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伊月遊 @ituki_yu
天も高々と、澄んだ蒼と細い雲の数々が空を満たしている。 空は揺れる水面に照り返され、青と蒼のコントラストが美しく周囲を彩っていた。 鎮守府から僅か20kmほどしか離れていない海。通称、鎮守府正面海域と呼ばれる海の上に、大勢の艦影が浮かんでいる。 艦は人であり、人は女性であった。
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海に浮かぶ沢山の女性達は、皆一様に、全身を火器と鋼鉄で固めている。 ある者は腕に砲を装備し、ある者は魚雷にまたがり、また、ある者は両腕に薄べったい甲板を装着していた。
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十人十色。それぞれがそれぞれに異なる毛色の様相であるが、一つだけ共通している事があり、それは、通常の人間では到底装備することの出来ない程、重く、巨大な物であった。いわんや海の上では、である。 彼女たちは艦娘。 それぞれが国のため、自ら己の身を改造した女性達である。
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  沢嶋「えー、凄い艦娘の数です。これからいよいよ選抜試験が行われると言うことです」   緊張の色を隠せず、整列しながらもそわそわと辺りを見回す艦娘達。 その中には飛鷹たちの姿もあった。
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那珂「ううー・・・」 菊月「むうー・・・」 隼鷹「こらこら、そんな緊張すんなよ。リラーックス。リラーックスー」 那珂「無理だよー、緊張しないなんてー・・・」 菊月「隼鷹はいつも通りだな、うらやましい奴だ」 隼鷹「ひっ、人を無神経みたいに言うな!」
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隼鷹「大体なあ、那珂とかあれ、仮にもアイドル目指してるならこれ位で緊張してちゃ駄目だろ」 那珂「それとこれとは話が違うもん!」 菊月「いや、一理あるな。那珂はもっと度胸を付けろ」 那珂「一緒にビビッてるあなたに言われたくない!」 菊月「びっ、ビビってなんか無い!断じて無いぞ!」
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ぎゃーぎゃーといつものように軽口を叩き合う三人を見て、飛鷹は苦く笑う。 飛鷹「ほんとにもう・・・これから試験だって言うのに、もう少し緊張感を持って欲しいわ」 島風「まあ良いじゃん。変に意識するより普段通りの方がいつもの力が出せるってもんでしょ」
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飛鷹「まあそうなんだけどね・・・あなたは落ち着いてるわね、島風」 島風「まぁね。初陣って訳じゃないし」 長門「静粛にッッ!!」 言葉を遮るように、海域に広がる凛とした声。 声の方を見ると、整列する艦娘達の真正面に、向かい合うようにしてボートが一艘浮かんでいた。
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そしてその上に、二人の人間が立っている。 一人は男で、一人は女。 女の方は仁王立ちで片手にメガホンを持つ長髪の女性。秘書艦の長門である。 長門はそのまま声を張り上げる。 長門「これより、選抜試験の内容を提督よりお教えいただく!皆、ありがたく聞くように!」
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「ではお願いします」と一礼し、隣に立つ男にメガホンを渡す長門。 士官用の略帽を目深に被り、しわの付いた紺色の燕尾服を着た、長身痩躯の男である。 メガホンを受け取り、軽く咳をしてから、おもむろに男は口を開く。 提督「あーあー、てすてーす。えー、提督です、どうも」
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気の抜けた声で挨拶する男。男は軽く頭を下げてから、そのままの調子で話し続ける。 提督「ま、適当に楽にして聞いてくれ。えー、まずは皆、今回の試験に参加してくれてありがとう。いやあ、誰も参加しなかったらどうしようかと思ってたよ、あっはっは」 と男は頭を掻きながら大きく笑う。
