残酷SF昔ばなし マッチ売りのサブロウ

頂いたお題から即興で組み上げたショートストーリー
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モッズ @moderntimes_ns

お題 ファム・ファタール 犬 寝取られ アルコールランプ オロナインH軟膏 泥沼状態 ガンガル 八極拳 未来形ガジェット ……オラなんだかすっげえワクワクしてきたぞ!!!!!!!!

2014-10-14 23:24:14
モッズ @moderntimes_ns

「よい子の昔ばなし 離婚調停に敗れた旦那さん」 1

2014-10-14 23:25:38
モッズ @moderntimes_ns

「昔むかし、銀河帝国が深刻なオロナインH軟膏汚染に陥り、大統領が汚職で辞職を迫られていた頃のお話です。 そんな過酷な世間の状況とはまったく関係なく、火遊びが過ぎて家庭機能が完全に停止した妻一人子ふたり犬一匹の家庭をもつ45歳サラリーマンの男がおりました。」 2

2014-10-14 23:29:07
モッズ @moderntimes_ns

「男の家庭も最初はこんなはずではなかったのですが、10年前のあの夏、妻の浮気に始まり、息子の非行、長女の援助交際、犬の子供が暴れアルコールランプに飛び込み焼死するなどの様々な痛ましいすれ違いが折り重なり、今では男の理解者は犬とかつての幼馴染だけとなってしまいました」 3

2014-10-14 23:32:56
モッズ @moderntimes_ns

「木枯らし吹きすさぶ11月の風の中、男は今日もストックの切れたオロナインを幼馴染から買い取るべく、安ホテルへと向かいます。 男の目は虚ろ、口の端からは涎が絶え間なく垂れ流れ、ひと目でオロナイン中毒患者だとわかる惨めな有様です。」 4

2014-10-14 23:36:31
モッズ @moderntimes_ns

「と、フラフラと歩く旦那さんにぶつかる者がありました。 旦那さんが苛立ち混じりの視線を差し向けると、向こうも同じようにこちらを睨み返してきます。思わず視線を逸らそうとした旦那さんでしたが、相手の少年は旦那さんの顔をまんじりと眺めると、途端にぱあっと顔を輝かせました。」 5

2014-10-14 23:45:04
モッズ @moderntimes_ns

「『やっと見つけた!あなたは銀河帝国歴1205年のガンガル・ゲムカモフ・ドライツェン三郎さんですね!?』少年はオロナイン中毒の旦那さんの手を取り、早口にまくしたてます。」 6

2014-10-14 23:48:34
モッズ @moderntimes_ns

「自分の名前を突然見ず知らずの少年に呼ばれた旦那さんは、ぎょっとしつつも震える手で襟元を正しながら答えました。『いかにも、私はガンガル・ゲムカモフ・ドライツェン三郎中ヤラレメカ五郎だが、君はいったい何者かね?』」 7

2014-10-14 23:51:46
モッズ @moderntimes_ns

「『僕は銀河帝国第八艦隊所属少年型戦闘用文化女中器、N-7500です。あなたのお父上に頼まれて、お迎えに上がりました。』そう告げると、電子反射版がきらきらとまぶしい太ももを備えた人工生命体の少年は、旦那さんの手をとり一足飛びに駆け出します。」 8

2014-10-14 23:59:04
モッズ @moderntimes_ns

「少年に連れられた旦那さんは、まず病院で血中汚染軟膏を新鮮な血液に互換され、身なりを整えさせられました。それから、今までの生活が軍から与えられた潜入任務だったこと、敵の罠に嵌まりオロナイン軟膏付けにされ、偽の配偶者と過程を与えられていたことを知らされたのです」 9

2014-10-15 00:02:00
モッズ @moderntimes_ns

「本当の自分を取り戻した旦那さん……否、密偵の男のそれからの毎日は、戦いと冒険の連続でした。降り注ぐ銃弾の雨を相棒の少年とともに駆け抜け、悪のオロナイン商人を打ち破り------」「わかった。もういい、もういい!」 10

2014-10-15 00:04:56
モッズ @moderntimes_ns

「サブロウさん、いい加減にしてください」穏やかな、しかし拒絶の意図を示す声で、医師は患者を叱りつけた。 「いいですか。あなたの過酷な半生と、その境遇については同情します。ですが、本当のことを話してくださらないと、このカウンセリングは何の意味もないんですよ。わかりますね?」 11

2014-10-15 00:06:51
モッズ @moderntimes_ns

「はい、先生。すいません」 「……まあ、いいでしょう。今日はお疲れのようですから、ここまでにしておきましょう。 いつものお薬をお渡ししておきますので、血中汚染オロナインの解毒が終われば、お帰りいただいて結構ですよ」 「はい……」 12

2014-10-15 00:10:49
モッズ @moderntimes_ns

「……サブロウさん、今日もあの話を?」 トボトボとさみしげな後ろ姿を見せて、病院を後にするサブロウを傍目に、看護師が医師に尋ねた。 13

2014-10-15 00:11:58
モッズ @moderntimes_ns

「ああ、思えば、あの人も不憫なもんだよ。戦争で職業軍人だったお父上を亡くされて、慰安も兼ねたスペースシャトル旅行中の暴れ八極拳士との衝突事故で家族まで。あの人は唯一助かったけれど、その後すぐオロナインH軟膏中毒でここに運ばれてきたんだ」 14

2014-10-15 00:14:21
モッズ @moderntimes_ns

「いまは一匹の飼い犬と、避難居住区域に暮らしているって言ってたけど……それもどこまで本当のことだか。 きっと、自分のことが許せずにいるんだろうなあ」 15

2014-10-15 00:16:32
モッズ @moderntimes_ns

「少しでも、心の重荷が取れるといいですね」「ああ。私もそう願ってるよ。少しでも力になってやれればと……」だがその後、サブロウ氏が医師の前に姿を見せることはなかった。 16

2014-10-15 00:17:52
モッズ @moderntimes_ns

数週間後、避難居住区域にて右手に蓋の空いた空のオロナインH軟膏ケースを握り締めた中毒患者が、目を見開き死んでいる姿が公衆衛生局員により発見された。 17

2014-10-15 00:20:07
モッズ @moderntimes_ns

患者のそばでは一匹のグレイハウンド犬と壊れた少年型セクサロイドが寄り添うように息絶えており、灯りにしていたらしきアルコールランプの灯だけが、その最期を優しく見守っていた、と巡回局員は語った。 その姿は、まるでおとぎ話のマッチ売りの少女のようであった、とも。 18

2014-10-15 00:22:30
モッズ @moderntimes_ns

……以上、銀河帝国歴1206年 ビッグバン・エクスプレス 11月65日朝刊より抜粋 19 #おしまい

2014-10-15 00:23:34