澤口ひらく@食レポ用さんのレビュー

ハッシュタグ #フォロワーさんの好きな要素を可能な限り詰め込んだショートストーリーを書く にいただいたお題を使ってヨタ話を作りました
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ひたちえぼ @EVO_Hitachi

【いただいたお題】 ①メキシカン・スタンドオフ ②食べ歩き ③エキゾチックな踊り娘 ④剣道 ⑤江湖者

2014-10-15 00:20:01
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ガイドブックに載っていた移動販売の店でホットドッグを買った。てっぺんが少し焦げたパン。内側に控えめに塗られたマーガリンが、みずみずしいレタスの食感を損なわず、パンに水気を吸わせない。こういう細やかな心遣い、最近減ったなぁ。ウインナーもパリッジュワッでたまらない。 1

2014-10-15 00:27:16
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

たまには新規開拓するもんだな。不意に街角でグラマーな姉ちゃんに目を奪われるような出会いが待ってる。これだから食べ歩きはやめられない。口の端についたケチャップを舐めとって、俺は13件目の店の前に立つ。美味い小籠包が食えるらしい。足を踏み入れる。 2

2014-10-15 00:31:48
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

俺は思わず声を上げた。ガイドブックに『個性的な内装』の惹き文句が載っていたが、ブラックライトに照らされたダンスクラブじみた店内を、ベリーダンス風の衣装を着たウェイトレスが、蒸籠だの紹興酒の徳利だのをトレイで運んでいる。ガイドブックには良いことしか書かない。そういうことだ。 3

2014-10-15 00:37:43
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

ホントに美味いモン食わせてもらえんだろうなぁ。扇情的な腰の動きで歩くウェイトレスに案内され、テーブル席に座った。注文が決まったら備え付けのベルを鳴らすよう言われたが、とりあえず酒を頼む。去りゆくウェイトレスの腰から腿のラインを堪能した。美味いかどうかはともかく眼福ではある。 4

2014-10-15 00:42:23
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

メニューを手に取りながら店内を軽く見渡すと、そこかしこに見知った顔が座っていた。“剣道部の”マユミ、“江湖者”ティエンクー、“0.3”カラット、店員のフリしてる豊満な姉ちゃんは“あの女”だ。「マジかよ」俺はメニューを立てて顔を隠す。日曜だぞ、安息日だぞ、仕事熱心だなてめえら 5

2014-10-15 00:47:42
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ご注文のビールでございます」俺の目の前にビールを置いたのは“あの女”だ。コイツはハニートラップが得意な奴だ。一戦交えたことはあったが、これがとんでもねえドSで、口に銃口突っ込まれっぱなしだったのは困った。「ありがとう。とりあえず姉ちゃんも一口どうだい」「嫌です」「だろうな」 6

2014-10-15 00:52:06
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「さっき俺のビールに入れてたスパイスは何だい姉ちゃん」「危ないものじゃないわ」豊満な谷間を見せつけるように俺に身を乗り出して囁く。「じゃあまず姉ちゃんが飲んでくれよ」「イヤ」「テメェが飲めないモン出すなって」俺はその谷間の下に引き抜いたリボルバーを押しつける。「な?」 7

2014-10-15 00:57:43
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

“あの女”はホールドアップした。それが合図だった。カウンターで餃子をつついていたティエンクーが、その餃子をつついていた箸を俺めがけ投擲。あいつの投擲は飛んでる虫を串刺しに出来るほどだ。が、咄嗟にメニューではたき落とす。それに気取られている間に、今度はマユミが奇声を上げて跳躍。 8

2014-10-15 01:02:13
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

セーラー服のマユミが大上段に竹刀に見えるものを振りかぶって襲いかかってくる。竹刀に見えるが中身は鉄の棒だ。良くて骨折だし最悪死ぬ。テーブルの下に潜り込んで避ける。がぎん、という音がした。多分テーブルに亀裂が走ったかした音だ。腕を掴もうとする“あの女”は体当たりで振り切る。 9

