「本格(Honkaku)」という言葉が米国『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』のブログで紹介される

英語には「本格ミステリ」の「本格」に相当する単語がないと言われています。 英語圏のミステリ評論家もその「不便さ」(?)を感じていたようで、ツイストの効いたプロット、結末のサプライズ、フェアプレイなどを包摂する概念を表すものとして、日本の「Honkaku」という言葉が紹介されました。 ◆続報◆(2014年10月14日) http://togetter.com/li/731940 続きを読む
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 本格ミステリ作家クラブの正式な英語名称は「Honkaku Mystery Writers Club of Japan」である。以下、2001年6月の本格ミステリ作家クラブ第2回定期総会での有栖川有栖会長(当時)の発言より(「本格ミステリ作家クラブ通信」3号)。

  • これは「本格」というのは、翻訳のしようがないので“Honkaku”のままとしました。願わくは、“Honkaku Mystery”という言葉が、ウエブスターの辞書に載るくらい有名な日本語になるよう、活動を続けていきたいと考えています」

 また、総会では以下のようなやりとりがあったという(「本格ミステリ作家クラブ通信」3号)。

  • 質問(芦辺拓氏) - 英語名称を考えるとき、他にどのような候補があり、どのような経緯で、“Honkaku Mystery Writers Club of Japan”に決まったのかを、参考までに教えていただきたい。
  • 回答 - 基本的に「本格」ミステリは、日本で発展し現在に至るジャンルであり、英訳できない概念であることを前提に議論を進めたので、それほど多くの候補は出ていない。その中でも検討されたのは、まず「ミステリ」。ただ「ミステリ」にしてしまうと、あまりに概念が広くなってしまうので、却下された。あと「パズラー」も候補にあがったが、「本格」を「パズラー」としてしまうと、逆にこぼれ落ちてしまうものが多い。このような議論を経て、「本格」をそのままローマ字で表記することにした。

 下のTogetterも参照のこと。

まとめ 英米での「本格ミステリ」 英米には 「本格ミステリ」というジャンルに対応する訳語がないかもしれないというお話。 2592 pv 3 1 user

以下、本題

Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「Honkaku」という言葉が米国『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』のブログで大きく取り上げられている。2014年9月24日の記事 somethingisgoingtohappen.net/2014/09/24/in-… 。記事のタイトルは「ホンカク礼賛」(In Praise of Honkaku)

2014-10-13 08:13:03
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

このブログは米国『EQMM』編集長や関係者からの寄稿で成り立っているもので、「Honkaku」を紹介する記事を寄稿したのは密室物や不可能犯罪物の愛好家であるアメリカのミステリ評論家・仏文翻訳家、ジョン・パグマイヤー(John Pugmire)氏。

2014-10-13 08:14:02
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

米国『EQMM』にはパグマイヤー氏が英訳したポール・アルテの短編が何度か載っており、また氏は2013年8月号に載った島田荘司「Pの密室」や2014年11月号に載った法月綸太郎「緑の扉は危険」の訳文の監修(?)的なこともしている。

2014-10-13 10:04:10
  • 米国『EQMM』2014年8月号には台湾の林斯諺(りん しげん、1983- )の不可能犯罪物「バドミントンコートの亡霊」が載ったが、これもパグマイヤー氏の仲介で掲載されたもの。パグマイヤー氏の協力のもとに著者本人が英訳した。
  • この短編は先日、中国語から翻訳したものが電子書籍として出版された(詳しくは「中国語ミステリ邦訳・電子書籍化計画「現代華文推理系列」」をご覧ください)。

記事「ホンカク礼賛」の内容

Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「初めてホンカク(honkaku)を読んだのは十代の頃だった」という書き出し。それはカーの『囁く影』だったそうだ。少年時代のパグマイヤー氏はカーの作品を次々と読み、その知的なパズルとしての側面、ツイストの効いたプロット、結末のサプライズ、フェアな伏線に魅了される。

2014-10-13 08:15:06
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「このような小説は一般的に『黄金期の探偵物』(Golden Age Detection)と呼ばれるが、あまりうまい名称ではない。というのも、これはある一時代をさす言葉であって、小説の特性を示す言葉ではないからだ。」

2014-10-13 08:15:28
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「しかし今日では、いや実際には1980年代からだが、このタイプの小説を表す簡潔な単語がある。『honkaku』である。これは日本語の『正統派の(orthodox)』や『真正の(authentic)』といった意味の単語で、ここでは『フェアプレイ』のことを意味している」

2014-10-13 08:15:55
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「ホンカクは当時日本のミステリ界で権勢を振るっていたシャカイハ(shakaiha)への反動として生まれた」。「現代の欧米のミステリは多くがシャカイハかヘンカクのどちらか、またはその両方だ」とも。ヘンカクについては「人の心の謎を反映させたもの」との説明。

2014-10-13 08:16:54
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「社会状況を描いたり、主人公の性格上の欠点を描いたりするのが主眼で、プロットや伏線がおざなりになっている小説。そんなものは私から言わせれば、探偵小説(detective fiction)ではない。それは『探偵(捜査員)についての小説』だ。」

2014-10-13 08:17:55
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「ルース・レンデルやP・D・ジェイムズは現代の『探偵小説(detective fiction)の女王』と見なされているが、この2人が書いているものはアガサ・クリスティーやクリスチアナ・ブランドが書いたものとはまったくの別物だ。」このあとにはヘニング・マンケル批判が続くが割愛。

2014-10-13 08:18:56

記事で挙げられている現代英語圏の本格ミステリ作家

Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「日本では1980年代に、島田荘司や若い作家たちが、そのような探偵小説への反乱を起こした。その結果、現在日本には多くのホンカク作家が存在し、マンガにまでホンカクは波及している。」

2014-10-13 08:19:56
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

「なぜ英語圏では同じような反乱が起こらなかったのだろう?」という文に続けて、英語圏の数少ない本格ミステリ作家としてパグマイヤー氏が挙げているのは、「ポール・ドハティー、ビル・プロンジーニ、そして潜在的にはクリストファー・ファウラー、ジョン・ヴァードン」

2014-10-13 08:20:58

ポール・ドハティー (英 Paul Doherty, 1946- )

毒杯の囀り (創元推理文庫)

ポール・ドハティー

  • ほかに「ポール・ドハティ」という作家名表記でポケミスから『白薔薇と鎖』、『教会の悪魔』が訳されている。

ビル・プロンジーニ (米 Bill Pronzini, 1943- )

 名無しの探偵シリーズの第7作『脅迫』は密室物。(数え方によっては「第6作」とも)

脅迫 (新潮文庫)

ビル・プロンジーニ

裁くのは誰か? (創元推理文庫)

ビル プロンジーニ,バリー・N. マルツバーグ

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