『炎上急行』#3

使命を胸に、旅を続けるメルヴィ。彼女は長距離列車での移動中、不思議な出会いをして、大きな運命の転換に翻弄されます。 この話は#4まで続きます
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(前回までのあらすじ:列車での旅を続けるメルヴィたち。謎の魔法使いロドル。そしてメルヴィたちを護衛するという謎の貴婦人ミルギルィ。列車のハイジャックと共に、異形の怪物と化したロドルから逃げるため、一行は列車内で移動を開始する)

2014-10-06 20:23:40
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メルヴィたちは後部車両へ向かって移動を開始した。ハイジャックを知らされ、車内は異様な静けさを見せている。みな客席へ逃げ込んだのだろう、通路には誰もいなかった。小走りで通路をかける。ロドルはゆっくりとこちらに向かって身体を引きずっている。彼は呆然とした表情のままだ。 72

2014-10-06 20:29:24
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「貴様ら、大人しくせんか!」 事態に気付いていない後部車両の黒服がミルギルィたちを制止した。戦闘員も3人いる。「あなたたちの欲しい積み荷はアレ? 私たちよりも先に何とかした方がいいよ」 ミルギルィは後ろを指差して、押し通る。黒服たちは気付いたようだ。 73

2014-10-06 20:37:21
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「鍵が解放されている……!?」 「解錠はまだ早いぞ! 聖遺骸の元で解錠せねば……誰かあいつを封印しろ!」 黒服たちは慌ただしく肉塊に向かっていった。「時間稼ぎごくろうさま。さ、行きましょ」 ミルギルィは微笑んで先へと進む。メルヴィたちもそれに続く。 74

2014-10-06 20:44:29
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「気をつけて、メルヴィ。絶対魔法を使わないこと。鍵の力で魔力が非常に不安定になっています。混沌の力です。何が起こるか分かりません。我々はこれから最後尾まで移動して、黒服を無力化した後、列車の連結を外して離脱します」 ミルギルィはメルヴィたちに作戦を伝える。 75

2014-10-06 20:50:17
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コリキスはロドルのことがまだ気になるようだ。「ミルギルィさん、あいつら何かをしでかしそうな気がする……このまま放っておいていいのですか。何か、悪いことをたくらんでいるのでは」 「死にたいなら止めはしないけど……関わったら、死ぬだけよ」 ミルギルィはすました顔で言う。 76

2014-10-06 20:55:12
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「あいつらはおそらく要塞都市のエージェントね。ニュース聞いた? 古代遺跡の発掘ってやつ」 「それと何の関係が……」 「混沌神イミドアの聖遺骸が見つかったのよ」 「イミドアだって!?」 イミドアはこの世界において悪名高き神である。混沌と偶然を司り不幸にも幸福にもする。 77

2014-10-06 21:00:57
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イミドアは下界の人間に干渉するのが好きで、自らの化身を地上に顕現させることが度々あった。そのたびに世界は災禍に見舞われ、多大な犠牲を払い化身を倒してきた。神の化身の死体を聖遺骸と呼ぶ。つまりは、災厄をもたらしたイミドアの化身の死体が発掘されたというのだ。 78

2014-10-06 21:09:20
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「大変だ! 奴ら鍵を使って化身を復活させて、混沌神をコントロールするつもりだ……止めなくちゃ世界は大混乱に……」 「コントロールできるわけないでしょ。あいつら、それが分かってないのよ」 ミルギルィは突然立ち止った。悲しそうな顔で振り向く。 79

2014-10-06 21:13:13
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「化身が復活しても、奴らは自滅して終わり。その後は私が何とかする。それよりも……」 ミルギルィはコリキスの肩に手を置いて言う。「あなたたちに生き残ってほしい。それだけが私の願い。大丈夫、できる限りのことはするから」 しかし、そのとき列車全体に振動が伝わる。 80

2014-10-06 21:18:11
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ミルギルィは険しい顔をして壁に手を触れた。地鳴りのような音がだんだん大きくなっていく。「世界の命運は、世界を左右できるひとに任せなさい。それよりもあなたたちは、自分の命を守るのです。何かに掴まって! はやく!」 メルヴィは驚いて手すりに掴まる。 81

