マニューバ・バトル・オフ・サイレントヒル 前編

サイレントヒルの文字を出すためだけに書いた短編。
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2014-10-15 21:00:09
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss を使用していただけると大変ありがたいです。宜しければ暫くの間、お付き合い下さいませ)

2014-10-15 21:01:37
劉度 @arther456

【マニューバ・バトル・オフ・サイレントヒル】前編

2014-10-15 21:03:08
劉度 @arther456

静岡県、下田港。伊豆半島の南端に位置するこの港に、2隻の軍艦が停泊している。1隻は横須賀鎮守府第33地区所属・原子力巡洋艦『蔵王』。もう一隻は佐世保鎮守府第6地区所属・フリゲート艦『東照』。いずれも艦娘運用のために大改装を受けた、前線指揮艦だ。 1

2014-10-15 21:05:05
劉度 @arther456

肝心の艦娘は今、これらの船には乗っていない。港からほど近いホテルで、夕食を食べている最中だった。夕食はビュッフェであり、艦娘たちは思い思いの料理を楽しんでいる。未だ食料に余裕がない日本において、食べ放題は破格の待遇。それも彼女たちが艦娘だからだ。 2

2014-10-15 21:08:23
劉度 @arther456

彼女たちが集まっているのは、明日の演習のためである。横須賀と佐世保、2つの鎮守府から選ばれた艦隊が、実戦形式で技を競い合うのだ。「それだけの話だってのに」見届け人に選ばれた呉元帥は、ぽつりと呟いた。「なんでこんなにギスギスしてるんでだよお前ら」 3

2014-10-15 21:11:48
劉度 @arther456

艦娘たちではない。提督たちのことだ。横須賀33地区の提督と佐世保6地区の提督。お互いに階級は大将で同じ。だというのにこの二人は、黙々と食事するだけで一言も言葉を交わそうとしない。「お前らなあ、演習前のマイクパフォーマンスとかしないの?」「しません」「同じく」 4

2014-10-15 21:15:18
劉度 @arther456

呉元帥は二人の確執を知らない。かつて深海棲艦が33地区に潜入した事件の時、査問委員会でこの二人が熾烈な争いを繰り広げていたことを。陸軍とドイツの横槍により横須賀の提督はお咎め無しとなったが、未だ二人と、二人の属する横須賀と佐世保の溝は深い。 5

2014-10-15 21:18:43
劉度 @arther456

不仲ではあるがそれは提督の間だけの話であり、艦娘たちはこのパーティーを素直に楽しんでいた。横須賀の陸奥は佐世保の妙高とマリネの感想を語り合っているし、佐世保の叢雲ははしゃぐ利根と電と窘めている。そんな中で、一人だけ誰とも喋らず、黙ってジュースを傾ける少女が一人。 6

2014-10-15 21:22:07
劉度 @arther456

薄紫色の髪を頭の後ろで束ね、青い目を誰とも合わせない少女は、横須賀第33地区所属の駆逐艦・不知火。鎮守府の中で最も真面目で、隙が無く、容赦がないと思われている艦娘である。このようなパーティーの場には慣れていないようで、非常に居心地が悪そうだ。 7

2014-10-15 21:25:37
劉度 @arther456

「あ、いたいた」そんな不知火に、一人の少女が近づく。赤い髪を黄色いリボンでツインテールにしている。ブラウスと袖なしベストという服装は、不知火と同じだった。「やっと会えた!陽炎よ、よろしくね!」陽炎、と名乗った少女はにっかりとはにかんだ。「不知火に何か御用ですか?」 8

2014-10-15 21:28:57
劉度 @arther456

「んー?用っていうか、気になってたから一度会っちゃおうって思って?」横須賀33地区は、よくも悪くも決して無名の鎮守府ではない。そこで一軍主力を務める不知火も、色々と噂を流されているのだろう。「そうですか。同じ陽炎型同士、明日の練習ではよろしくお願いします」 9

2014-10-15 21:33:01
劉度 @arther456

愛想のない返事。対して陽炎は、妖しく目を細めた。「同じ陽炎型、ねえ。本当に同じかしら?」その言葉に、不知火の動きが固まる。「……どういう、意味ですか」「だって戦果凄いじゃん。あの戦艦棲姫とも渡り合ったんでしょ?私なんかには真似できないわよ」 10

