小噺【ウェストミンスターの担々麺】

アネクドート(ロシアンジョーク)に出てくるロシア成金を題材に小噺をひとつ。
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スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

落語くん(@rack_go)なんて面白そうな方が現れたようだね。俺は聴くばかりの道楽者だけど、ここはひとつ、記念に馬鹿馬鹿しいお話をひとつやらせていただきましょうか。

2014-10-02 23:10:14
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

さて、ひとつ馬鹿馬鹿しいお話をお聞きいただきます…。 金は天下の回り物――とは申しますけれども、この金ってやつは…本当、回ってこないトコには、とんと回って来ないもんです。回る、ってぇ字は正方形がふたっつですが、金の廻りに限っちゃあ、楕円軌道でも描いてるに相違ない。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:19:51
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

いやさ、金に限らず、資産も財貨も生産手段も、万物これ流転するものではあるんですが…どうにかこうにか策をめぐらして、金が天下を極力回らないようにした国がございます。俗に言うソ連邦ってヤツですが、まあそいつがどうなったかは、これ皆さんご存知かと思います。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:22:22
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

夏草や タワーリシチが夢の跡…。東西冷戦の一方の雄も今じゃ見る影もなし、とうとう今時分の若いロシア人はソ連を知らぬ世代もちらほらと出てきておりまして。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:25:05
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

今のロシアじゃ逆に大金をもって成り上がった「ノーヴィエ・ルスキエ(新ロシア人)」なんて層がおりましてね、この連中はジョークの中じゃ、大抵「成金のロクデナシ」みたいな扱いにされとります。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:26:55
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

さて、ロンドンはヒースロー空港の入国の列に、でっぷり太った男がひとり。押しも押されぬ成金ロシア人のアレクセイが、悪名高いヒースローの行列に混じって、独りロシア語で悪態をついておりました。 #スラヴ小噺

2014-10-02 23:32:15
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

このガラの悪いロシア男、いつものろくでもないビジネスの都合で英国を訪れ、今ようやく入国審査が終わろうというところ。肩を怒らせて歩きだせば、ぶつかった英国紳士をロシア語で罵る罵る。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:34:37
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

頼んでおいたガイドの青年に、「おい、俺は腹が減った。何か美味いものを出す店へやれ。ロンドンにもしあるならの話だがな」。ガイドの青年も心得たもので、「承知しやした、ダンナ。ロンドンでどこよりも旨いメシが食える店へご案内しましょう」。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:36:27
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

さて辿りつきましたるは、かの有名なウェストミンスター。霧の都のド真ん中、荘厳なウェストミンスター寺院には目もくれず、ガイドと成金は歩いていきます。 「おいガイド、肩が濡れる。傘を出せ」 「へえ、ダンナ」 道ゆくロンドン市民の雑踏の中、独り金ピカの傘をさす成金。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:39:03
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「ははあ、アングリヤの紳士連中は、傘を買うカネも惜しむと見た。皆して俺の黄金の傘に注目しておるわ」 道ゆくロンドンっ子は、誰一人傘なんぞさしちゃァいません。無知と無教養こそ、ロシア成金の特権でございます。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:41:54
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「さあさ、ダンナ。ここがロンドンで一番ウマいものを出す店でさ」 「おう、なんだ、随分とまあ薄汚れた店だ。中にいるのは東洋人か?」 「ご慧眼で。ロンドンはウェストミンスターに、この店ありと謳われる名店! 『チャン・アンド・リー・チャイニーズ・フード』でさぁ」#スラヴ小噺

2014-10-02 23:44:41
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

皮肉も分からぬ成金男は、傘をたたむとガイドに押し付け、案内も待たずに席に尻を押し込んで。 「メニューを出せ!さっさとしねえか!…よーしよし、早くよこせ。なんだこの食い物は?旨いのか?」 「へえ、ダンナ、これは…」 #スラヴ小噺

2014-10-02 23:47:19
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「へえ、ダンナ、これはですね…」 「ああ、分からん分からん。キターイツィ(中国人ども)の文字なんざクソ喰らえだ!一番旨いのをよこせ!カネならあるぞ!」 「へいダンナ。俺のおすすめを注文しておきますんで…」 #スラヴ小噺

