【関根町はもうない】福間健二 #2factory72

福間健二 @acasaazul

ひとりの女が入ってきた。カウンターの席にすわり、ビールを注文した。手袋をはめたまま、壜からグラスにビールをつぎ、少しだけ飲んで、暗くなってきた窓の外を見た。なにか食べるもの作りましょうか。いらないわ。これからおもしろいことが始まるのよ。（関根町はもうない１）#2factory72

福間健二 @acasaazul

マイ・ガール。超現実主義ではない。普通に乳房とおしりがある。望んだはずの新しい作業に疲れきって、目を涙でいっぱいにすることがある。体と体でも、言葉と言葉でも、自由な結合にとくに興味はないという姿勢。土台はどうするか。壊れたっていい、よ。（関根町はもうない２）#2factory72

福間健二 @acasaazul

関根町はもうない。関根プールもない。ゼンプクジ川にかかる関根橋だけが残っている。その近くのギャラリーで魔法とたたかった。上下どちらでも垂直に逃げることができる生産者となる。あまりにも杉並区的なオペラ。退屈な内容を脱いだその先が見えない。（関根町はもうない３）#2factory72

福間健二 @acasaazul

その背中。苦痛、幻滅、日々の灰によって奪われた翼を、水銀と光線に読まれる秋だ。わからなくてもいい。ロープ、ナイフ、破裂する少年たち、そして空虚。そういったものの使いみち。マイ・ガール、虎に食べられるカワウソと砂時計のどっちになりたい？（関根町はもうない４）#2factory72

福間健二 @acasaazul

夢からただよう不幸。関根町があったころ。キスでぬぐえる不幸だとしても、うっとりする蕾の理由を見抜く目が沈んだ川、その川に魚が戻らない。行ってみよう。奉仕する音楽も媒介する音楽も雨に溶ける午後。シチュエーションの、喜劇。登場人物になって。（関根町はもうない５）#2factory72

福間健二 @acasaazul

隠されている恋。偶然の針が突きささり、こともなしこともなしではすまなくなった夜の果実。ジュースと象形文字がたたかってひとりの詩人の思い出を踊るきみを生みだした。そんなに無邪気ってわけじゃないけど、スロー・ダンサー。西荻銀星があったころ。（関根町はもうない６）#2factory72

福間健二 @acasaazul

西荻名画座も西荻セントラルも西荻東映もあった。タンタ、タンタラン。胸のピアノが鳴って、この足踏みはなぜなのかと舞台の彼女が自問する。客席のぼくは演劇部と文芸部をかけもちする見知らぬ少年。ブレヒトにもブルトンにも答えてもらわなくていいよ。（関根町はもうない７）#2factory72

福間健二 @acasaazul

コーヒーカップ、灰皿、百円ライター、世界の文学「アラン・シリトー」、鋏とプラスドライバーと耳かきの入ったお茶の缶。まだあるけど、こういうものをおいた机が基地の三文オペラ。窓の外、少年時代が終わっていない空に暗号の雲。意味は、さようなら。（関根町はもうない８）#2factory72

福間健二 @acasaazul

手袋をはめたままの手で。夢を見ない。生きている人間でもそうなのに、死者や人形や機械にまでどうして夢を見させたのか。二十世紀。すぐに見つかる穴に逃げ込んだ古い日記との、勝負のついたゲーム。復讐装置が変異して、手首にいくつも跡を残している。（関根町はもうない９）#2factory72

福間健二 @acasaazul

このみそ豆、おいしいですよ。よかったらどうぞ。こっちから捕まってあげたい鬼がいるように、食べすぎくらいがちょうどいい秋も。杉並区関根町二番地。そこがそうだったとも知らずに壁を見つめてるだけの男を殺しに行くよりいいことなら、いくらでも！（関根町はもうない10）#2factory72