「註釈家スティラマティの実像へのアプローチ」

国際シンポジウム「註釈家スティラマティの実像へのアプローチ」についての師茂樹先生のtweetをまとめました。
2
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

今日は筑波大学の東京キャンパスで国際シンポジウム「註釈家スティラマティの実像へのアプローチ」に参加した。先月の同じグループのパネル発表に続いて、今回もコメンテータをやった。いろいろ綱渡りで大変だったけど、結果的に大変有意義で楽しい会だった。

2014-09-27 21:04:22
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

シンポジウムのプログラムを貼っておこう:1. 佐久間秀範「註釈家スティラマティの諸著作を吟味する新たな指標」/2. Martin Delhey “The Opening Sections of Select Commentaries Ascribed to Sthiramati”

2014-09-27 21:05:54
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

3. Jowita Kramer “Remarks on Sthiramati’s Pañcaskandhakavibhāṣā and Sūtrālaṃkāravṛttibhāṣya”/4. 吉村誠「『成唯識論述記』における安慧について」

2014-09-27 21:07:14
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

5. 伊藤康裕「『大乗中観釈論』の構成と安慧の注釈態度」/6. 師茂樹「コメント」/7. ディスカッション …こんな感じのプログラム。

2014-09-27 21:09:31
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

先月の印仏学会のパネルでは、注釈しか著作を残しておらず、しかも各注釈がそれぞれ注釈対象にあわせたことを述べるスティラマティに対する文献学的な方法の限界が提起された(と思ったので、今回もそのようにコメントした)。すなわち、通常の文献学であれば、複数の著作が同一人物のものかどうかを

2014-09-27 21:12:27
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

判定する場合には、各著作に書かれていることが(大ざっぱに言えば)一致するかどうかで判定する。同一人物であれば同一の思想を持っており、それがテキストに反映されているだろ、というのが文献学的な考え方である。しかし、スティラマティの場合、前述の通り、文献によって言っていることが…

2014-09-27 21:15:01
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

…違う場合があり、それは文献学的には別の著者となってしまう。このような傾向を持つ著者の著作群を、同一著者のものかそうでないかと判定する新たな基準が求められており、そのため私は前回の印仏学会のパネルでは思想家/註釈家モデルというのを提案してみたのである。

2014-09-27 21:17:52
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

この分析モデルはいろいろご批判を頂いて、そのままではまだ使い物にはならない (^_^;) が、著者判定のための新しい方法論が求められていることはまちがいない。今回のシンポジウムでは、このような問題意識をふまえたような発表が多くあり、その意味でたいへん有意義であった。

2014-09-27 21:19:52
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

最初の佐久間先生の発表では、スティラマティをはじめとする唯識派の文献を分類する新しい基準として、実践理論/教義理論モデルとでも言うべきものが提案された。これは『シリーズ大乗仏教 唯識と瑜伽行』amazon.co.jp/gp/product/439… の佐久間論文にもあるので知っている人も…

2014-09-27 21:24:06
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

…多いかもしれないが、唯識派の文献には修行者の生の体験に基づく記述と、後にそれが整理体系化されたもの(体験に基づかないもの)の2種類があると仮定して、分類してみようというものである。このモデルはいろいろ批判もあったものの(実践に基づかない仏教書ってあるのか、とか)…

2014-09-27 21:26:54
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

…割と賛同を得ていたように思う。これに関連して、シンポジウムを通して盛り上がった議論は、スティラマティは瞑想修行をしていたのか、それとも瞑想より学問を好む学僧だったのか、というもの。瞑想と学問を二項対立的にとらえることについては、もちろん議論があったが、このような議論が出る…

2014-09-27 21:30:24
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

…背景には、スティラマティがアビダルマ文献と瞑想修行との関連について、いくつか興味深い議論をしてことがある。アビダルマ的な知識は瞑想修行のために必要なのか(もちろん有部や唯識派は必要不可欠と考える)、必要ならばそれによってどのような効果があり、結果が得られるのか、等々。

2014-09-27 21:33:17
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

さて、3番目のKramerさんの発表では、註釈のしかたによる著者性の判定(stylistic criteria)という方法が提案された。一方でDelheyさんの発表では、スティラマティの著作が、ある種の“tradition”において世代を越えて成長していったのではないか…

2014-09-27 21:36:27
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

…という仮説が提示された。著作をfloating and volatileなものであると見るDelheyさんの視点は興味深いが、一方でそのtraditionをどう考えるのか、そもそもfloatingな文献とはどういうことか、みたいな議論があって、なかなかおもしろかった。

2014-09-27 21:38:56
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

4番目の吉村さんの発表は、『成唯識論述記』におけるスティラマティとされる説を再検討するとともに、同書が伝えるスティラマティの伝承も紹介しながら、スティラマティに関する東アジアの伝承の問題点を提起した。私のコメントでも触れたが、東アジアの伝承では、スティラマティは正量部と結び

2014-09-27 21:41:26
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

つけられる。正量部は、玄奘の伝記では玄奘がボコボコにした部派として印象的に描かれまた最近の研究では真諦三蔵の部派としても知られる。東アジアの伝統では、真諦はスティラマティとしばしば結びつけられるので、この正量部との関係は何かありそうな匂いのするところなのである。

2014-09-27 21:44:05
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

最後の発表となる伊藤さんは、スティラマティ作と言われるものの漢訳しか残っていない『大乗中観釈論』の第23章を扱ったもの。『大乗中観釈論』に引かれる『中論』の頌が、一般的な『中論』とところどころ違う点、スティラマティがバーヴィヴェーカの議論を前提として註釈をしているらしい点などが…

2014-09-27 21:46:44
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

…指摘された。実はこの発表、準備段階でいっしょに『大乗中観釈論』を読んでいたので(先行研究がほとんどないので、読解のとっかかりをつかむまでは苦労した)、こうして発表として形になったのは感慨深い。

2014-09-27 21:49:36
師茂樹 MORO Shigeki @moroshigeki

以上は私の関心に基づくものだが、他にもたくさんの論点が出たし、議論も盛り上がった。さらには、国際・国内交流も和気あいあいと行われたので、まずは大成功だったと言いたい。しかし、コメンテータはけっこうきつかった。行きの新幹線で日本語・英語のレジュメを作ってたしな (^_^;)

2014-09-27 21:55:23