美しい魔術師と強い村娘

お兄さんのお題を見てついやってしまったやつです。
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U @ebleco

よかろう。 好きに組み合わせて「僕の考える最強のカップリング」を作るのだ。 ━━━━ 1王子 2勇者 3騎士 4姫 5メイド 6町娘 7魔王 8盗賊 9奴隷商人 10学者 11奴隷 12魔法使い 13魔物 A優しい Bひどい C強い D弱い Eきれいな F醜い ×

2014-10-20 20:33:32
105 @105ws

わい氏、きれい(で冷徹)な魔法使い×(気が)強い町娘を選択。

2014-10-20 20:36:31
105 @105ws

昔々のとある国。魔術の発展により栄えたその国では、今でも五年にひとりほどの割合で魔術の素養を持った子どもがうまれます。  うまれた子どもは首都に呼ばれ、国が巨額の費用を投じて教育を施し、やがて誰もが羨む魔術師として活躍することとなります。

2014-10-20 20:57:19
105 @105ws

さて、今回の主役は国にその才能を認められてからわずか三年間で一通りの魔術講座を修め、八歳から国の魔術師団の中で働くひとりの青年です。  いまや、彼ももう十八歳。宰相に結婚をすすめられ、相手探しを始める場面から、この物語はスタートします……。

2014-10-20 21:00:26
105 @105ws

正直に言って、彼は人間のことに興味がありませんでした。才能の開花が他の魔術師たちと比べてとても早かったのは、彼の興味が自分の魔術を高める、その一点に集中しているからこそでした。 もちろん、その肩書を目当てに言い寄ってくる女が過去にいなかったわけではありません。

2014-10-20 21:57:32
105 @105ws

金の匂い、地位の匂い。更にいえば、彼の見た目が端正で麗しくあったのもその理由のひとつになっていたのかもしれません。やたらと色香を押し付けてくる女たちに、彼はほとほと嫌気がさしていました。 とはいえ……。 相手は自分で探すと宰相に言い置いたものの、出会いの場など検討もつきません。

2014-10-20 22:02:35
105 @105ws

あてどもなく城下町をふらふらと歩いてみたものの、収穫はなく、脚が疲れるばかり。普段、転移魔術ばかり使うとこのような弊害があるのだな、と独り言ちながら、目についた旅籠の酒場で一休みをすることにしました。午後にはなりましたが、まだ陽の高いこの時刻ならば、お茶でも出してくれるでしょう。

2014-10-20 22:08:47
105 @105ws

旅籠があるということは、城下町でもずいぶん端の方まで歩いてしまったようです。そんなことを考えながら、適当な席に腰を下ろしました。 「いらっしゃい!」 出迎えてくれたのは、恐らくこの旅籠の看板娘でしょう。 「お茶かい? それともなにかつまむ? 悪いがこの店では昼酒はやっていないよ」

2014-10-20 22:19:41
105 @105ws

「茶を……」 言いかけて、彼は娘に目をやりました。恐らく年の頃は十五、六といったところでしょう。声には張りがあり、健康的な肌の色をしています。風貌は少女ですが、酒場で客の相手をしているだけあって、しっかりとした振る舞い。見た目も、この年頃の娘としては申し分ないように思えます。

2014-10-20 22:28:10
105 @105ws

「お茶でよろしいので?」 言葉を止めた彼を訝しむように見ながら聞き返す娘に、「ふむ」とひとり頷いた彼の次の言葉はこうでした。 「娘よ、私と結婚しろ」

2014-10-20 22:30:58
105 @105ws

「は……? け、結婚?」 意外すぎる言葉を思わず復唱する娘に対して、彼は頷きました。 「そうだ、結婚しろ」 年も見た目も悪くなく、権力にも金にも興味はなさそうで、健康的。そして城下町でも端の方に住まうような娘ならば、物もよく知らず、扱いやすいだろう。彼はそう考えました。

2014-10-20 22:40:37
105 @105ws

しかし、返ってきたこたえは彼の思ったとおりではありませんでした。 「ええっと、お断りします」 「なんだと? 娘、おまえ、私が魔術師団第四の魔術師と知って物を言っているのか」 「はあ、お顔を拝見してすぐに分かりましたが……」 「では何故だ」

2014-10-20 22:47:01
105 @105ws

言葉を濁す娘に、彼はいらいらした様子で指で机を叩くので、とんとんと神経質な音がしています。 「いや、あたし、あなたのこと全然知りませんし」 「私のことは、先に言った通り、第四の魔術師ということさえ知っていればよかろう」 ふん、と鼻を鳴らす彼を見て、娘は眉を顰めました。

2014-10-20 22:50:43
105 @105ws

「じゃあ、逆になぜあなたはあたしを選んだんですか」 酒場のドアを開いたときの娘の快活な表情はすっかり息を潜めています。 「簡単なことだ。おまえからは社交界の欲にまみれた女の匂いがしないし、見た目も悪くない。健康そうだから子も何人か作れるだろうと思ってな」

2014-10-20 22:57:45
105 @105ws

「ついでに言えば、宰相から急かされていてな。これ以上探すのも面倒だから、おまえにしたのだ。喜べ」 とんとん、と机を叩いていた指を上げて、彼は娘を指差しました。その人差し指のむこうには、眉を釣り上げた娘が、顔を真っ赤にしています。 「さ……」 「さ?」 「最っ! 低っ!!」

2014-10-20 23:06:09
105 @105ws

言うが早いか、娘は彼を立たせると、手早くドアの向こうに追い出しました。 「第四の魔術師様が最っ低ってことは分かりました! ここまで来てくださった分はこの茶菓子でお返ししますので、もう来ないでください!」 カウンターに置いてあった包みをひとつ握らされ、扉は閉じられてしまったのです。

2014-10-20 23:14:50
105 @105ws

「分からんやつだな、せっかくこの私が直に声をかけてやったのに」 恐らく土産用でしょう、かわいくラッピングされた菓子の包みを一瞥すると、中空に転移魔術の術式を展開して、彼は自分の研究室に戻りました。 研究室と呼んではいますが、国から充てがわれたメイドも助手もいるひとつの屋敷です。

2014-10-20 23:19:21
105 @105ws

転移用の間を抜けて、目についたメイドに茶の用意を言いつけると、中庭の見えるテラスへ出ました。そして真っ赤な顔をした娘のことを思い出し、首を傾げます。 「これだけ何でもあるというのに、何が気に入らんのか分からんな」 鼻を鳴らすと、用意された茶を飲むためにテラスの椅子に座りました。

2014-10-20 23:27:10
105 @105ws

茶菓子を用意しようとするメイドを手で制して下がらせると、持たされた包みを開いて中の菓子を一口齧りました。 「……ほう」 口の中に広がる粉砂糖のふわりとした甘さと、珈琲のようなほろ苦さ。お茶請けにぴったりの味でした。 「菓子作りもうまいとは、気に入ったぞ」

2014-10-20 23:33:38
105 @105ws

彼はにやりと、どこか楽しそうに笑いました。行き当たりばったりで決めた相手ですが、自分の選択は悪くなかったと確信しているようでした。 「明日も訪ねてやろう」

2014-10-20 23:41:23
105 @105ws

これが、見目麗しくも我儘な魔術師様が旅籠通いを始め、看板娘に怒られ、泣かれ、根性を叩き直されながらも求婚を続けた、その記念すべき第一日目の話です。 求婚が受け入れられるまでに、果たして何日かかったのか、そもそも結婚できたのか……それはまた、別のお話。 おしまい

2014-10-20 23:43:09