【魔法少女まどか☆マギカSS】 似たものどうし 【ほむマミ】
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sizuoka074
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新しい子を誘ったらどうかって、佐倉さんに誘われた。「いいツテがいるんだよ。信頼できるし、腕もいいしさ。顔?ハハッ、大した美人じゃない感じだな。胸もこんな平べったくてさ――」佐倉さんがそう言うんなら、きっといい子なんだろう。そう私は期待してた。
2014-09-19 20:59:35
けど「どうも、巴マミさん。暁美ほむらです」淡くて馬鹿な私の期待は、どろどろしたなにかに変わってしまった。 ―― 後輩コンプレックス
2014-09-19 21:01:12
髪の毛さらさらでお人形みたいに綺麗で、こんなぶくぶくした醜い胸なんてついてなくって、いつも佐倉さんのすぐそばで馬鹿馬鹿しい冗談を言い合えて、美樹さんには文句を言われて、鹿目さんには頼られて、成績だって抜群で、いつも控えめに「巴さん」って呼んでくる暁美さんが大嫌いなマミの話。
2014-09-19 21:04:10
私だってもっと年頃のお友達らしく佐倉さんと冗談を言い合ったりしてみたいし、美樹さんに頭をはたかれたり、鹿目さんに宿題を教えて欲しいって聞かれたりしたい。そんな私にできないことが、暁美さんには簡単にできる。魔獣退治のときだって、いつでも冷静でサポートに回ってくれる。
2014-09-19 21:10:02
爆弾で髪の毛がちりちりになったりするのを暁美さんは嫌がったりしない。夜明けまで魔獣と戦ったその朝でも眠そうにしてたことなんてなかったし、髪はいつでもつやつやで、爪も綺麗に磨かれてる。学校の成績が落ちたこともない。私は立派でいることに、こんな疲れてしまってるのに。
2014-09-19 21:13:17
心の中で軽蔑されて、笑われてるのわかってる。暁美さんは目がいいの。パパから贈ってくれたバッグをこっそり見せびらかせても「それあそこのブランドですね」って言い当てられるぐらい。そのバッグが流行ってたのがずっと前だって聞いた私が恥ずかしい思いをしたことも、暁美さんは気付いてるはず。
2014-09-19 21:17:32
私は暁美さんが嫌だった。自分がなにもかも無理をして、それでも必死に取り繕うと無我夢中で努力して、だけど少しも足りてないのをなにかもかも見透かされているようで私はあの子が嫌だった。あの子を少しも認めてやれない醜い自分が浮き彫りになり、とても惨めな気持ちになるから、暁美さんが嫌だった
2014-09-19 21:20:16
そんなある日のことだった。鹿目さん達と集まって、そこに暁美さんも混じっているとき、たまたま授業の話になった。今度調理実習があって、シフォンケーキを作るんだって。自分はそういうのが得意じゃないから実習の日はどうしようとか鹿目さんも言い出したとき、美樹さんが手を叩いた。
2014-09-19 21:25:24
「マミさんとほむらはどっちが料理が上手いのかな」って。私は最初びっくりしたけど、すぐにかっと胸が高鳴り、美樹さんに拍手するのをぐっとこらえた。私は料理が得意だった。ママはお菓子作りがすごく上手で、私はいつも小さい頃からママの料理を手伝ってたから。
2014-09-19 21:27:27
暁美さんも料理ができるんだってことは今初めて聞いたけど、私は負けると思わなかった。暁美さんに勝てると思った。だから私は声が浮ついてしまうのを必死に押さえて、そうできてたかはわからないけど、先輩ぶってこう言った。「そうね。それなら比べてみない?」って。最高の案だってそのときは思った
2014-09-19 21:30:13
『その日の授業が終わったら、みんなで私の家に来て、それぞれケーキを作ってみよう』って、自分をひけらかすんじゃなくって、いかにもそのとき思いついたパーティをはしゃぐ振りをしながら私はみんなの顔を見た。みんな大喜びして手を叩いたけど、暁美さんだけぎこちなかった。
2014-09-19 21:33:19
