明日へ

綺羅さん(@kiraboshi219)による薄桜鬼の創作小説第18弾。 一部訂正しました。 第1弾「黒と白~斎藤一~」http://togetter.com/li/587101 続きを読む
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🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「明日へ」 2014.10.13第19回ワンライお題「優しさ」に投稿。

2014-10-14 21:27:49
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

艶めく長い黒髪を切り落としてからの土方歳三は、 憑き物が取れたかのように穏やかな表情を見せるようになった。 本来の土方に戻った__それがわかるのは、旧知の仲間だけである。

2014-10-14 21:28:40
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

鬼の異名を以て、厳粛な副長を務めてきた。 近藤勇を、失うまでは__。

2014-10-14 21:28:58
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

流山。 大久保剛の名で新政府軍に出頭させたのは、土方だ。 近藤が自らの命を絶とうとしたのを、土方は自分の我儘で止めた。

2014-10-14 21:29:18
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

生きて欲しいと願いながら、ここで死ぬのは犬死だと大声で喚き散らした。 鼓舞のつもりだった。 近藤には、罵りに聞こえていたのかもしれない。

2014-10-14 21:29:37
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「トシ、俺はもう疲れたよ」。 その言葉が耳から離れない。

2014-10-14 21:29:52
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

助命嘆願のため、江戸に潜伏し、勝海舟に懇願、 それだけでは安心できなくて、土方は方々に手を尽くした。

2014-10-14 21:30:06
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

土方の努力も空しく、 慶応4年4月25日、近藤は新政府軍によって処刑された。 切腹をも許されぬ、罪人としての斬首だった。

2014-10-14 21:30:21
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

齎された訃報は、すとんと腹の中に落ちてきた。 「近藤さんを殺したのは俺だ」。

2014-10-14 21:30:42
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

背中を振り返ることができなかった。

2014-10-14 21:30:54
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

己の命を嘲笑い、 生きた屍だと感じた。 近藤勇を失くした土方歳三は、鬼である必要はもう、ない。

2014-10-14 21:31:08
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

近藤と土方は同じ夢を見た。 本物の武士になろうという夢を。

2014-10-14 21:31:21
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

土方は当たり前のように近藤を頂とし、 近藤のためにと思ってやってきた数々の所業は、 いつしか近藤を理由に挿げ替えているのではないかと思うようになった。

2014-10-14 21:31:34
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

武士になるとは主を持つこと。 土方にとっての主は、近藤以外の何者でもなかったのだ。

2014-10-14 21:31:59
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

土方以外にとっては、近藤は同志であり組織の代表者だった。 それゆえに永倉や原田は袂を分かち、新選組を去った。

2014-10-14 21:32:16
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

失っていくだけの日々、 ただ引っ張ってきた仲間を、今更見捨てるわけにはいかない。 こいつらの命の責任を俺が負う。 土方がようやく前に踏み出せたのは、 荒んだ心を癒してくれる存在があったからだった。

2014-10-14 21:32:36
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「一人一人の命の意味を知っているからこそ、 胸を痛める土方さんは、本当に優しい人だと思います」

2014-10-14 21:32:48
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

雪村千鶴の言葉は、いつの間にか土方を素直にさせていった。 千鶴は新選組の一人と言っても過言ではないほどに、様々なものを見てきた。 散った命、散らせた命、 それらを知っていながらなお、 土方を優しいと形容する。

2014-10-14 21:33:16
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

土方の命果てるその時まで、面倒を見てやらなければならない一人であり、 土方自身が、 支えてやりたいと、誰かに願っている。

2014-10-14 21:33:57
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

蝦夷まで転戦を続け、 今傍らに寄り添う千鶴を、 土方は隠すことなく小姓と公言する。

2014-10-14 21:34:21
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

ここに至るまで、墓標の数を改める暇もない。 死に場所を求めて生きることをやめ、 新しい時代の先を生きるために、 陸軍奉行並として、土方は邁進する。

2014-10-14 21:34:33
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

土方を慕う隊士や兵士は、敬愛の思いを込めてこう呼ぶ。 「副長」__と。

2014-10-14 21:34:48
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

刀の時代は終わったと知りながら、 土方は刀を持って先陣に立つ。 振り向いた後ろに立つ多くは、 どれもが大切な、命を持った人間である。

2014-10-14 21:35:12
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

朝敵と土方らを蔑み、数に物を言わせる新政府軍もまた、命の集団である。

2014-11-04 23:33:43
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

この厳しい戦いを切り抜け、終わらせる。 優しい心を持つ女を、苦しめないためにも。

2014-10-14 21:35:37