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菊月「・・・相変わらずのんきな奴だな。緊張感の欠片も無い」 那珂「なんか緊張してるこっちが馬鹿みたいだわね・・・」 長門「提督、そろそろ本題に・・・」 提督「ん?ああすまんすまん。分かったよ」
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隣の長門に急かされ、もう一度咳払いをしてから、男は話し始める。 提督「あー、お前ら。今日は何の日だか分かるか?」 男の問い掛けに思わず顔を見合わせる艦娘達。 球磨「はいはーいクマー」 その中で大きく手を上げる者が居た。軽巡洋艦の球磨である。
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提督「はい球磨君」 球磨「今日は金曜日だからー、カレーの日だクマー」 隼鷹「呑気さならあいつも提督に負けてないなぁ」 「同感だ」と深く頷く菊月。 その視線の先で、男は大きく拍手をした。 提督「はい球磨君せいかーい」 球磨「わーいクマー」 隼鷹「って正解かよ!」
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二人のやり取りに思わずどよめき始める艦娘達。 それを意にも介さず、男はマイペースに話し続ける。 提督「そう、今日は週に一度の大事なカレーの日だ。お前らも楽しみにしてたか?俺は楽しみにしてた。だがざんねーん、今日のカレーは中止だ。何故ならカレーの材料が今、鎮守府に無いからだ」
伊月遊 @ituki_yu
「あー、ざんねんだー」とわざとらしく肩を落とした後、顔を上げる男。その表情にはにやりと意地悪い笑みが浮かんでいた。 提督「しかし、お前らもカレー食いたいよな?俺も食いたい。金曜日っていったらカレーだ。だろ?という事でだ、今回の試験はこれだ」
伊月遊 @ituki_yu
男が横に居る長門に目で合図すると、長門は小さく頷いて大きな紙を取り出し、それを両手で広げて頭上に掲げた。 大きな紙に力強い筆跡で書かれていたのは、次の一文。 「カレーおつかい競争」 その瞬間、いよいよ艦娘達のどよめきが最高潮に達する。
伊月遊 @ituki_yu
隼鷹「はい!」 そして我慢できず反射的に手を挙げる隼鷹。 提督「はい隼鷹、どうした?」 隼鷹「『どうした?』じゃねえ!なんだよこれ!」 提督「だから試験の内容だって。さっきからそう言ってるだろ」 隼鷹「いや言ってるけど!言ってるけどもね!」
伊月遊 @ituki_yu
提督「まあ落ち着けよ、とりあえず今詳しく説明するから」 「おい」と男が一声掛けると、長門は掲げていた紙を足下に置き、別の大きな紙を先ほどと同じ様に広げる。 それはこの海域周辺の海図であった。その海図には各所が赤い丸で囲まれている。
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そしてその丸の中に、ジャガイモ、人参、豚などのイラストがポップな絵調で描かれていた。 その紙を思わず二度見し、それから男をジト目で見返す隼鷹。 隼鷹「なあ、これってまさか・・・」 提督「多分大体予想通りだ。さて、じゃあ詳しく説明しよう」
伊月遊 @ituki_yu
ゴホンと大きく咳払いしてから、男は説明を始める。 提督「さて、お前達にはこれからカレーの材料を調達してもらう。この海図には材料がどこにあるか書いてある。どんなルートを使っても構わん、海図に書いてある全ての材料を最初にここへ持ってきた奴らが勝ちだ。分かりやすいだろ?」
伊月遊 @ituki_yu
菊月「むう、ほんとにただのおつかいだな」 那珂「ホントね。けどこれなら楽そう」 金剛「フフーフ、そう思うのが素人の浅はかさデース」 那珂「うわっ!こっ、金剛さん!?」 那珂と菊月の間からニュッと顔を出して現れる金剛に、那珂達は思わず声を上げる。
伊月遊 @ituki_yu
菊月「金剛さん、頼むから急に現れないでくれないか。心臓に悪い・・・」 金剛「フフーフー、善処するネ」 島風「ねえねえ、それよりさっき言ってたのってどう言うことよ?この試験、パッと見る限りそこまで難しいように思えないんだけど」 金剛「パッと見はね。けど、そんな事nothingネ」
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