絶対わかってたんだと思う。私、人より鋭かったし、暁美さんが目をつけられて困ってるんだって確信してた。ちょっと視線を泳がせて言葉に詰まる暁美さんを見て、ぞくぞくするのが止まらなかった。
2014-09-19 21:36:13
結局誰も反対しなくて、ケーキパーティの日取りは決まった。私は暁美さんに惨めな思いをさせられるのが、本当に楽しみで仕方がなかった。その夜、私は自分でも馬鹿みたいに思えるぐらいうきうきしながらシャワーを浴びて、普段は絶対に飲もうとしない、お料理用のワインを開けた。
2014-09-19 21:37:26
酸っぱくって甘くなくって少しもおいしくなかったけれど、みんなが私のケーキを指さし「マミさんのケーキは最高ですね」って笑い会ってるその影で、暁美さんがうちのめされて悔しそうにしてる姿を想像すると、体の奧が燃え上がり、自分が火の玉になったみたいになった気がした。
2014-09-19 21:40:14
「ねえ、キュゥべえ。窓閉めて」私はとっておきのネグリジェを着て、ベッドの上に寝転んだ。いけないことだってわかってたけど、今日ぐらいはいいって思った。足の付け根に指を這わせて、もぞもぞと太ももをすりあわせながら私は佐倉さんの名を呼びながら、くたくたになるまで楽しんだ。
2014-09-19 21:42:55
それから何日かの間、私は毎日レシピを読んで、ケーキを作る練習をした。ママ特製のふわふわシフォン。まだまだママには勝てないけれど、本当に私に得意なお菓子で、佐倉さんや鹿目さんにも何度も誉めてもらってる。
2014-09-19 21:46:24
その朝も最高のケーキができた。早起きするのはつらかったけど、暁美さんに負けないためならしょうがないって張り切った。二口ぐらい味見して、「うん、完璧!」だなんてはしゃいだあとで、ケーキはお隣のおじさんにあげ、私はばっちり髪を整え、学校行きのバスに乗った。
2014-09-19 21:47:59
おはよう。おはよう。バスから降りて挨拶をする。体が軽くていい気持ち。明後日にはもうパーティだ。まばたき一回するだけで、そのときのことが想像できた。「おはようございます」「おはよう。あら、暁美さん」他のバスから降りる生徒に、暁美さんが混じってた。
2014-09-19 21:55:17
ちょっと派手めなイヤーカフスに、枝毛一つ無い綺麗な黒髪。いつもなら嫌味に思えたかもしれないけど、その日は本当に気分がよくて、大したことないなって私は思えた。「今日も勉強、頑張りましょうね」「はい。でも、今日はちょっと残念なお話があるんです」「あら、どうしたの?風邪でも引いた?」
2014-09-19 21:57:19
暁美さんは微笑みながら、すこし物憂げに視線を逸らした。今から負けるときの言い訳かしら?そう言わなかった自分が不思議だ。だけど彼女の視線を追って、私は言葉を失った。「ごめんなさい。うっかり怪我をしてしまって」暁美さんの右手には、分厚い包帯が巻き付いていた。
2014-09-19 22:00:36
「…その怪我」「昨日、家の近所に魔獣が出たんです。なかなか上手く戦えなくて…」「そう。だいじょうぶ?」「ひびが入ってるらしいけど、すぐに直ると思います。料理は、難しそうですけれど」残念ですね、と笑う彼女にかける言葉が出てこなかった。
2014-09-19 22:03:09
どうして笑ってるんだろう。どうして笑えてるんだろう。私は嫌な先輩で、暁美さんより劣ってて、いつもそれを逆恨みにして悔しがってような子で、ケーキパーティだなんて嘘ついて暁美さんに恥を掻かせて勝ち誇ろうとしてる子なのに。ぐるぐると思考が溢れかえって、それで頭が真っ白になる。
2014-09-19 22:07:25
「あの」そのときなんて言おうとしたのか、私はわからなかったけど。「ご馳走できないのは残念ですけど、巴さんのケーキは楽しみにしてます」 私は相手にされてないって、そのことだけははっきりわかった。
2014-09-19 22:10:08
私は学校をずる休みした。担任の先生には風邪だと言って、布団の中に引きこもった。自分がみじめで仕方なかった。私がライバルだと思ってたあの子は、私なんか歯牙にもかけない、どうでもいい人間でしかなかった。なんか馬鹿なんだろう私は。あんな綺麗で完璧な子が、私を相手にするわけないのに。
2014-09-19 22:12:44