【巻荒】モノ食う人々~フレンチ編~

弱虫ペダル二次創作 腐向け 巻島×荒北 ↓これの続き 続きを読む
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

モノ食う人々  巻荒編 「だから、こないだの誕生日の時の礼にオレが奢るから」 「あー、それはこないだ、いろいろ服もらったからチャラじゃん?」 「あれはあれ、これはこれ」 「ま、うまいもん食えるなら、いっか」 「そうそう。気が咎めるってなら、次にそっちが奢ってくれりゃあいいし」

2014-10-04 20:22:27
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「OK。じゃ、次はオレが奢っから」 荒北はあっさりとそんなことを言う。 巻島は、内心、次の約束をとりつけられたことを喜んでいた。 (……っつーか、こんな無防備でよく生きてこれてるな、荒北) 巻島の見たところ、荒北は男にモテるタイプの男だ。

2014-10-04 20:24:43
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 巻島は知らないことだが、もちろん、荒北はこれまで何もなかったわけではない。というより、その気もなかったノンケの男すら恋に落とす『魔性の男』として社では有名なのだ。 まるで、高校時代が噓のようにモテすぎて困っているのが今の荒北だった。

2014-10-04 20:28:03
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北が海外生活が長く、あちらこちらを飛び回っているのは理由のないことではなく、一箇所に長くとどまるといろいろと面倒な人間関係ができてしまうからだった。 理解のある上司に恵まれたと思っている荒北は今のその生活に充分満足している。

2014-10-04 20:32:34
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「へえ、フレンチか?」 巻島が荒北を案内したのは、ややカジュアルな雰囲気のあるフレンチレストランだ。 兄の関係で予約をとってもらった人気店で、格式ばった雰囲気は全然ないのだが、実はこれでミシュランの二つ星をとっている店だったりする。

2014-10-04 20:37:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そ。カジュアルな感じだから、別に普段着でいいし」 といっても、仕事帰りに待ち合わせたので荒北はスーツである。 (やっぱ、こいつ、スーツ似合うな) 細いことは細いのだが、余分な贅肉があるわけではない。おそらく、今もジムか何かで鍛えているのだろう。

2014-10-04 20:41:41
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「どうする?アラカルトで頼むか?」 「んー、巻ちゃん、ここ来た事あんの?」 「ない。前からちょっと来たかったんだ」 「なら、コース頼もうぜ。面倒なくていいし、コースなら店の自慢の料理出してくれんだろ」 「荒北、食えねえもんは?」 「ない」

2014-10-04 20:43:37
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon あっさりと荒北は言う。 「じゃ、そうすっか」 気取りのない荒北の様子に、巻島は何だかひどくリラックスしていた。 まだ何も始まっていないのに、なんだか楽しい気分だった。 「とりあえず、何か泡でも頼んで乾杯しようぜ」 「スプマンテでいいか?」 「ん」

2014-10-04 20:47:22
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon シャンパンといわないのは、シャンパンと呼んでいい酒の範囲がごく限られているからだ。 スプマンテと巻島が言ったのはイタリア産の発泡性ワインを指している。 フレンチレストランでも、ワインリストは国際色豊かだ。 巻島は最近イタリアワインに凝っている。

2014-10-04 20:50:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 価格もリーズナブルだし、味もいい。 もちろん、時々、恐ろしいほどはずれをひくこともあるが、それはどこのものだって同じだ。 対する荒北はたいして詳しくない。 飲んで、旨いかまずいかだけである。 「とりあえず、ほんのり甘いのにしたから」 「おう」

2014-10-04 20:52:27
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 細いフルートグラスがシャンデリアといっていいような照明を映して煌く。 巻島がリストから選んだのは『マラミエーロ』だ。 真っ黒なボトルがモダンで、本などで紹介されるときは辛口に分類されるのだが、巻島にはいつもほんのり甘く感じられる。

2014-10-04 21:02:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon グラスに注がれたのは淡い琥珀色。 細かな泡が立ち上る様がひどく美しい。 「オレは、情緒とかそーいうのとは無縁だけどよ、やっぱこういうの見んと何かワクワクするな」 「わかる。何かうまいもん出てきそうな気がしねえ?」 「すげー、する」

2014-10-04 21:04:55
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ジョッキのビールもいいけど、ワインとか泡とかも嫌いじゃねえんだよな、と荒北がやわらかく笑う。 「こういうのもイイって思えるようになったってのは、やっぱ、オレも年とったんだなぁとか思うけどよ」 「っていうか、荒北、海外長くなったからじゃねえ?」

