魔の階 第一次対話 『空虚なる石段の場』

白い石で出来たどこまでも続く階段の途中、円形の踊り場。それ以外には何もない。手すりもないそこから落下しようと、永遠に何にもぶつからないのではと、そう思えるほどに。
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《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

カン、カン、カン まるで蹄が石を叩くかのように、女は個気味よいリズムを靴底で刻みながら階段を上がっていく。しかし永遠に続くかのように思われた石段は突然途切れ、白く、広い踊り場へと辿り着く。 「おや? ここはまだ途中でしょうか? 」 響くは快活なアルト。見渡すは妖しげな金。

2014-10-10 22:10:40
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「まぁいいでしょう。少しは休憩したい等と府抜けた考えを持っていた所ですから!」 元より半分閉じられている目を更に細め、女は踊り場の中心へと歩を進める。 そして行儀悪く両足を投げ出し座りこんだ。

2014-10-10 22:17:00
《蛇》 @SatanaDio

「レディースアンドジェントルマンとは、よく言ったモノですね」 翻る白衣。其れは突然現れ、女の前で態とらしい程に恭しく礼をして見せる。 「初めましてレディ。私はしがない旅人……おっと、そんな冗談は通用しないかね」 軽く肩を竦める。眇められた片目は深緑を写し取ったような眼。

2014-10-10 23:43:02
《蛇》 @SatanaDio

「さてはてレディ……ああそのままでいい、どうやら貴女はお疲れのようだ。私は立ったままだがね、どうか気にしないで欲しい」 器用に指先を摺り合わせパチリと鳴らす。その指先で摘まんだ真っ赤な真っ赤な林檎を揺ら揺らす。 「まずはお一つ、如何かな?」 浮かんだ笑みは紳士然としている。

2014-10-10 23:45:29
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

目の前に増えた別の『白』に瞬きを数回。 「これはこれは。貴方、アナタ、私ときっと《同じ》のあなた」 立ち上がりかけるが先に制止され、女は口もとの笑みを深め、座ったまま差し出された林檎を片手で受け取った。 赤い。この場において鮮やかなそれはまるで作り物のように見える。

2014-10-11 00:07:41
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

男の深緑の瞳をまっすぐに見つめ返し、足は投げ出したまま、背筋を伸ばして軽く一礼。 「初めまして、旅人で奇術師で紳士で林檎を下さる貴方」 空いた片手を一振り、 「私、ワタクシは《山羊》のフェジニド。好きなようにお呼びくださいませ。緑の瞳のアナタ様は《何》であられますでしょうか?」

2014-10-11 00:13:55
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

いつの間にか女の手にはワイングラスが一つ。満たすは深い赤色の液体。 「美しき林檎のお礼にどうぞ。お口にあえば――」 そこではっとしたように首をふる。 「ああ、いけない! いつもの癖。いけないいけない。ワインは平気でいらっしゃいましたでしょうか?」 ゆるりと首をかしげた。

2014-10-11 00:15:20
《蛇》 @SatanaDio

「ああレディ、有り難う。実は途轍もなく喉が渇いていてね。丁度、飲み物を戴きたいと、そう思っていたトコロだったんだ。レディ、フェジニド嬢、君はエスパーかね?」 つらつらと意味の無い事を並べ立てる。ワイングラスを恭しく受け取り揺らす。香しい其れに緑を眇める。

2014-10-11 01:30:07
《蛇》 @SatanaDio

そのまま優雅にワインを口に含むかと思えば、突如大仰に広げられた両腕。ワイングラスを持たない片手が白衣の男の顔を覆う。 「ああ、レディに先に名乗らせてしまうとは何たる失態。何たる失敗。改めて、名乗らせて貰おう」 ワイングラスの中の深紅を揺らす。 「私は《蛇》だ、レディ」

2014-10-11 01:30:14
《蛇》 @SatanaDio

「名、名か。個を表す呼称を久しく名乗っていなくてね、はてさて私は自分を何と呼んでいただろうか。しかしそうだね、今この場に於いて敢えて名乗るのならば、《蛇》のディオと名乗らせて戴こうかな」 湛える微笑は柔らかく紳士然とした態度は変わらない。 「ああそれとワインは私の好物だ」

2014-10-11 01:30:20
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

ワインを受けとって貰えた事に大げさな仕草で女は胸をなでおろした。 「ワインがお好きで何よりでした。エスパー? 滅相もございませんとも、ワタクシめはお祭り騒ぎが好きなただの山羊ですよ」 にんまりと笑い瞳を閉じて林檎に顔を近づける。甘い、香り。 「私もお腹が空いていたところなのです」

2014-10-11 02:35:15
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「こちらは食べてもよろしいのですよね?」 眠い金が緑を一度だけ見上げ、再び閉じる。 「ディオ」 教えられた名を確かめるように呟く。 「《蛇》のアナタ。《山羊》の私と《同じ》であり《違う》あなた。長生きをされておられたご様子の貴方」 眠そうな表情とは裏腹にテンポよく紡がれる言葉。

