説明する必要はまるでないと思うんですが、史上最強の弟子ケンイチとは、週刊少年サンデーにて10年以上連載していた少年漫画です。ざっくり言えばいじめられっこの少年白浜兼一が、ある日転校生風林寺美羽と知り合うことによって武術の世界に足を踏み入れていく物語。
2014-09-18 11:55:50タイトルに「史上最強の弟子」とありますが、これは主人公ケンイチが史上最強であることを示すものではありません(いずれそうなる…かもしれないとはいわれてますが)。その師匠となる達人たちが「梁山泊史上最強」に値するメンツであることによります。
2014-09-18 11:59:49ケンイチは少なくとも初期においてはあくまで普通の少年です。花を育てることが趣味で、小説家になる夢を持つ、少し気弱で臆病だけど優しい少年です。そしてちょっと運動音痴気味でした。 しかしその師匠となる達人たちは「史上最強」なのです。このギャップは作中でも何度も強調されます。
2014-09-18 12:03:45「こいつ自身に才能はかけらもないが、こいつの師匠たちは化け物か!?」と、作中でケンイチと対するものたちが似たセリフを何度も口にします。武術の才能のないケンイチが彼らに示した実力が、才能ある彼らと遜色のないものだったからです。
2014-09-18 12:12:19そうしてケンイチはその才能の無さにも関わらず、師匠たちによる破壊的な修行により強敵たちと渡り合えるだけの実力を得ていくわけですが、同時に、そうまでしても強くならなければならない理由がありました。
2014-09-18 13:20:25連載初期においてのそれは「いじめっ子に負けないため」です。いじめられないだけの強さを得ること、対抗できるだけの戦力を備えること、これはケンイチが武術の道に入る理由そのものでもあります。
2014-09-18 13:23:27この理由は連載中盤からもう少し過激になります。「殺されないため」。いじめとは次元の違う武力と暴力の世界に入ることを選んでしまったケンイチにとって、これは当然ですが切実な問題となりました。
2014-09-18 13:25:54そしてもう少し経つと、この理由が少し変化します。「殺されないため」に加えて「殺させないため」にケンイチは強くなっていくようになるのです。
2014-09-18 13:30:54この理由の推移は物語の進行とほぼ連動しています。本作の流れは大きく分けて三つです。いじめっ子とそこにつながる不良集団ラグナレクとの戦い、殺人拳を標榜する”闇”の弟子集団YOMIとの戦い、そして師匠たちを交えた”闇”そのものとの戦いです。
2014-09-18 13:42:10ぶっちゃけYOMIと”闇”の戦いは結構重なってたり前後してたりするので厳密に分かれているわけではないのですが、やっぱりテーマ的にはそのような区分になると思います。
2014-09-18 13:48:29三つの流れには、もちろん他にも何人もの強敵が登場しますが、とりわけ象徴的なライバルがそれぞれに一人ずついます。ケンイチの幼馴染でありラグナレクのリーダーである朝宮龍斗、YOMIのリーダーであり”闇”のトップ一影九拳の技すべてを受け継ぐ「一なる継承者」「スパルナ」こと叶翔。
2014-09-18 14:06:52最後に叶翔の後にYOMIのリーダーとなった一影の弟子、鍛冶摩里己。この三人がそれぞれの流れの中でケンイチと対決するラスボスとなります。
2014-09-18 14:11:55史上最強の弟子ケンイチにはいくつかのテーマが根底にありますが、そのうちの一つに「活人拳と殺人拳」というものがあります。これは武術におけるスタンスの違いであり、敵対してもあくまで人を殺さない「活人拳」と、積極的結果的は別として人を殺すに至る「殺人拳」の違いです。
2014-09-18 14:58:25当初のいじめっ子に対抗するために武術を始めたケンイチは当然そんな闘争には関わりませんし知りません。それに、いじめっ子をやっつけた→そのことで不良に絡まれた→その上の不良に絡まれた→さらに上のryという無限ループにはまっていましたし。
2014-09-18 15:09:59ケンイチが正式に梁山泊に弟子入りし「活人拳と殺人拳」の争いに関わるのは不良集団ラグナレクとの戦いが終わってからです。より正確に言えばYOMIの一員でもあったラグナレクのリーダー、朝宮龍斗との対決を経てのことになります。
2014-09-18 15:13:29朝宮龍斗はケンイチの幼馴染でした。過去の出来事からケンイチに対してコンプレックスを抱き、また武術の暴力的要素に憑かれた少年です。”闇”の達人に弟子入りしたのもその力と思想に惹かれたからです。
2014-09-18 15:18:33朝宮龍斗との戦いはケンイチにとって様々な意味で転機となりました。幼馴染との対決、仲間との共闘、膨大な修行の一つの結実と、武術や人間関係における重大な変化の端緒となりました。それは「活人拳と殺人拳」ひいては梁山泊と”闇”の戦いに身を投じる一因ともなったのでしょう。
2014-09-18 15:29:40ところで活人拳もそれなりに多種多様の人物が描写されますが、どちらかといえば殺人拳側においての方がより幅広く登場していたように思います。活人拳側のほとんどが梁山泊におり、家族のように暮らしていることも原因かと思います。
2014-09-18 15:33:05殺人拳、”闇”は師匠と弟子の関係を別にすれば基本的に相互不可侵の態度を取っております。これは、彼らの殺人拳における些細な、しかし時に隔絶した考えの違いによるものです。
2014-09-18 15:36:21積極的に敵対者を殺めるか、無関係な他人を巻き込んでも仕方ないと考えるか、ただ武術の勝負において死は避けられないものだと見なしているか。それは弟子集団であるYOMIにおいても顕著であり、YOMIとの対決は彼らのそれぞれの思想との対決でもありました。
2014-09-18 15:41:14そのためYOMIとの戦いは一つ一つが重要でとてもおもしろいものとなるのですが、その中で実のところリーダーである叶翔は異質な存在でした。何しろ意外と早く戦い、決着をつけることになるのです。今読めばあのタイミングしかないと思いますが、当時びっくりしてました。
2014-09-18 15:45:49