、未知の魚から１回アタリを得られただけでも大きな収穫である。こちらの読みは外れていない。あとは釣り上げるだけだ。

黒色中国 @bci_

帰りは友人のクルマで家まで送ってもらった。車中では皆んな疲れて静かであったが、友人の父が、私に話しかけてきた。「日本と中国は戦争になるだろうか？」…いきなりの敏感な質問である。しかし、これは毎日私が考えていることでもある。迷うことなく間髪入れず、「戦争になります」と正直に返答した

黒色中国 @bci_

友人の父がどういう職業だったのかは知らない。但し彼らの一族は国共内戦や日中戦争で兵士になった者が多く、ある者は国民党軍へ、また別の者は中共軍へ入った。一族が敵味方に別れて戦ったり、日本軍と戦った人たちなのである。そういう一族の人からすれば、今後の日中関係はとても気になるのだろう

黒色中国 @bci_

「キミは、日本と中国が戦争になったらどうするのか。早く日本へ帰らなくていいのか？」と友人の父は私に聞く。「ガンユイが釣れたら帰ります。それまでは帰りません」と答えると、みんなが笑った。でも、友人の父はその返答が気に入らないようだった。「ガンユイが釣れたら、キミは日本に帰るのか？」

黒色中国 @bci_

友人の父は、「キミにとって中国は何なのだ」…と聞きたいのだろう。それは言われなくても伝わってくる。でも、私は自分のことながら、その答えを知らない。「１匹２匹じゃなく、たくさんガンユイを釣ってから帰ります。それまでは戦争になっても日本には帰りません」と茶化すと、またみんなが笑った。

黒色中国 @bci_

しばらくして、友人の父は身を乗り出し、「日本と中国、戦争になったらどちらが勝つか？」と聞いてきた。「さぁ、わかりません」と誤魔化したが、「自分の思ってる通りのことを言えばいいんだ」と逃してくれない。車内は静まり返り、友人たちも私の返答を待っている。私は「日本が勝ちます」と即答した

黒色中国 @bci_

私が答えた瞬間に、３人は「あぁ…」と声を漏らした。その意味するところが意外なのか残念なのかはわからないが、理由を求めているようだったので、「申し訳ありませんが、日本には米国の協力がありますので」と答えると、また３人は「あぁ…」と声を漏らした。これは「なるほど」という意味なのだろう

黒色中国 @bci_

友人の父は何故か上機嫌になった。「ところでキミは酒を飲めるのか？」「少しだけ」と答えると、みんなが「少しなわけがないだろう」という具合に笑った。友人の父は「よし、今度みんなで一緒に飲もう。酒をたくさん飲ませて、日本をやっつけてやる！」と嬉しそうに言った。かくして危機は回避されたｗ

黒色中国 @bci_

この数日の中国の反日報道で煽られ、友人の父は少し不安になっていたのだろう。それで、身近な日本人に正直なところを聞いてみたかったのか。気を使われることを求めていたのでも、「中国が勝つ」と言って欲しかったわけでもなく。彼自身が正直な人間であったので、正直な答えを求めていたのだと思う。

黒色中国 @bci_

私は「愛国的理由」で「日本が勝つ」と答えたのではない。科学的根拠があったわけでもない。こちらからへりくだり、「中国が勝ちます。日本が勝つ訳ありません」…などと答えるのならば、それが正しくても、そんな人間を友人にしたいと思うだろうか。その点において彼らを裏切りたくなかったのである。

黒色中国 @bci_

私自身のこんな性格が、中国で歓迎されることもあれば、裏目にでることもある。今夜はたまたま上手く行った。でも、明日はどうなるのかはわからない。「日本が勝つだと？コノヤロー！」と袋叩きにされることだって、あってもおかしくないのが中国である。そうと知りながら、そのスレスレで生きていたい

黒色中国 @bci_

そういう「スレスレ」の中でしか見極められない中国があるはずなのだ。日本に無数の中国報道が溢れかえっていても、何やら「上っ面」だけしか見えてこないようなもどかしさをずっと感じ続けていたが、いま私は釣りを通じて、中国の深層に足を踏み入れつつある…今夜はその手応えを感じることができた。

黒色中国 @bci_

中国の釣り人に「ガンユイやチャオズイはどうやったら釣れますか？」と聞くと、間違いなしに大型のミノーやスプーン、バイブレーションを薦められる。ネットで探してもそういう情報ばっかり。でも、実際の所、私がチャオズイを釣ったのはワームばっかりである。私がワームばっかり投げるのもあるけどｗ

黒色中国 @bci_

実は、中国ではワームがほとんど普及していないし、物も少ないし、ノウハウもほとんど伝わっていない。「フィネス」という言葉もほぼ認知されていない。大きい激しい動きをするルアーをガンガン投げまくるのが基本である。だから、中国で釣り方を聞くと、そういうアピール系のやり方しか出てこない

黒色中国 @bci_

現地の釣り方を学ぶ必要もあるけれど、先入観を捨て、狙っている魚、その餌となっている魚の生態とか、釣り場の状況をよく読んで、今まで自分が培ってきた釣り方を臨機応変に投入していく方がいいみたいである。こういうのは釣りだけのことではなくて、中国を広く観察する上でも同じことが言えると思う