インスタント・リプレイ(ついのべ版)

もう何年も前の、ケータイも何もなかった頃の、「僕」たちの話。某所ではロングバージョンも公開してますが、その元ネタとして、或いは、Twitter小説としての集合体。
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添嶋譲 @literaryace

華街から一本入ったところの映画街へ君と行ったのはもう何年も前のことだ。見たいものが合わず、僕が折れて退廃的な香港映画を見たはずだ。建物を出たときに二人とも無言で、つまらなかったのかと思ったが、人目につかない建物の影で君は僕に抱きついたまま動こうとはしなかった。 #twnovel

2014-10-20 12:03:31
添嶋譲 @literaryace

の上の音楽堂で僕は君を待った。君が好きなバンドのコンサートに誘ったのだ。開演が近づいても君は来なかった。チケットが無駄になったと思ったがあの頃のこと、連絡手段はない。仕方なくチケット希望の札を持った二人組に渡し、その場を離れた。君とは二度と会うことはなかった。 #twnovel

2014-10-20 12:20:10
添嶋譲 @literaryace

下通路を抜ける直前、建物の地下にあるハンバーガーショップが僕たちの待ち合わせ場所だ。人通りが多いのにいつも閑散としていて、二人の秘密がばれることはなかった。いつもフライドポテトを二人で分ける。君の口の前に持っていくと「バカか」と言いながらぱくつくが好きだった。 #twnovel

2014-10-20 12:30:29
添嶋譲 @literaryace

#twnovel それからどうなったかって? 朝、登校するといろいろがいつも通りで、昨日のコンサート行った?と聞かれたけれど、いや、とだけ答えた。それ以上はなにもなかったし、本当にそれだけ。彼女は僕と目を合わせようともしない。そりゃそうだろう。だけど悪いのはこの場合、僕だからだ。

2014-10-22 08:04:56
添嶋譲 @literaryace

がいつも渋滞する、大通りに面した書店で願書を買う。学校もケチだなと思ったけど、他の奴らに志望校がバレるのもなんだか嫌だった。二つ三つ選んでレジに向かう。君が持っている封筒の色は僕のとは違う遠いところのだ。気づかないふりをしないと。さよならは確実に近づいている。 #twnovel

2014-10-23 16:22:33
添嶋譲 @literaryace

ァッションビルの1階にあるレコード屋を見て回るのが好きだった。偶然見つけたレコードを後先考えずにレジへ持って行こうとした時、キャンペーンで来ていたその歌手とすれ違いそうになった。手に持つレコードを見て、ありがとうと握手をしてくれた。それは温かく大きな手だった。 #twnovel

2014-10-23 20:12:17
添嶋譲 @literaryace

鉄の駅で僕たちは待ち合わせをする。朝、少なくない人の中からどちらが先に見つけるかを競うのが好きだった。ここのところ負けてばかりなので、にらみつけるように探す。とんとん。肩を叩かれる。しまった。振り向く。人差し指が頬にささる。そこには笑顔の君がいた。僕の負けだ。 #twnovel

2014-10-23 20:23:46
添嶋譲 @literaryace

書館の視聴覚室でレコードを聴くのが好きだった。一回に片面しか聞けなかったので、二日かかって一枚を聞いた。まだ子どもだった自分ができる精いっぱいの背伸びだったが、本当は好きな子が好きなものに触れたかっただけなのかもしれなかった。自分が好きか嫌いかは関係なかった。 #twnovel

2014-10-23 22:05:05
添嶋譲 @literaryace

スカレーターを何階も上がるとそこはタワーレコードだ。視界に入る黄色と赤のロゴは僕たちの全てを構成していた。君は僕に聞かせたいCDを見せる。僕は君にヘッドホンを押しつけ音を聞かせる。次々と音楽がつながって、僕たちが互いを知るように、世界は広さと深さを増していく。 #twnovel

2014-10-24 21:55:48
添嶋譲 @literaryace

路沿いのボウリング場が放課後の僕達のたまり場だった。いつまでもある古いゲームで点を競い、ジュースとお菓子を取りあった。少しも上達しないあいつに見かねて、彼はときどきわざと負けてやっていたことに気づいていたのは、多分僕だけだと思う。おそらく彼の本当の気持ちにも。 #twnovel

2014-10-27 15:27:16
添嶋譲 @literaryace

園の入り口で待ち合わせ、観光客のふりをして歩き回る遊びをよくやった。ガイドの説明を聞き、灯籠の傍で写真を撮り、休憩所でお茶を飲む。修学旅行のどさくさの制服デートみたいだと笑う。次は別のところに行きたいと言っても叶わないことは二人とも知っていた。そんな内緒の恋。 #twnovel

2014-10-29 00:11:20
添嶋譲 @literaryace

物のそばの大きな水時計を見るのが好きだ。ゆらゆら揺れる振り子と不思議な形のフラスコ。そこに水が溜まるのを見ているだけでいくらでも暇はつぶせた。誰も来ないのに誰かを待つ一人遊び。飽きたらすっぽかされたふりをしてここを去ればいい。今日もそのつもりで振り返ると君が。 #twnovel

2014-10-29 20:45:27
添嶋譲 @literaryace

度だけ、街を流れる川の河川敷で花火を見たことがある。身動きがとれないほどの人で、はぐれないようにしっかりと手をにぎって見ていた。本当はこの日のために浴衣を用意したけど、着てこなくてよかったと思った。君のラフな格好を見て自分じゃないんだと反射的にわかったからだ。 #twnovel

2014-10-29 23:26:55
添嶋譲 @literaryace

から遠く離れたバスの終点が僕の家だ。学校帰りの君が、変な人につきまとわれる、と僕の家の呼鈴を鳴らす。君を送るために二人、暗い道を歩く。あたしさ、好きだったんだ。僕も。わかってたことだ。叶わなかったけど。君の家まであと100m。君は僕の腕をそっと取り、寄り添う。 #twnovel

2014-10-25 08:26:37
添嶋譲 @literaryace

差点にあるドーナツショップはいつも人でいっぱいだ。外から窓をのぞくとたいていクラスの誰かがいた。ストローをくわえたまま僕に気づいたあいつは手まねきした。言うとおりにして「手首の運動」はないよな、と思い中に入った。テーブルには宿題。ああ、なるほどね。一緒にやる? #twnovel

2014-10-30 18:48:49
添嶋譲 @literaryace

屋街の奥にある洋食屋に一度だけ入ったことがある。君が行ってみたいと言うので、奮発してお昼を食べに行ったのだ。料理が出てくると、君は見たことのないような笑顔でいただきますと食べはじめる。僕はそれを見ているだけでいいと思った。オムライスの味は大人の味なのだそうだ。 #twnovel

2014-10-31 12:36:16
添嶋譲 @literaryace

沿いの児童館には小さいプラネタリウムが併設されている。僕たちは人がいてもいなくても手をつないで見られるから好きだった。今日の夜空。夕焼けから日没、深夜を通って明け方、日の出まで。説明と手のひらの感触。本当の夜中もこうならいいのに。そう思うだけで胸が苦しくなる。 #twnovel

2014-11-10 23:08:04
添嶋譲 @literaryace

と白のバスに乗って市内均一運賃区間を抜けると、酷く田舎に来たような気になる。降りるのは終点、昔の新興住宅地だ。見知った顔がいくつもあるが、できれば気づかれたくないのでうつむいて寝たふりをする。触るのも嫌だった人が同じ空間にいますよ。言えば彼らは降りるだろうか。 #twnovel

2015-01-15 11:51:20