2014-10-02 23:49:04
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

い出されますは、ガイド君おすすめの担々麺。山と盛られた麺の上に、豆板醤の赤も鮮やかな具が、これでもかとばかりに乗っている。 「おお、赤いな!」 「へいダンナ」 「赤色のものは総じてろくでもないが、うまいこと食い物にすりゃあ実に旨味のあるもんだ。分かるか?」 「へい」 #スラヴ小噺

2014-10-02 23:52:52
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

しかしまあ、赤い赤といったって、場所も時代も違いますからね、そこは本物に限りなく似せた、言わばまがい物でございます。…担々麺の話ですよ? ヨーロッパで出される担々麺は、辛い料理に不慣れた欧州人に合わせて、それはもう辛味を弱くしてあるのが常。 #スラヴ小噺

2014-10-02 23:55:09
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「なんだこりゃ、麺か、ちゅるるっ、ず、ずぞぞぞ。おお、こいつは、ずじゅる、じゅっ、旨いじゃないか!」 ここがロンドンの町中なのも忘れ、汚らしく音を立ててずるんずるんと、まあ旨そうに平らげてしまう。 「代わりを持て!」 汁なし担々の汁まで飲み干し、大声でがなりたてます。#スラヴ小噺

2014-10-02 23:57:17
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「いやあ、こんなウマいとはなあ、イギリスもやるじゃねえか」 「へえ、そいつは光栄です…ですがダンナ、間違ってもロンドンでうまい担々麺を食べたなどとは言って回らないでくださいよ」 「言うなとは妙な話だが、まあどうでもいい、それより早く代わりを持て!」 #スラヴ小噺

2014-10-03 00:00:10
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「ああ、美味かった。ダンダンメン?ダンダルメン?だったか?イギリスのメシはどんなにマズいかと思やあ、イギリス料理も悪いもんじゃねえなあ!」 #スラヴ小噺

2014-10-03 00:03:01
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「ええ、ですからダンナ、ありゃイギリス料理じゃァなく…」 「あん?イギリスで出たんだからイギリス料理に決まっとるだろうが。その頭はユニオンジャックを巻き付けるポールか何かか? ああしかし実に美味かったなあ…

2014-10-03 00:04:39
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「ええ、ですからダンナ、ありゃイギリス料理じゃァなく…」 「あん?イギリスで出たんだからイギリス料理に決まっとるだろうが。その頭はユニオンジャックを巻き付けるポールか何かか? ああしかし実に美味かったなあ… #スラヴ小噺

2014-10-03 00:04:58
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

…イギリスの飯屋じゃ、馬の小便がビールジョッキに注がれて出てくるって噂だったからなあ。食えるモンが出てくるか不安で仕方なかったが、なに、捨てたモンじゃねえってこった、なあ」 「……へい、ダンナ」 #スラヴ小噺

2014-10-03 00:05:52
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

さて成金男のアレクセイ、本国に戻ってもあの料理が恋しくてたまらない。同じ名の料理を出す店はモスクワにもあったが、どうにもあの店の味とは何かが違う。 #スラヴ小噺

2014-10-03 00:06:51
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

そんな折、またぞろ怪しげなビジネスの話に食いつき、アレクセイは中国の取引相手に招かれていた。 四川は重慶、激辛料理の本家本元、大本営ときた。 「ニーハオ、ミスターアレクセイ、取引の成立に乾杯。私の国の料理、世界一よ。なんでも好きなもの頼むがいいよ」 #スラヴ小噺 #スラヴ小噺

2014-10-03 00:10:30
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「おお、じゃあ、ダンダルメン?あの赤くてスパイシーな、肉の乗った麺をくれ」 「へいお待ちどう!」 「おおっ。これが夢にまで見た…。ようし。ずるるっ……っ、辛い!なんだこれは!#スラヴ小噺

2014-10-03 00:11:50
スラヴ語たん(らぶくん) @Slavkun

「何って、担々麺ね」 「何、担々麺だと?これが? ………変わり果てた姿になってまあ おい、こりゃ一体全体どこの担々麺だ?」 「もちろん、本場四川の味ね!」 「なァにい…? 四川だと…?」 #スラヴ小噺

2014-10-03 00:13:43