「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #3

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
ニンジャスレイヤー
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #3
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三週間前。ネイサイタマ中枢に聳える日本最大のビル、カスミガセキ・ジグラット。 ここは政・官・民が高度な癒着を遂げた、人類史上稀に見る巨大複合施設であり、今なお増築が進んでいる。現在の最上階は700だが、不吉を忌み嫌う日本人の慣習により、4や9の数字が含まれる階や部屋は存在しない。
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601階から上にはメガコーポのヘッドオフィス群が、301階から600階には国会議事堂などの行政施設が、51階から300階には市警本部などの官庁施設が、1階から50階にはネオサイタマ市役所が入っている。 そして今、恐るべき謀略をはらんだ密議が267階のオスモウ会議室で行われていた。
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「クローンマッポを数万体規模で導入だと?」ネオサイタマ市警評議会の一員であるホタカ・ナカナカは、たるんだ頬を怒りで紅潮させながら、ドヒョウ・リングの上で立ち上がった。厳かにライトアップされたドヒョウ・リングと無数のショウジ戸以外何も存在しない広大な空間に、ホタカの怒声が響き渡る。
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「アイエエエ……そんなに興奮しないでください」ヨロシサン製薬のバイオ営業部門、タカハシ=サンは小さく失禁した。 「そうだホタカ=サン、落ち着いて」パンキドー9段のイノウエ=サンが、野太い腕でホタカの肩を抱き、着席させる。彼はネオサイタマ評議会における数少ないホタカの同志の一人だ。
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ホタカは渋々着席し、参加者の顔を見渡す。合計12人いる評議員のうち9人は、ホタカからわざとらしく目を逸らし、ドヒョウ中央に映し出される3Dディスプレイの資料を眺めながら、茶をすすりつつ大きく頷いていた。 「「「連中め、オハギでも積まれたか…」」」と、ホタカは心の中でひとりごちる。
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右隣に座るイノウエ=サンは、言葉では冷静さを保っているが、今にもパンキ・パンチをくり出しそうな危うさに満ちている。左隣ではホタカ=サンのもう一人の同志、最高齢のノボセ=サンが無言で腕を組み、右眼を閉じていた。末端マッポ時代に失われた彼の左目は、黒い革眼帯によって覆い隠されている。
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ディスプレイを挟んだ対面には、ヨロシサン製薬を筆頭とするバイオ関連企業三社の代表が座っていた。その中には、紫のスーツに身を包み顔を鎖頭巾で隠した男の姿もある。バイオマッポ化計画の出資者代表、ネコソギ・ファンド社のラオモトCEOだ。彼のカタナのような眼光が、場の空気を支配していた。
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ラオモトは手元のオリガミ・メールに筆で何事かをしたため、ヨロシサンの営業に手渡す。噂によると、このラオモト・カンなる男は、ネオサイタマの暗黒犯罪社会と深い関わりを持っているらしいが、その見事な証拠隠滅の手際ゆえ、未だネオサイタマ市警はネコソギ・ファンド社の非合法性を掴めずにいた。
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「皆さん、一年前のクリスマスを思い出してください」オリガミを読んだ営業は立ち上がり、息を吹き返したマグロのようにプレゼンを再開する「大勢のマッポ=サンが、反政府組織の起こしたマルノウチ抗争の犠牲となりました。この教訓を忘れてはいけません。遺族補償に、どれだけカネを使いましたか?」
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ドヒョウ上の3Dディスプレイに、毛筆フォントでかなりのケタの金額が躍る。ラオモトにあらかじめ買収されていたネオサイタマ市警評議員の数名が、頭を左右に振りながら、口々に「おお、ナムサン……」「ナムアミダブツ……」などといった落胆の言葉を、わざとらしい溜息とともに吐いた。
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「しかし、クローンマッポなら、こうです!」ヨロシサンの営業が指をぱちんと鳴らすと、3Dディスプレイの数字はゼロに変わった。「しかも、クローンマッポは賄賂で腐敗することはありません! 職務時間中にIRCをすることもありません!」 買収された評議員たちは、大きく頷きながら拍手した。
