- FiveHolyWar
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それは、六本の巨大な腕を持つ。それはまるで人の腕のような形をしている。 それは、八本の巨大な足を持つ。それはまるで甲殻類の足のような形をしている。 それは、一本の巨大な尾を持つ。それはまるでドラゴンの尾のように逞しい。
2014-10-03 18:37:45それは、一つの巨大な頭を持つ。それはまるで恐竜の頭蓋のような形をし、鋭い顎を持っている。 長く巨大なその身体は全てドラゴンの鱗のような物に覆われており、目は頭部以外にも複数ついている。 それは、完全なる異形の魔物の姿。人とは、精霊とは、女神とは、決して相入れぬ存在である。
2014-10-03 18:38:59『此処は深淵か』 異形の魔物が、その巨大な口を開く。 響く声は重々しく、悍ましく、恐ろしげなる声であった。 『くだらぬなァ、女神よ。まこと、くだらぬ。深淵なぞ、元より我ら魔の地ではないか。罰のつもりなら、なんと手緩い。花園の方が余程虫唾が走ると言うものよ』
2014-10-03 18:39:26異形の魔物が、その巨大な頭を擡げ、辺りを見回す。辺りは一面の闇。闇以外には何もない。しかし、異形の魔物はそれを気にした様子は無く。 『まあ、我が愛し子にはこの深淵は恐ろしかろうなァ。堕ちていればの、話であるがな』 溜息。そして、器用に身体を畳み、緩慢に瞬きを繰り返した。
2014-10-03 18:40:03『アレは土から創り出された子。堕ちる魂も在らぬ。……全く、ふざけた話よなァ。嗚呼全く。これが何より堪えるわ』 『まあ良い。どうせ死した身。今更文句など言うても仕方なし』 『あやつらの行く末を適当に見届け、飽いたら消えるとしよう。嗚呼全く、退屈よなァ』
2014-10-03 18:40:28
身体が燃える中、魔王の嘲笑う声が聞こえた。 なにか言っている、というのは分かった。 しかし、自分に投げかけられているであろうその言葉は、全身を焼かれる苦痛からの絶叫が聞こえなくしていた。 「あのとき、あの魔王は何を言おうと、していたのかしら」 そう、考えた。考えて、驚く。
2014-10-03 19:54:15なぜ、死んでいるのに、ものを考えている? 「っ!」 弾かれたように上半身を起こし、その目を開く。 広がるは、闇。よく知っている、彼女がいつも『見ていた』景色。 「役立たずだもの、しかたないわ」 慈雨の勇者……否、今はただの死せる女であるフィオナは、薄く笑んで目を閉じた。
2014-10-03 19:59:19「ここは、どこ」 手探りで杖を探す。すぐに、慣れた感触の木が、指先に触れた。 「女神、さま」 女は杖を引き寄せ、それを握りしめてつぶやいた。 フィオナには何もわからない。ここが何処で、自分が何故ここにいるのか。
2014-10-03 20:07:20ただ、わかっていることもあった。 もう、慈雨の勇者としての、授けられた力は使えないということ。 そして、女神がその力とともにフィオナの両目に与えた「光」も、取り去られてしまった、ということ。 フィオナはうずくまったまま、いつぞやの赤毛の女のように、顔を伏せた。
2014-10-03 20:10:25
少年は緩慢に目覚める。身体が何処も痛みを訴えないことに、不審を覚える。顔を上げても、何もない。幾度か瞼を瞬かせてみて、やはり何もない事を確認する。起き上がっても足元がふわふわしていて心許なかった。 「殺せたのかな」 ナイフを振り翳し続けた時の記憶は、残念ながらあまり無い。
2014-10-04 06:44:08「……でも、僕は死んだんだろうな」 内臓が潰れた音は、はっきりと聞いた。そうして、知らない場所にいる。つまり、此処は死後の世界なのだろう。目尻から雫が零れる。 「ごめん、父さん、母さん、――帰れなかった」 大切な人に優しい世界を持って帰る事ができなかった。悔恨が残る。
2014-10-04 06:44:22悔恨。後悔。悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない。取り返しはつかない。人の命は一つしか無い。両手で顔を覆った。ぼろぼろと泣く。嗚咽に喘ぐ。――取り返しは、つかない。
2014-10-04 06:44:30
闇の向こう、ぼんやりと景色が見える。それは城。かつて少女が住んだ城。 『魔王が三人、勇者は一人。ほぉう、死んだのは我だけかァ。どうりでつまらん。どうりで退屈』 姿を数え、異形は笑う。 『呵呵、呵呵。愛(かな)し、哀し。愛おし、いと惜し。呵呵、呵呵。』 殺し合う姿を、笑う。
2014-10-04 17:04:54
ここではないどこかで、大きな音が、声が、響く。 ここではないどこかの、焔の匂い。 「あの魔王は、いきてる」 盲た女は、顔を上げることもなく、つぶやいた。 勇者が、魔王が、何人残っているかもわからないけれど、何もかもが、もう、どうでもいい。
2014-10-04 20:12:02「勇者にならなければ、もっと生きていられたのかしら」 ぽつり、つぶやいて、自らの頭に手をやる。 「女神さまは、なぜ私を選ばれたのかしら」 闇に閉ざされた世界で、記憶の中の声が言う。 『お前がまともな目でうまれていれば、妾の子などに跡を継がせることもなかったのに』 「お母さま」
2014-10-04 20:17:17「私は闇の中にいた。視界だけじゃない。心も、暗く深い闇の中だった」 そんなフィオナの前に現れた女神は、彼女の頭に触れ、その髪を撫でた。 少しずつ、眩しい光が、鮮やかな世界が、彼女の前に開けていった。 「優しい言葉も、暖かな手も、女神さまがはじめてだった」 なのに。 「もう、ない」
2014-10-04 20:22:38
花畑に寝そべる光焔。傷の癒えた体を横たえる。 「死んだね」 起き上がる光焔。 「ここは心地いい。それでも悲しいかもしれない」 手に白い小鳥が止まる。
2014-10-05 00:22:58「まだ誰かが戦ってるのかい?」 立って空を見上げる仕草。 「力で得た正しさは、力で覆る。何度もそうだった。無意味な戦いだ ……この戦いで人々や魔の者達に、誰かにとっての優しさが生まれれば、その時に僕の死は価値を生むだろうね」
2014-10-05 00:23:03「もちろん優しさも人それぞれだ。悲しいぐらいみんな生き物だよ。だから戦ってる 僕は、正しさの味方にならない。女神が絶対の正しさを教えてくれるかと思ったけど、そうでもない ……僕は魔が差した悪い人達の味方で、悪い人を各々の正気に戻してあげるのを優しさだと感じる、変人でいいのさ」
2014-10-05 00:23:08白い鳥は首を折って焼いて食べた 「……うん。不幸を食べながら生きてるのは、目を背けても「あること」だからね 目を背け続けて、こんなことになったなら……誰も絶対の「正しい」は、持っていない」 今度は黒い鳥が手元にとまる 「どうしてかなあ……だから世界を美しいと感じてしまうのは」
2014-10-05 00:23:13