2014-10-04 21:06:45
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon こっちだとビールより、やっぱワインだろ、という巻島の言葉に、そうだな、と荒北がうなづく。 口をつけた食前酒代わりの泡は、強い果実味を感じさせる。 「柑橘っぽい匂いするな」 「さっぱりしてるだろ?」 「ん。酸味はあるけど、何か柔らかい感じ」

2014-10-04 21:08:37
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「これなら料理の邪魔にならないんじゃね」 「だな」 運ばれてきたアミューズは目にも美しいムースだった。 「これって、フォアグラか?」 「たぶん、そうだな」 口の中に広がる濃厚な味はなめらかでクリーミーだ。それでいて臭みはまったくない。

2014-10-04 21:14:14
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 添えられたセミドライのトマトの甘酸っぱさが後味を爽やかなものにしてくれる。 「やべ、酒進むだろ、これ」 「確かに」 二皿目は、キングサーモンのカルパッチョに季節の野菜とカニのプティロール 「うわ、サーモンとろける」 「レモンがきいてるのが好みだ」

2014-10-04 21:19:47
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「カニのあしなんて、久々に食った。あれ、巻ちゃん、野菜嫌いなの?」 「嫌いなのもあるけど、これくらいなら食えるっしょ」 「このカニ味噌のソースうまいもんね」 「ソースうまいと嫌いなもんでも食えるよな」 「そうそう。何かごまかされんのな」

2014-10-04 21:24:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「これ、何?」 「牛の頬肉のクロケットだってさ」 「つまり、コロッケかよ」 「そうだな」 鮮やかな青のラインが美しい皿にちょこんと盛り付けられた丸い揚げたてのクロケットにはトマトベースのソースがかかっており、更にその上にチーズがとろけている。

2014-10-04 21:29:21
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「こんなの一口じゃんか」 そういいつつも、半分に切り分ける。 意外なことに荒北のカトラリーづかいには危なげなところがまったくない。 ごく自然に身に付いたマナーで、リラックスして食事をしている。 (これも海外長いからなんだろうな)

2014-10-04 21:33:35
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon アメリカほどでなくともこちらではビジネスランチやディナーをとりながらの打ち合わせも多い。 中華でもない限り、箸など出てくるはずもなく、必要に応じて覚えたに違いない。 「うお、中の肉柔らけえ。やべ、こんな小っせえのじゃなくてバンとでかいの食いたい」

2014-10-04 21:36:42
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「っつーか、荒北、それ、肉食いたいだけじゃね?」 「しゃーねえだろ。昔ほど食えねえけど、やっぱ、肉食いたいって思うし」 「相変わらず肉好き?」 「おう。ただ、量は減ったぜ。当然だけど」 一口大のクロケットの中の頬肉はギネスで煮込まれている。

2014-10-04 21:44:47
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ほんのりと香るそれはトマトソースの酸味ととろりととけたチーズの味とほどよい調和をみせ、何ともいえぬ味わいとなっている。 「巻ちゃん、フレンチが好きなの?」 「ってこともねえっしょ。やっぱ一番食いたいのは和食だし」 「あー、だよな。やっぱ白米だろ」

2014-10-04 21:47:10
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「でも、こういうメシもたまには悪くないっしょ」 「まあな。でもあれだ、巻ちゃんとだからダロ」 笑う荒北に、つられて巻島も笑う。 (……ちょっとまて、それ、どういう意味っしょ?) あれ、と思い返す巻島の前に、次の皿が運ばれてくる。

2014-10-04 21:52:34
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ドーバーソールって何の魚?」 「確か舌ビラメっしょ」 「ああ、ヒラメ。お、中にムース入ってる」 ホタテと海老のムースの入ったグラチネは濃厚なサバイヨンソースが添えられている。 「こっちのスープもすげえ、うまいっしょ」 巻島は考えるのをやめた。

2014-10-04 22:02:39
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (とりあえず、食うことに専念するっしょ) ドーバーソールのグラチネと共に運ばれてきたポタージュの柔らかな緑の正体は、ソラマメだ。 サバイヨンソースが濃厚でありながらポタージュ?とも思わないでもなかったが、食べてみるとまったく味が違っている。

2014-10-04 22:07:44