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これに対し、ノボセ老がようやく重い口を開く。「クローンマッポ大量導入……それだけは、どうかご勘弁いただきたい。すげ替えられた数万人のリアルマッポが路頭に迷い、ヤクザかハッカーになるでしょう。コストが問題ならば、われわれマッポは手当て無しで、超過勤務でも深夜勤務でも何でもやります」
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「そうだ、その通りだ!」ホタカ=サンとイノウエ=サンが合いの手を入れ、反対陣営よりも威勢の良い声で応戦する。モノイイ・タクティクスだ。ヨロシサン陣営と買収された評議員たちは、これに対抗すべくあれこれと意見を述べたが、三人の男たちの誰かが常に反対意見を述べ、表決の時を先送りにした。
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「イヨオーッ!」という電子音声が館内に響き、五時を告げる。3Dディスプレイの映像は「明日もヨロシサン」と書かれたヨロシサン製薬のCMに切り変わった。今日の会議は終了だ。高潔な三人の男たちによって、クローンマッポ大量導入という暴挙は避けられた。ヨロシサン陣営が不服そうに引き上げる。
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決着がついたわけではない。3週間後のクリスマスイブに、追加会議が行われるだろう。 「つまり、3週間後に我々3人のうち1人でも生き残っていれば…」と、イノウエは冗談めかして言う「来年度の予算編成には間に合わない。連中の敗北だ」。 「物騒だな」とホタカ「だが用心に越したことは無い」。
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その三週間後。イノウエは自宅で、ホタカはツチノコ・ストリートの路地裏で、それぞれ物言わぬ死体へと変わったのだ。 しかし凶器は発見されず、有力な犯人目撃情報もない。イノウエの死因はパンキドーのトレーニング中の転倒、ホタカの死因は豚足を急いで食べようとした後転倒、と報道されていた。
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深夜0時。雪がしんしんと降り積もり始めた。 同志2人の死を知ったノボセは、高層マンションの屋上に築かれた和風邸宅に篭り、精神統一のためにショドーを行っていた。茶室の軒先には脱出用のヘリが置かれ、また屋上階全体には、信頼できる腕っこきのマッポやデッカーが30人あまり配備されている。
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不意に、ショウジ戸の向こうから声が聞こえた。「お父さんお母さん、見て! ネコネコカワイイ!」孫娘のムギコだ。五歳と幼いながらに、張り詰めた雰囲気を感じ、寝つけぬのだろう。ムギコが窓を開けて指差す先には、マグロツェッペリンが緑と赤のLEDライトを瞬かせながら、すぐ近くを飛んでいた。
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孫娘の声を聞いたノボセは、スズリをする手を止める。「ナムサ」と途中までショドーされた和紙を丸めて捨てた。心が乱れたのだ。「「「刺客の狙いは、恐らくわし一人」」」。沈思黙考の末に眼を開き、赤いオリガミの裏に細筆で何かをしたためてから、彼は七本の指で神秘的な鶴を折り上げた。タツジン!
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「私も大きくなったらネコネコカワイイになりたい!」ムギコは狂ったようにネコネコカワイイ・ジャンプを繰り返す。両親が神妙な顔でなだめるも、効果が無い。「ムギコや」ショウジ戸を開けて茶室から出てきたノボセ老は、優しさの中に厳しさを湛えた顔で言った「なれないものもあるんだ。諦めなさい」
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「お父さん、スミマセン」ノボセの息子が礼儀正しく頭を下げた。彼は父親の地位を使うことを嫌ったため、一介のサラリマンに甘んじている。 「いいんだ、わしのせいでこんな事になってしまったんだからな」とノボセ「それより、ムギコを連れて遊びに行ってこい。今夜は楽しいクリスマス・イブだろう」
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「いいの?」と、ムギコの顔が明るくなる。 「いいんですか、父さん?」 「信頼できるデッカーを護衛につけるから行ってこい。お前たちがいると、ショドーが乱れるゆえ」 息子夫婦がいそいそと身支度を整えている間に、ノボセ老は孫娘に鶴のオリガミ・メールをそっと渡して、また茶室に戻った。
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「クリスマス・イブ……」タタミに正座したノボセ老は、そうショドーしながら、一年前の悪夢を回想していた。出来ることならば、死んでいった市民やマッポのために、慰霊式典をやってやりたかった。だが、この非常事態ではそうもいかない。「ゴウランガ……」気がつくと弔いの言葉をショドーしていた。
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コメント

オスツ🍣 @alohakun 2010年11月29日
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