【憤怒】ヴィハvs【暴食】エメロード

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エメロード @actKrwz

さくさくと持たせてもらったアップルパイを頬張りながら、暴食の少女は歩みを進めていた。 暗い森。辺りに生き物の気配は余り感じられない。 「まっくら森だわ! どんな味がするかしら、ガトーショコラみたいにおいしいかしら!」 うっとりと、目を細めてくるくると回る。

2014-10-03 00:54:45
エメロード @actKrwz

片手に携えた鞄と一緒に、くるくる、くるくる。そうしてぴたりと動きを止めて──雀蜂を爪先に止まらせた。 「どこまでいーっても森ばっか! お花とか果物もあるみたいだけど、なんだか退屈ね!!」 ぷぅと頬を膨らませて、その場で仁王立つ。久しく街を見ていない気がした。

2014-10-03 00:54:50
エメロード @actKrwz

「……うふふ!! おばあさんの家にいく赤ずきんみたいだと思わない?」 くるくる、くるくる。回って雀蜂に問い掛ける。ブンと羽音を鳴らして、雀蜂も空を踊る。淡い緑のドレスがふわふわと広がって。

2014-10-03 00:56:23
エメロード @actKrwz

「なんでもいいの! なにかおもしろいの、見つけてきてちょうだい」 爪先に止まった雀蜂に口付けて少女は薄く笑う。──なんでもいい、なんでも食べれるのだから。 雀蜂は八の字を描くとぶわりとその数を増やして森中へ散って行った。少女は一人、残った雀蜂と戯れながらアップルパイをまた、一口。

2014-10-03 00:59:04
紺青ものえ @almiyy

真冬の出で立ちの少年は慎重に歩く足は小さな花を思い遣らずに潰して森を進む。 御伽噺に出てくる森に踏み入った好奇心と同時に、某さんの首吊り死体を発見してしまいそうなくらい鬱屈な気持ちになる樹海に迷い込んだ不快感を胃に収め、周囲を薄紅の視線を巡らせた。 暗い緑以外、何もない。

2014-10-03 01:18:23
紺青ものえ @almiyy

目に優しすぎるぞ、と息を熱の篭る息を吐き出して、コートのポケットに包帯まみれの指を突っ込んだ少年は、外気に触れる口元をマフラーで覆った。 「くそさみィ……」 真冬の出で立ちでも尚寒さを感じる。外に出るんじゃなかったと後悔しても遅い。此処まで来た以上何か、何かあったらいい。

2014-10-03 01:18:37
紺青ものえ @almiyy

もういっそ熊見つけて写真撮って帰りたい、と太い木の根を掛け声一つで飛び越える。 「……あ?」 耳障りな音が耳を掠めて、視線を上げる。あんまりいい気持ちにならない音に、周囲を見る。何かが、小さいものが飛んでいる。 「虫……蜂か?」 一匹、見えた。 いや、一匹じゃない。無数だった。

2014-10-03 01:18:41
紺青ものえ @almiyy

……でかい蜂の巣でもあんのか? 遠目からでも分かる影に口元が引き攣った。初めて生で見る蜂に、挙動不審になる少年は一歩一歩、慎重に、後ろに後退し、 「――ギャッ」 木の根に踵を引っ掛け盛大にひっくり返った。

2014-10-03 01:21:48
エメロード @actKrwz

ぴくりと片眉をあげて、遠くを見やるように額に片手を翳した。実際に何か見えるわけではない。ただ、共有した感覚で“何か”がいることが分かった。 思わず、唇を舐める。 「焦っちゃだめ。ゆっくり、じわじわ、森の奥へ奥へと追いつめるの!」

2014-10-03 01:32:48
エメロード @actKrwz

楽しげに肩を揺らして地面に置いていた鞄を持ち上げくるくる、回る。ふわふわと淡緑のドレスが空を踊る。 「──あたしが、狼さんね!!」 くすくす、くすくす。笑いながら、枯葉を踏み締め、歩みを進める。 青年が遭遇した黒い蜂の群れは、少女の方へ行かせようと、青年を追い詰めんとするだろう。

2014-10-03 01:32:52
紺青ものえ @almiyy

「くそ、ぶんぶんぶんぶんうるせぇよ!」 蜂の知識は『毒』『刺されたらやばい』くらいしかない。身の詰まってない体を跳ね上げてどうにか起こすと蜂のいない方へと駆け足で逃げるも、一向に撒けない。 すぐに息も上がって、可哀想なくらい弱っちい足も怠い。 「これ奥に入ってきて、ネ…?」

2014-10-03 09:23:05
紺青ものえ @almiyy

赤い髪を振って振り返る。蜂の群れは相変わらず同じ距離で追ってくる。 「ああああ悪霊退散なんなの暇なの俺なんかしたかチクショウ!」 蜂に言っても意味は無い。程よく冷静になった頭の隅で、追い込まれる感覚を認めた。しかしどうするかまで回転しない。苛々と唇を噛み、朽ち木を踏み越えた。

