米潜水艦に撃沈された東光丸について三浦英之記者の呟き。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

①新聞記者になったとき、年に１度は芯のある終戦記事を書こうと決めた。今年は疎開船「東光丸」の話。終戦直前１９４５年春、八丈島から横浜へと向かう途中、米潜水艦に撃沈され、乗客乗員１６０人のうち１４９人が死亡した。著名な対馬丸の撃沈とは対照的にほとんど知られていない八丈島の悲劇だ。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

②東京湾の約３００キロ南に浮かぶ八丈島は戦争末期、硫黄島と同様、本土決戦に備えた首都防衛の「海上基地」として要塞化が進められた。敵の攻撃に長く持ちこたえるために無数の地下壕が掘られ、人間魚雷「回天」も配置。島民の本土疎開が本格化したのは１９４５年の春ごろからだった。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

③東京都や八丈町の記録によると、伊豆諸島や小笠原諸島では戦争末期、約１万６千人が貨物船などに乗って本土に疎開したとみられる。親類の家に身を寄せる「縁故疎開」と、都のあっせんで軽井沢などに向かう「集団疎開」などがあり、八丈島では島民の約７割にあたる約６千人以上が本土に渡っている。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

④東光丸が島を出たのは１６日正午ごろだったと言われている。学童を含む島民５５人、傷病兵２４人を含む計１６０人が乗っていた。撃沈の一部始終を目撃した男性が生きている。寺嶋健次さん（９０）。疎開船を守る海防艦で爆雷長を務めていた最後の「生き残り」。自宅の前橋市を訪ね、話を聞いた。

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⑤寺嶋さんが海防艦の艦橋で「敵潜水艦を探知」という報告を聞いたのは午後３時ごろだった。「魚雷がトビウオのように海面を跳ねながら向かってくるのが見えた。全部で４本。艦を左に急旋回させ、後方を航行している東光丸にも緊急信号で回避行動を取るよう訴えたが、東光丸は進路を変えなかった」

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑥海防艦が魚雷に向けて機関銃を乱射する中、東光丸の左部分に１発目の魚雷が命中。船首が持ち上がり、斜めに大きく傾いた瞬間、２発目の魚雷が船尾に当たっておわんを伏せたようにひっくり返った。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑦寺嶋さんの海防艦は爆雷２０個を投下して敵潜水艦を攻撃後、救命用ボートで生存者の救出に向かった。でも、乗客の多くが船内に閉じ込められ、救出できたのは海面に浮いていた１１人だけ。「我々がついていながら守れなかった……」と寺嶋さんはうなだれた

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑧町の記録によると、島民５５人は全員死亡。そこには学童８人と、校長３人を　含む８人の教員も含まれていた。町には今、生存者の１人で陸軍病院に勤務していた故豊田市三さんから当時の船内の様子を聞き取った古びた証言テープが町に残されている。 　

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑨その証言によると、東光丸では当時、敵飛行艇の襲撃を恐れて、乗客のほとんどが船倉にいた。豊田さんが偶然甲板に上がったところ、１発目の魚雷が左舷に命中。船首が海面上に持ち上がり、船が右側にひっくり返った。海に沈み込んだとき、絶叫や泣き叫ぶ声が周囲に響き渡ったという。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑩豊田さんは流れてきた甲板の板にしがみつき、海防艦のボートに救助された。船は数十分後に沈んだが、逆さまになった船内からは泣き叫ぶ声が続いたという。豊田さんは横須賀へと運ばれたが、戦時中だったため疎開船の撃沈について口外できなかった。戦後、「あの声が忘れられない」と島に石碑を建てた

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⑪何人かの方がお気づきの通り、東光丸が撃沈された日は韓国のセウォル号が事故で沈んだ同じ日なのだ。共に人災であり、罪のない生徒や民間人が亡くなり、沈没の様子までもが酷似している。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

⑫東光丸の悲劇はこれまでほとんど公にされてこなかった。それは八丈島の人々が「主産業である観光に影響を与えないよう」配慮をしていたとの見解がある。７０年近く前、戦争で本当に多くの人が亡くなった。せめて８月１５日ぐらい、平和な時代が来ることを祈って逝った彼らに思いを寄せたい（終わり）