白と黒の邂逅、あるいはセイント・メシア・コンプレックス

アームヘッドで突発的に思いついたネタです。こちらも参照「アームヘッドの世界への入り方」http://togetter.com/li/705184
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マトリクス @3atrix

(今から『アームヘッド』の突発的に書いたストーリーを流そうかと思います。アームヘッドについてはtogetter.com/li/705184とかを参考にしてください。実況・感想用タグ #amuhe3a

2014-10-12 20:58:29
マトリクス @3atrix

【白と黒の邂逅、あるいはセイント・メシア・コンプレックス】

2014-10-12 20:59:07
マトリクス @3atrix

絶えず白い雪の降る灰色の空と、雪の下に深緑を隠す針葉樹の間に、彼は住んでいた。三角屋根の小さなコテージだった。1

2014-10-12 20:59:57
マトリクス @3atrix

彼はやかんに雪を詰め、薪ストーブに乗せた。水道は引いていないので、水を使うにはこうするしかない。2

2014-10-12 21:01:02
マトリクス @3atrix

彼は若くなかった。むしろ老いてすらいたが、雪かきや薪集めはさほど苦痛ではなかった。何故か?3

2014-10-12 21:02:30
マトリクス @3atrix

―――彼が、アームヘッド乗りだからだ。4

2014-10-12 21:03:27
マトリクス @3atrix

遠い灰色の空の彼方から、黒い影がふらふらと飛んできた。大きい。「アームヘッドだろうか」彼は独りごちた。誰かが私を通報したか?無いだろう。6

2014-10-12 21:06:05
マトリクス @3atrix

影が大きくなる。セイントメシアサード系列か。マントを纏った黒いボディに黄色のツインアイ。「セイントメシアダークサード……」それの来る理由を、彼は知っていた。7

2014-10-12 21:07:48
マトリクス @3atrix

白銀の地面に降り立つ救世主の蝙蝠めいた羽はぼろぼろだ。体も、他のサードの部品(あるいは残骸か?)と継ぎ接ぎにされ、さながらホルスタイン牛だ。胸部ハッチが開き、中から喪服の上に毛皮付きコートを羽織った男が出てきた。金髪が目立つ。8

2014-10-12 21:09:49
マトリクス @3atrix

彼には聞こえていなかったが、金髪の男はこう言った。「さみい、アツアツのドーナツが食いてえ」彼はドーナツ断ちをしていた。昨日までは。9

2014-10-12 21:12:59
マトリクス @3atrix

―◎―◎―◎―◎―◎―◎― 10

2015-02-02 21:35:25
マトリクス @3atrix

彼は鍋を貴重品の油で満たすと、慣れた手つきで生地を輪っか型に入れていく。「160から170度がいいって言うけど、俺はもっと高温でカラッと揚げたのが好きっすね」聞いていない。「……どうしてここが?」「村井家の古い文献を漁って。ここに村井家の埋蔵金があるって本当すか?」 11

2015-02-02 21:36:25
マトリクス @3atrix

「あれは方便というものだよ、テーリッツくん」「マキータでいいですよ」喪服の上にエプロン。「では、マキータ。……私は、坊ちゃんの葬式には行きません」「そう結論を急がないで、若くないんだから。ドーナツ食べながらゆっくり話しましょう、郡山さん」 12

2015-02-02 21:38:20
マトリクス @3atrix

御蓮のテーブル・チャブダイは床に座って使う。「私にはその資格がないのです……」「まあ、食べましょう」彼は郡山の備蓄食料でできたドーナツにぱくついた。「きっとお腹がすいているんですよ」13

2015-02-02 21:41:15
マトリクス @3atrix

「そういうことでは……」ドーナツを口に運ぶ。「「いただきます」」甘いものはあまり好きではないが、マーダーエンゼル分隊長が直々に作ったものを食べないとあっては、失礼にあたるからだ。14

2015-02-02 21:42:38
マトリクス @3atrix

「資格がないって、どういうことですか」「そのままの意味です。私はかつて、坊ちゃんに刃を向けたもの……」「じゃあ、俺と同じだな」タメ口になった。マキータ・テーリッツ。かつてリズ軍としてゾディアークに乗り、村井幸太郎坊ちゃまと戦った男。15

2015-02-02 21:45:04
マトリクス @3atrix

「だからこそ、なのです、マキータ・テーリッツくん。君はそのあと、彼と共に戦った。相棒になったと言ってもいい。大して私は、どうでしょう?」頭を掻くマキータに郡山はまくし立てる。「私は逃げた。マーダーエンゼルと言い条、結局やることは変わらずコピーメシア退治だ。」16

2015-02-02 21:48:45
マトリクス @3atrix

「あんたのやっていたことは、あんた自身が思っていたよりも立派だったと思うぜ」うつむいていた郡山だったが顔を上げる。マキータは続ける。「トンドルの月の進攻が収まって、これからまた天球で戦いが起こるだろう。あんたの集めたデータや俺たちができなかった仕事が、これから役立つ」17

2015-02-02 21:51:37
マトリクス @3atrix

そこまで言って、彼は何かに気づいたように目を見開いた。「そうだあんた、例えばさ、この家に強盗が入って、金をよこせ!って言ったらどうする?」「……追い出すでしょうね、アームヘッドに乗って」その時である!18

2015-02-02 21:55:13
マトリクス @3atrix

「金を出せぇぇッッ!」19

2015-02-02 21:57:08
マトリクス @3atrix

別に強盗が超・超・都合よくやってきてくれたわけではなく、マキータがそこらへんにある布で覆面のように顔を覆い、ついでに残り二つのドーナツで眼鏡を作ったのである。「「……」」気まずい沈黙と吹雪のひゅうひゅう鳴る音!「あの、ですね。」切り出したのは郡山。20

2015-02-02 22:00:22
マトリクス @3atrix

「私とあなたがこれから模擬戦をして、あなたが勝ったら、私は坊っちゃんの葬式に出席する。そういう約束をさせたい魂胆でしょうが、それだと私が強盗を追い払った後、葬式に行く道理がありません」「あっ……」21

2015-02-02 22:02:14
マトリクス @3atrix

「そッかあ~……」マキータはさも深刻そうな面持ちで、顎に手を当てた。「一緒に考えてくれない?どんな強盗だったら、追っ払った後で葬式に行きたくなるか」「えぇ……」郡山は脱力した。いや、ここ数週間で初めて、脱力することが出来た。完全にマキータのペースだった。22

2015-02-02 22:03:49
マトリクス @3atrix

この男、飄々としながら誠実で、狡猾でありながら抜けている。腹の内が読めない。それでいて悪意から行動しているわけでもない。郡山はそう思った。そして、ふふ、と笑った。「いいでしょう、あなたの勝負に乗ります。もっとも、勝つのは私ですがね」23

2015-02-02 22:04:53
マトリクス @3atrix

(これまでのあらすじ)村井幸太郎は死んだ。かつての従者、郡山択捉は雪降る地のコテージで細々と隠れ暮らしていたが、そこをマキータ・テーリッツが訪れる。葬式には行かないと頑なに言い張る択捉に、彼は巧みな(?)話術で模擬戦を持ち掛けた。

2015-02-08 18:58:11