2014-10-03 09:23:08
紺青ものえ @almiyy

疲れと蜂と寒さで苛々が増した。もういっそ蹴散らすかと考えたが、森の中で火を使うとか非常識極まりない。 「っ、く」 心臓が痛い。走るとかトイレ我慢した時くらいだと思い出す。ふと淡緑が端にちらついた。暗い森で、淡い色。苔むした熊か?いや普通に人間の子供だ。一応、睨むことにした。

2014-10-03 09:23:11
エメロード @actKrwz

「ごきげんようっ!」 ドレスを摘まんで、上品に一礼。これもレディの嗜みだ。 「うふふ、会えて嬉しいわ、『赤ずきん』さん」 くすくす、くすくす。青年を追っていた雀蜂の群れは、そのまま少女へと殺到して──まるで少女を守護するように、取り巻く。

2014-10-03 14:10:16
エメロード @actKrwz

こうして見れば、気付くかも知れない。その雀蜂の群れは、自然界に生きているであろう色を持たず、ただ影を塗り込んだかのように真っ黒な事に。 「あたしはエメロード。エメロード・アンセクト。ねえ、聞かせてちょうだい?」 ──『赤ずきん』さん、美味しそうなあなたのお名前を。

2014-10-03 14:10:19
エメロード @actKrwz

くすくす、くすくす。少女は口元に手をやって上品に笑ってみせる。真っ赤な髪の毛。真冬のような出で立ち。 それは、暗い緑の中でよく目立った。金の螺旋を揺らし揺らして、少女はおとなしく返答を待つ。静かに待つのも、レディの嗜みだ。

2014-10-03 14:10:22
紺青ものえ @almiyy

元気のいい挨拶に、警戒するつもりで睨んだ目を丸くして、マフラーの下の口を半開きにした。裾を摘まんで挨拶する動きを追って、目を合わさずにその姿を確認。 ……アンセクト、なにそれかっこいい。 「……赤ずきんって事はあんたは狼な訳ぇ?」 口の端を吊り上げて笑って、蜂の大群を見た。

2014-10-03 15:45:38
紺青ものえ @almiyy

「俺は『憤怒(ヴィハ)』、本名は知らなくていいぜ」 ついでに言えばあんまり他人に会いたくなかったと零してマフラーを口許まで引き上げ、あまり動かせない表情をどうにか『嫌そうに』歪めた。 「挨拶済んだし擦れ違ってサヨナラじゃ駄目ぇ?」 表には出さないが、ぶっちゃけめっちゃ怖い。蜂が。

2014-10-03 15:45:40
エメロード @actKrwz

「ゔぃは」 一言、そう零して、にまりと口元を歪める。雀蜂が羽音を一際強く響かせた。ゔぃは、ヴィハ、──『憤怒』。 「あたし、『暴食』なの」 くすくす、くすくす。笑い声は何処か虚ろに、暗い森の中でこだまする。 「『蟲喰』の『暴食』よ」

2014-10-03 16:31:10
エメロード @actKrwz

「あたし、はらぺこなの」 くう、と泣いた腹に手を当てて、困ったように小首を傾げてみせる。 「ねえ、『赤ずきん』。あなたはどうしてそんなに……美味しそうなのかしら?」 くすくす、くすくす。雀蜂はざわめく。それは徐々に、徐々に数を増やし、──群れの中、膨れ上がるように大きさを増した。

2014-10-03 16:31:29
エメロード @actKrwz

成人男性の握り拳よりも大きいのではないかという、雀蜂が三つ。ブゥンと羽音をがならせる。──威嚇行動とも取れるであろう。 少女は変わらず、くすくすと、不気味に笑い声を零している。

2014-10-03 16:31:34
紺青ものえ @almiyy

暴食、と聞いて危機感が面倒臭さを蹴り飛ばして登場した。 「美味しそう?何処見て言ってんのお前、あと赤ずきんじゃねえし」 自分を見下ろして、着膨れて豚みたいに見えるのかと思ったが、暴食なら『そういう風』に見えても仕方ないのかも知れないと考えを転換して、増えていく蜂に嫌悪を示す。

2014-10-03 22:23:52
紺青ものえ @almiyy

「……ブンブンブンブンうるせぇぞ池の周りでも回ってろ、それかその辺に生えてる元気なキノコさんでも食ってろ!」 ポケットに突っ込んだままの指先を擦り合せ、摩擦の熱に気を落ち着けながら睨む。大きな蜂は『罪科』のアレなのかな?でかくね?という本音を押し込んで、笑う子供から一歩後退る。

2014-10-03 22:23:57
紺青ものえ @almiyy

チリチリと、指先が熱を持つ。その分、周囲がどんどん寒くなっていく。温度差に空気がゆっくりとだが流れ始める。 俺を喰うってんなら、抵抗するぞと低く告げて、返答を待つ。薄紅はじっとりと熱に、唇は寒気に震えた。

2014-10-03 22:24:03
エメロード @actKrwz

「きのこはもう食べたわ?」 こてりと首を傾げ、人差し指を唇に当てる。 「お花も食べたし、木も食べた。土だって食べたわ!!」 両腕を広げる。黒い雀蜂はブゥンと羽根を鳴らすと、近くの木の幹を抉るように噛り付く。ガリガリパキパキと咀嚼の音が響く。 「んふふ」

2014-10-04 04:12:28