2014-10-15 21:36:17
劉度 @arther456

「そういうことでしたら、大したことではありません。あの戦艦棲姫とは相対しただけで、沈めることはできませんでした」いつもの調子に戻って、不知火が答える。自分の戦果は、常識的な訓練で得られる範囲だと思っている。「あれ、そうなの?」「そうです」 11

2014-10-15 21:39:31
劉度 @arther456

「どうだろうなー。ま、いっか。明日の演習のお楽しみ、ってことにしてあげるわ」陽炎は立ち去ろうとするが、最後に振り返って不知火に告げた。「ああ、そうだ。言い忘れてた」「何でしょうか」陽炎の浮かべた笑顔は、企みを含んだものだった。 12

2014-10-15 21:42:45
劉度 @arther456

「キョウコちゃん、死んだって」 13

2014-10-15 21:46:10
劉度 @arther456

その名前を聞いた瞬間、不知火の目が見開かれた。冷静沈着で知られる彼女が、それほどまでに自分を見失う一撃だった。「バカな……!?」「ぬいぬーい!」驚愕する不知火の後ろから、誰かが抱きついてきた。酒臭い。 14

2014-10-15 21:46:49
劉度 @arther456

「へーい、ぬいぬぅーい、楽しんでるぅー?さっき外の酒屋さんでいい日本酒買ってきたんだけどさぁー、ここの人たち誰も酒に付き合ってくれないのよー。だからぬいぬいにちょっとお酌して貰おうと思っ……オウフッ!?」完全に出来上がっている隼鷹の足を踏みつけ、怯んだ隙をついて背負い投げ。 15

2014-10-15 21:50:10
劉度 @arther456

「グワーッ!」悲鳴を上げる隼鷹を気遣わず、急いで陽炎を目で探すが、もういなくなってしまっていた。「まったく……」毒づきながら、彼女は冷静さを取り戻す。問い詰めたくはあったが、どこに行ったか分からないのでは一度諦めるしかない。幸い、次に会う時は決まっている。明日の演習だ。 16

2014-10-15 21:53:28
劉度 @arther456

翌朝。『蔵王』と『東照』は下田沖の小島を挟んで向かい合っていた。いよいよ演習開始である。横須賀側は隼鷹改ニ、陸奥、電、不知火、ヴェールヌイ、利根改二。一方佐世保側は千歳航改二、榛名改二、叢雲、神通改二、陽炎、妙高改二。互いに旗艦は軽空母、これには理由がある。 18

2014-10-15 21:57:02
劉度 @arther456

『もう一度ルールを確認するぞ。今回の想定状況は、船団護衛中の交戦だ。旗艦の軽空母は輸送艦代わり。大破判定が出たら負けだからな、頑張って守れよ』モニタから話しかけてくるのは、『東照』に乗る呉元帥。「了解」『蔵王』に乗る提督は、後ろにいる呉の大和を気にしながら返事をした。 19

2014-10-15 22:00:20
劉度 @arther456

ちなみに元帥と大和がそれぞれの船に乗っているのは、演習のドサクサに紛れて相手を沈めようとしないための措置である。横須賀の提督には、権力者である元帥を撃つ度胸はないし、佐世保の提督は大和という勝てない相手に砲を向けるほど愚か者ではない。万事万端であった。 20

2014-10-15 22:04:14
劉度 @arther456

『よし。全員、準備はいいな?』提督は自軍の様子を見る。全員、海上にいる。装備にも問題はない。「準備OKですよ」『こちらも、問題ありません』両提督の返事を聞いて、元帥は満足気に頷いた。『よし!それでは両者とも全力を尽くせよ!演習開始!』掛け声と共に、艦娘たちが飛び出した。 21

2014-10-15 22:07:28
劉度 @arther456

「今日のカタパルトは絶好調じゃ!」利根が偵察機を飛ばす。軽空母は輸送艦扱いということで、艦載機は持っていない。索敵は彼女の担当になる。間もなく、視界をリンクさせた偵察機が、島を回りこんでくる敵艦隊を見つけた。「右舷!おったぞ!旗艦千歳!榛名、叢雲、陽炎がついとる!」 22

2014-10-15 22:10:47