デストロイ・ザ・ショーギ・バスタード #1
二頭の牡牛がぶつかり合うピンク色のネオン看板が、重金属酸性雨を浴びてバチバチと火花を散らした。その下では「ノー・ブルシット」「危険」「ツクツク」と書かれた危険なLED文字が、交互に点滅する。ここは、ネオサイタマのリアルヤクザたちが夜な夜な集う危険な違法賭博場、「ツクツク」だ。 1
2014-09-26 21:46:21錆びたエントランスに立つのは、2人のクローンヤクザだった。首筋にはヨロシサン製薬のバーコードが刻まれ、ネクタイにはソウカイヤ紋。2人は雨の中を近づいてくるハンチング帽にトレンチコートの男を発見し、顔を見合わせた。それから同時にタンを吐き、同時に胸元のチャカ・ガンに手を添えた。 2
2014-09-26 21:51:25「俺は客だ」コートの男が立ち止まり、顔も上げずに言った。上空を飛ぶマグロ・ツェッペリンが裏路地に商業的漢字サーチライトを投げ下ろし、頭上では牡牛ネオンがまた火花を散らした。「「……ここはヤクザ専門店ですよ」」クローンヤクザは同時に言った。非人間的な統一感と威圧感を感じさせた。 3
2014-09-26 21:56:04「俺はヤクザだ」男はトレンチコートのボタンを外し、その中に着込んだヤクザスーツを見せる。確かに客だ。「「ドーモ」」クローンヤクザたちは胸のチャカ・ガンに添えていた手を離し、詫びるようにオジギした。「ドーモ」男もハンチング帽の鍔に手を添え、コートを閉じると、深々とオジギした。 4
2014-09-26 22:02:132人は男のLED傘を受け取り、ドアを開けた。まだ賭博場は現れない。厳重な警戒だ。ここがソウカイヤの暗黒資金ロンダリング施設であることを臭わせる。「「サイバネをスキャン重点」」無数の小さな青色電球が整然と埋め込まれた鏡面加工の廊下には、飛行場の金属探知ゲートめいた装置があった。 5
2014-09-26 22:07:41「ツクツク」では、サイバネ者の入場が厳しく制限される。男は少し思案した。後方ではクローンヤクザが睨みをきかせる。それから男は臆することなく、粛々とサイバネ探知ゲートを潜った。サイバネ反応は…皆無。「ハイヨロコンデー!」非人間的な電子合成音が鳴り、前方の防弾ショウジ戸が開いた。 6
2014-09-26 22:14:30煙草、酒、ヤクザ香水、その他にも様々な違法薬物の臭いが、ハンチング男の鼻孔をくすぐった。男は顔をしかめ、賭博場に足を踏み入れる。「ハン!チョー!ハン!」「マッタ!」「大当たり重点!」あちこちから剣呑な声が聞こえる。フロアは巨大なアーケードゲーム場を改装して作られ、薄暗く広大。 7
2014-09-26 22:19:53男はオイラン・バニーのきわどい接待をかわし、鋭い目つきで賭博場内を一巡した。「見ろよ、トッポいニイちゃんが来たぜ」「ああ、ケジメひとつねえ、綺麗な指だ」違法賭博シューティングゲームに興じていた傷顔のヤクザ2人が、隣のオスモウ・スロットに座ったハンチング男をちらりと見て言った。 8
2014-09-26 22:25:31男は慣れぬ様子で、機械に触れた。「ニイちゃん、遊び方知らねえのか?」ヤクザが笑う。男は少し思案してから、万札を機械に入れた。そしてレバーを引く。「ハッキョーホー!」威勢のいい電子音が鳴り、ドラム回転!「兄ちゃん、揃えりゃ億万長者だぜ!」男は順にボタンを押す!「お」「相」「鯖」 9
2014-09-26 22:33:28「アッ!ザンネン!」電子オスモウ音声が鳴る。そして死に絶えたかのように、盤面のLEDネオンが消失した。ハズレだ。そして信じ難いことに、この違法スロットマシンはワンプレイに万札1枚を要するのだ。「……」男は舌打ちし、椅子から立ち上がる。ヤクザの笑い声を後ろにまた店内を歩いた。 10
2014-09-26 22:38:23その時不意に、奥のコロッセウム場からヤクザたちの歓声が上がった。何かイベントが始まるのだ。「ショータイム!ショータイムドスエ!」半裸のオイラン・バニーガールが、声をかけて回る。「……何が始まる」ハンチング男はごくりと唾を呑みながら、そこへ向かった。焦燥感をなお強めながら。 11
2014-09-26 22:44:09強烈な光を浴びたコロッセウム場には、2トンはある巨大な牛がいた。数十人のリアルヤクザが早くも手に汗を握りそれを見ている。牛は前脚で砂を蹴り、今夜の犠牲者を待ち切れぬ様子!「兄ちゃん、新顔だろ?」先程のヤクザが横から男に話しかけた。「あいつの名はマツザカ。情け容赦ない怪物さ」 12