2014-10-15 01:06:08
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

飯を食いたいだけなのになんで俺はこんな目に遭うんだ。ヒwitterか。食レポアカウントのせいか。実名でやったのがまずかったか。一旦店を出るか? いやだめだ。今日はこの店の小籠包を食うと書いちまった。俺の2万人のフォロワーになんて言い訳する? 腹を括るしかないのだ。 10

2014-10-15 01:12:59
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

いつからかは分からないが、食レポ系ヒwittererは、語彙や表現より、早くヒwitterに情報をアップすることを至上とするようになった。最初は文字での殴り合いだったが、今じゃ店に着くなり、こうだ。銃口を突っ込まれながら、隣で“あの女”に葛切を食われた悲しさを思い出した。 11

2014-10-15 01:22:15
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

今回この四人は恐らく、事前に示し合わせて俺を潰そうとしていたのだろう。そうでなかったら普段ラーメンのスープで血みどろの抗争をするこいつらが、一致団結するはずがない。ちなみに俺はあっさりめの煮干し系が好きだ。 12

2014-10-15 01:26:59
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

店内を逃げ回りながら、俺はまずティエンクーに一発お見舞いする。BLAM!リヴォルバーが火を噴き、奴の右手を撃ち抜いた。お前その京劇のお面リアルでやってたんだな。怖いわ。ティエンクーが電光の速さで抜いた箸が宙を舞い、落ちる。手の負傷は食レポヒwittererとしては致命傷だ。 13

2014-10-15 01:30:55
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

とりあえず“あの女”は別に美人で豊満なだけが取り柄だからほっといていい。俺は鉄の棒を振り回す女子高生と対峙することにした。怪鳥音にしか聞こえない声で、鋭い突きが喉元めがけて繰り出される。上体を大きく反らして避ける。 14

2014-10-15 01:36:47
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

そして、武道有段者は暴力振るっちゃいけないと戒めを込め、伸びきった腕を取って引き倒し、関節をキメた。大人の男が女子高生の腕関節をキメる姿はある意味炎上案件ではあるけど勘弁して欲しい。俺だって命がけだ。 15

2014-10-15 01:40:43
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「離せこの! 変態! オフ会で飯じゃなくて女ばっか食いやがって!」「お前そんなデマ信じてんじゃねぇよ! その件はヒogetter読め! あと白熊屋のフレンチパンケーキはお前に譲るから今日は帰れ!」マユミはちょっと考えたあと、そういうことなら、と、大人しく帰った。 16

2014-10-15 01:44:44
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

さあ、あとはどいつだ。確か0.3カラットがまだ――「!!」俺は、熱した油に菜箸を突っ込んだときの気泡めいたジュワッと嫌な感じをおぼえ、リボルバーを手に振り返る! 17

2014-10-15 01:46:52
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

俺の目の前に、銃口。そして、俺の銃口の先に、0.3カラットの心臓。0.3カラットは言う。「このときを待ってたぜ。この俺が食レポアカウントの頂点に立つ日を」「馬鹿野郎……!」俺は呻いた。こんな後味の悪い思いをしてまで書く食レポになんの意味があるってんだ。 18

2014-10-15 01:52:42
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

緊迫する俺達を止めたのは、カウンターからの銃声だった。店主の爺さんが怯えるウェイトレスたちを守るように、天井に向けてショットガンをぶっ放したのだ。「お前ら、うちの店に何しに来た! 殺し合いか! 飯か!」俺達は顔を見合わせた。当然、飯だ。 19

2014-10-15 01:57:36
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「なあ、こうしよう。俺達は、今日偶然、ここでバッタリ会って、一緒に飯を食って帰った。飯の写真とレポートは先にお前に譲る。ただ、せめてビールの写真と一緒にお前と美味い小籠包を食ったと、そう報告させてくれ」俺は銃口を逸らし、笑った。0.3カラットも、笑った。 20

2014-10-15 01:59:17
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

やっぱり、飯は笑って食うのが一番だ。いつかこの食レポ地獄のフルコースを終わらせたいもんだと思いながら、俺は爺さんに言った。「すいません、小籠包とビールください」 21

2014-10-15 02:01:36
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

【澤口ひらく@食レポ用さんのレビュー】おわり

2014-10-15 02:04:01