2014-10-11 02:36:37
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「ワタクシ、誰かに会ったら聞いてみたいことがあったのですよ」 向かい合う相手と似たような、どこか芝居がかった仕草で片目を瞑ってみせた。 「出会えたのがディオ、あなたのような素敵な紳士で良かったと思っております」 口もとの笑みが安堵で深くなるが、相手には林檎で見えないかもしれない。

2014-10-11 02:37:10
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「アナタ様は《魔王》になることを望んでこの場に来られましたか?」 まるで明日の天気でも告げるかのような気軽さだった。 女は依然として座り込んだまま、尋ねた。 「《魔王》になりたいと願って来られたのですか?」

2014-10-11 02:37:38
《蛇》 @SatanaDio

「お嫌いで無ければどうぞ、食べて欲しい。いやはや林檎は私の好物でね……これも私一押しの林檎でね。おおっと、蛇が林檎好きとはありがちすぎるかね」 笑い声を立てる。女の、フェジニドの言葉には静かに耳を傾け、ふむと一つ頷く。二つ頷く。三つ頷いたところで僅かに首が傾ぐ。

2014-10-11 03:10:27
《蛇》 @SatanaDio

「その問いにはYes.と頷かせて戴こう、レディ」 ワイングラスを揺らす。いつの間にやら中身は消えていた。薄い唇の間から真っ赤な舌を覗かせる。 「《蛇》風情がと思われるかも知れないがね」 言葉とは裏腹に表情は微塵もそうは思っていなさげである。

2014-10-11 03:10:31
《蛇》 @SatanaDio

「レディ。フェジニド嬢、貴女はどうなのだろうか。《魔王》になりたいと、そう希って来られたのだろうか?」 緑が金を見つめる。

2014-10-11 03:10:34
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「では遠慮なく」 齧ると酸味と甘みが丁度いいバランスが口内に広がる。 「流石《蛇》のアナタ! とても美味しゅうございますね。実は以前、果物だと思ったら蝋燭だったことがありました。どうもそれ以降臆病にも慎重に。私、とてもお恥ずかしい」 照れた素振りをしながら残りをペロリと平らげる。

2014-10-11 04:19:57
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

ディオの赤い舌を見ながら満足げに山羊は声を上げる。 「素晴らしい回答です!」 頷きながら恭しく頭に乗せている小さなシルクハットを取って一礼。 「《蛇》の貴方、狡猾であるのかもしれない紳士のあなた。臆すことなく言い切るアナタ。ええ、ええ。選ばれたのなら私達はこれを誇って良いのです」

2014-10-11 04:21:39
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

まっすぐな緑に女は歌うように返す。 「勿論ですとも。だってワタクシ、平穏などというつまらぬものは好みません」 突然悲しむように胸を抑える。わざとらしい仕草。 「今の世は、とても退屈です。ディオ、貴方。《蛇》のあなた。《魔王》になったら何か成し遂げたいことはおありでしょうか?」

2014-10-11 04:23:01
《蛇》 @SatanaDio

「レディ、貴女は中々にお茶目な方のようだ」 パチリとまた指を鳴らす。摘みあげられた林檎を片手に態とらしい程に恭しく頭を垂れて。 「退屈。ああ全く退屈で平穏で平和が過ぎる。諍いはちょっとしたスパイスだと言うのに臆病が過ぎている……おっと、この臆病はレディのコトでは無くてね」

2014-10-11 17:19:14
《蛇》 @SatanaDio

「レディ、私はワインも好きだが、一等好きなのは林檎でね。この世界が林檎に満ち溢れてしまえばいいとさえ思っていてね」 片手の林檎。片手のワイングラス。林檎を一口齧って微笑む。 「それが理由では余りに児戯染みているかね」 どうだろうね、と。首を傾げ《山羊》を見つめる。

2014-10-11 17:19:20
《蛇》 @SatanaDio

「人の欲から生まれる実は良い味がする」 にたりと浮かぶ笑み。 「話が逸れたかな、まあいい。ともあれ私が《魔王》となって何を成すかは欲に忠実な世を作る……とでも言おうかね」 楽しげと言うよりは、愉しげである。己の甘言に惑わされるモノばかりの世であらば、良い果実も生まれよう。

2014-10-11 17:19:25
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「ええ。お行儀よくは到底なれそうにもありません」 女は勢いをつけて立ち上がりそのままの勢いで手を再び一振り。 同じく再び、中の満たされたワイングラス。 カツ、と床に足を揃える音。 グラスに口を付けながら話を聞く姿勢になる。 興味深げな色をした金が相手を覗き込む。

2014-10-11 21:52:43
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

赤い欲の果実。それに満たされた世界。 耳を傾けていた女は、 「ああ」 笑う。 「それはとてもステキですね!」 嗤う。 「ディオ、《蛇》の貴方。私の、ワタクシの望みも、それと近く」 心の底から楽しげに。

2014-10-11 21:53:17