2014-09-26 22:50:45恐るべき筋肉量。刺殺のためだけの角。轢殺のためだけの四肢。鼻からは凄まじい蒸気。マツザカは正真正銘の魔物に相違ない。「マツザカヤレッコラー!」「スッゾコラー!」観客も興奮している。「何が始まる」男はヤクザの顔も見ず、腕組みしたまま問う。「見せしめ処刑さ。スカっとするぜェ?」 13
2014-09-26 22:56:08「処刑……」観客席の中程から、男は鋭いカラテの眼差しで猛牛マツザカを睨んだ。抑えていたキリングオーラがにじみ、隣にいたヤクザは無意識のうちに身震いする。果たしてこの男は何者なのか?「アイエエエエエ!アイエエエエエエ!」コロッセウムの鉄格子が開き、屈強なスモトリがまろび出た。 14
2014-09-26 23:01:35「マツザカヤレッコラー!」「スッゾコラー!」観客が興奮している。「ウオーッ!ドッソイ!」覚悟を決めたスモトリは凶悪武器サスマタを構えた。悲壮な覚悟だ。「ああ、処刑さ。ツクツクでイカサマを働いた野郎にゃ、この運命が待つ。シャカリキでもやるか?安くしとくぜ」ヤクザが男に言った。 15
2014-09-26 23:06:44「バモオオオオーッ!」猛牛は地獄から響くような唸り声を上げた。体には無数の傷跡。目には殺戮機械めいた激情。蹄鉄に染み付いた血は、果たして何人分の血か……既に禍々しい光沢を放っている。マツザカは興奮で泡を吹き、突進を開始した!「ウオーッ!」薬物興奮スモトリも迎撃態勢を取った! 16
2014-09-26 23:12:18そして衝突!「アバーッ!」スモトリは弾き飛ばされた!そして浜辺に打ち上げられたマグロめいて転がり口をぱくぱくさせる!ナムサン!ヤクザたちが歓声!「どうだい兄ちゃん、おっかねえだろ?でもな、ここに来るのは命知らずばかりだ。多い日にゃ何人も、イカサマ容疑で店の奥に連れてかれる」 17
2014-09-26 23:17:57「成る程」男は言い、踵を返した。「どうしたい、ここからが楽しい所だぜ。ブルっちまったのか?負けのイライラを解消しようぜ?シャカリキをキメりゃあ……」「あのスモトリはどのようにイカサマした?サイバネはスキャンする筈だが」「……?さあな、勝ちすぎたんだろ。おかしいくらいにな」 18
2014-09-26 23:22:42「成る程」男は頷いた。「おい、待てよ兄ちゃん、折角俺が楽しみ方を教えてやってるってのによォ…」傷顔ヤクザの声に耳を傾けず、ハンチング帽の男はツカツカと歩き、先程のオスモウ・スロットの前に再び座った。ドラムを射竦めるような鋭い眼差しで睨みながら……シワだらけの万札を投入する! 19
2014-09-26 23:26:14男の右腕にカラテがみなぎる。そして彼はごくりと唾を呑み……レバーを引いた!「ハッキョーホー!」電子音が鳴り、ドラム回転!ドルドルドルドルドル!男は額に汗を浮かべ、順にボタンを押す!「お」「相」……ドルドルドルドルドルドルドル!!……「撲」!キャバァーン!電子ファンファーレ! 20
2014-09-26 23:30:42男の右腕に再びカラテがみなぎる。彼はごくりと唾を呑み……レバーを引いた!「ハッキョーホー!」電子音が鳴り、ドラム回転!ドルドルドルドルドル!男は額に汗を浮かべ、順にボタンを押す!「お」「相」……ドルドルドルドルドルドルドル!!……「撲」!キャバァーン!電子ファンファーレ! 21
2014-09-26 23:33:03男の右腕にみたびカラテがみなぎる。彼はごくりと唾を呑み……レバーを引いた!「ハッキョーホー!」電子音が鳴り、ドラム回転!ドルドルドルドルドル!男は額に汗を浮かべ、順にボタンを押す!「お」「相」……ドルドルドルドルドルドルドル!!……「撲」!キャバァーン!電子ファンファーレ! 22
2014-09-26 23:34:46既にLED文字盤の金額は1億円。「ブッダ!」ヤクザが息を呑んだ。人間業とは思えぬ。イカサマか。この男は密かにサイバネを持ち込み、イカサマを働いているのか!?「兄ちゃん、その辺にしとけ。死にてえのか……!」「まだだ」男は焦燥感に満ちた声で言い、容赦な4度目のレバーを引いた! 23
2014-09-26 23:41:44だが……ドラムは自動的に停止し、謎のクロスカタナ紋が3つ揃ったのだ。果たしてこれは!?ブガー、ブガー、ブガー!次の瞬間、赤い非常ボンボリが台の上で回転。紫の上級ヤクザスーツを着た小男が、クローンヤクザを引き連れ、店の奥の隠しドアから現れた。「あそこか……」男は眉根を寄せた。 24
2014-09-26 23:45:46