艶めく長い黒髪を切り落としてからの土方歳三は、 憑き物が取れたかのように穏やかな表情を見せるようになった。 本来の土方に戻った__それがわかるのは、旧知の仲間だけである。
2014-10-14 21:28:40流山。 大久保剛の名で新政府軍に出頭させたのは、土方だ。 近藤が自らの命を絶とうとしたのを、土方は自分の我儘で止めた。
2014-10-14 21:29:18生きて欲しいと願いながら、ここで死ぬのは犬死だと大声で喚き散らした。 鼓舞のつもりだった。 近藤には、罵りに聞こえていたのかもしれない。
2014-10-14 21:29:37土方の努力も空しく、 慶応4年4月25日、近藤は新政府軍によって処刑された。 切腹をも許されぬ、罪人としての斬首だった。
2014-10-14 21:30:21土方は当たり前のように近藤を頂とし、 近藤のためにと思ってやってきた数々の所業は、 いつしか近藤を理由に挿げ替えているのではないかと思うようになった。
2014-10-14 21:31:34失っていくだけの日々、 ただ引っ張ってきた仲間を、今更見捨てるわけにはいかない。 こいつらの命の責任を俺が負う。 土方がようやく前に踏み出せたのは、 荒んだ心を癒してくれる存在があったからだった。
2014-10-14 21:32:36雪村千鶴の言葉は、いつの間にか土方を素直にさせていった。 千鶴は新選組の一人と言っても過言ではないほどに、様々なものを見てきた。 散った命、散らせた命、 それらを知っていながらなお、 土方を優しいと形容する。
2014-10-14 21:33:16土方の命果てるその時まで、面倒を見てやらなければならない一人であり、 土方自身が、 支えてやりたいと、誰かに願っている。
2014-10-14 21:33:57ここに至るまで、墓標の数を改める暇もない。 死に場所を求めて生きることをやめ、 新しい時代の先を生きるために、 陸軍奉行並として、土方は邁進する。
2014-10-14 21:34:33刀の時代は終わったと知りながら、 土方は刀を持って先陣に立つ。 振り向いた後ろに立つ多くは、 どれもが大切な、命を持った人間である。
2014-10-14 21:35:12