2014-10-06 21:22:31
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「何が起こるってんだ」 カトールも手すりに掴まる。「怖いですわ……」 エルベレラは消火器に掴まる。「おいおい……」 コリキスはドアに掴まる。次の瞬間、大きな爆発が先頭車両の方で起こった! 車体が飛びあがり、衝撃が襲いかかる! もはや壁だか天井だか床だか分からない。 82

2014-10-06 21:26:43
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「ああーっ!」 メルヴィは叫んだ。次の瞬間、ミルギルィが何か呪文を唱えたのだけは分かった……意識が撹拌され、重力の感覚が無くなる。列車が脱線したのだ。 83

2014-10-06 21:28:22
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脱線した列車の状況は酷いものだった。機関部は横倒しになり、もうもうと蒸気を吹き上げている。客車はいくつもばらばらに散らばっていた。動けるものは皆列車から離れて、荒野で怪我の治療をしている。メルヴィたちもまた、列車から離れた場所にいた。ミルギルィがテレポートを行ったのだ。 84

2014-10-07 19:51:51
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「うう……ここは……」 メルヴィは意識を取り戻した。カトールもエルベレラも隣にいたが、まだ気絶していた。少し離れた場所にやはり気絶しているギムリィと、座っているミルギルィ。だが、様子が変だ。身体を震わせている。「ミルギルィさん……?」 メルヴィは近寄って肩に手を触れる。 85

2014-10-07 19:55:20
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メルヴィはミルギルィの顔を覗いた。ひっ、と短い悲鳴を上げる。ミルギルィは両目からおびただしい量の血を流していたのだ。「ど、どうしたの……」 「魔法の力を大きく捻じ曲げられた……流石に、油断しすぎました。あなたの仲間を、一人救えなかった」 そのときメルヴィは気づいた。 86

2014-10-07 19:59:17
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「コリキス……? どこ? コリキス! どこにいるの!?」 コリキスの姿は無かった。辺りで怪我の治療をしている乗客を見渡しても、彼の姿は見えない。「もしかしてまだ列車の中に……助けなくちゃ!」 「やめなさい」 ミルギルィは両目の血をぬぐってメルヴィを制止した。 87

2014-10-07 20:03:05
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「あの中は混沌の坩堝よ。あなた、魔法使いでしょう。魔法なんて使ったら、何が起こるか分からないよ。素手でさっきの化け物と渡り合うつもり?」 「でも……大切な、仲間なのよ!?」 ミルギルィは辛い顔をしていた。強い力で、メルヴィの手首を掴む。一筋の血の涙がこぼれた。88

2014-10-07 20:06:30
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「あなたたちを狙うのは運命を司る混沌神です。この場は逃げるべきです。いいですか、私はあなたたちより大きな力を持っています。それでもなお、コリキスさんを救うという運命を変えることはできなかったのです。あなたには何ができますか?」 ミルギルィは怒るでもなく静かに語りかける。 89

2014-10-07 20:10:04
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「でも、私は諦めたくない!」 メルヴィは必死に縋りつく。ミルギルィはようやく折れたようだ。「分かりました。でも、少しでも無理だと分かったら全力で逃げますよ。事実を目の前にすれば、あなたも分かってくれるでしょう」 ミルギルィはポケットから治療の薬を取り出し、口に含む。 90

2014-10-07 20:15:48
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「本当はテレポートは使いたくなかったけど……緊急脱出には仕方のないことだった。私の内臓はめちゃくちゃになっています。これ以上の魔法使用は私の生命にかかわります。手助けはできないと思ってください。逃げる時も足でですよ」 ミルギルィはメルヴィに釘を刺す。 91

2014-10-07 20:19:37
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テレポートによる集団転移は高度な魔法だ。そんな魔法を使えるミルギルィでさえ、酷い目に合っているのだ。メルヴィが魔法を使えば何が起こるか分からない。カトールもエルベレラもギムリィも目を覚ます様子は無い。衝撃が大きかったようだ。二人だけで、列車の中へ行かなくてはいけない。 92

2014-10-07 20:22:55
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「コリキス、お願い……無事でいて」 メルヴィとミルギルィは注意深く列車へと近づいた。客車の一つ一つを覗いていく。だが、そこには血痕と散らばった荷物しか残されていない。後部の客車から一つずつ確認していった。ロドルは……黒衣の者たちはどこへ消えたのだろうか? 93

2014-10-07 20:29:11