【スワローズ妄想劇場】潜水艦ス-77航海日誌
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秋は足早に立ち去り、いつもより早く冬の足音が近づく港町。付近の街は西洋の聖者の誕生日を祝う飾り付けが始まっていたが、この港は未だ殺風景である。(仕方ない。ここは軍港なんだからな) #swamou
2014-11-01 22:50:56真新しい塗装を施された艦を見ながら艦長の真中はそう思った。鯨のような艦体の真ん中に立つ司令塔には真新しいペンキで「ス77」と書かれていた。だが新造艦ではない。激戦をくぐり抜け、大破したス-80を改修し改名した艦だった。 #swamou
2014-11-01 22:52:07大本営に転属となった前任艦長から水雷長であった真中が艦長として引き継ぎを受け、今朝、海軍工廠から修理の終わった艦(といってもまだまだ修繕の余地があったが)を引渡された。元の乗組員が召集され、これから四国沖まで練習航海に向かうのだ。 #swamou
2014-11-01 22:54:08真中は司令塔の前に立ち、2、3回軽く叩くとクルリと回れ右をして艦首の方を向く。そこには乗組員達が整列していた。「新任艦長の真中だ。これより練習航海に向かう。配置に付け!」威厳を込めた声で訓示をすると、士官や乗組員達が一斉に敬礼をした。 #swamou
2014-11-01 22:56:23(怠けてはいなかったようだな)機敏な動きで艦内に向かう乗組員達を見て真中は満足そうな顔をした。艦の修理が整うまでの間、乗組員達は地上で訓練をしており、皆、引き締まった顔と身体をしていた。 #swamou
2014-11-01 22:57:57「艦長、そろそろ我々も」と新任副長の三木が声をかける。「うむ」そう頷いて梯子を登り、司令塔の上に登る。そして、気が付いたように軍港を、そしてその向こうにある街を眺める。今年の戦果が芳しくなかったせいか、賑わいも淋しく見える。 #swamou
2014-11-01 23:00:20今、艦長という立場になり、無理に威厳をもった行動をしていたが元来、酒とお祭り騒ぎが好き真中は(来年の今頃帰港したときは、楽しげな街に変えてやるさ)と、ニヤリと笑った。「艦長?」中々艦内に進まない真中に見張長の宮出が声をかける。 #swamou
2014-11-01 23:01:36「あー、すまんすまん。すぐ入る」長年のコンビである宮出に急かされ我に返り、真中は床に開いた丸く狭いハッチから梯子を降りて中に入る。「あれ?」首を捻り、再び登る。「どうしました?」航海長の高津が尋ねる。「…先に行ってくれ」「はあ。」 #swamou
2014-11-01 23:02:29首を傾げながら高津がハッチから梯子を降りていく。それを見ながら身体を左右によじる真中。深く息を吐きもう一度ハッチから梯子を降りる。そして半分ほど身体を艦内に入れた所で再び止まり小さな声で呟く。「…らない」「は?」 #swamou
2014-11-01 23:03:45宮出が長身を折り曲げて耳を近づけて呟きを聞こうとする。「その…入らないんだ。腹がつかえて…」思わず宮出が吹き出す。「艦長、秋の間に食べ過ぎですよ?」「馬鹿者!大声出すな!皆に知れたら威厳も何もないだろ!」 #swamou
2014-11-01 23:05:14待ち構えていたように艦内から山田が真中艦長に声をかける「やだなぁ艦長、今更何を言ってるんですか?」「なんなら腹に石鹸液でも 塗って通らせましょうかー!」石川も後に続いてそう叫んだ。「もー、仕方ないですねぇ。」宮出が笑いながら艦長を引っ張りあげる。 #swamou
2014-11-01 23:07:19三木副長が冷淡な声で「艦長にはあちらを用意してあります。見張長、お連れして。」「了解!」そういうと宮出が真中をヒョイと持ち上げ艦尾に連れていく。艦尾の突起部分にロープが括り付けてあり、その先にはドラム缶が2つ繋がっていた。 #swamou
2014-11-01 23:08:04「何を…」と言う間もなくドラム缶に放り込まれる。「艦に入れないのでは仕方ありません。しばらくそちらで我慢して下さい。」「ま、まて宮出!」という声を聞いてか聞かずか、宮出はスキップするかのような足取りで艦内に入ってしまった。 #swamou
2014-11-01 23:08:37スクリューが回りだし、艦が微速前進を始めた。「おい、本気か!宮出!三木!」叫んだが艦内に聞こえる筈もない。呆然とする真中。ふともう一つのドラム缶を見る。(そうかこの中に飲料水や食料があって、これでしばらく過ごせと…)と思っているとドラム缶から何か出てきた。 #swamou
2014-11-01 23:09:26「ども…」「は、畠山!?」「私もハッチに入れませんでして…」「秋の訓練をサボるからそんなになるんだ!」「艦長に言われたくな…か、艦長!」畠山が驚いた顔をして艦の方を指さす。真中が振り返ると…艦は潜航を始めようとしていた。潜航されてしまえば当然…ドラム缶も海の中だ。 #swamou
2014-11-01 23:10:51「ま、まて!悪かった!ちゃんと体調管理するからっ!」「私も!ちゃんと走り込みしますから!」二人は段々と海中に引っ張られ、水没寸前になったドラム缶から声の限り叫んだ… #swamou
2014-11-01 23:13:30…「そろそろ許してやりませんか」潜望鏡で波を被るドラム缶を見ていた宮出が笑いながら三木副長に言う。「率先垂範。士官たるもの見本にならねば。」三木が顔色1つ変えずに言った。 #swamou
2014-11-01 23:15:28伊藤機関長が「まあまあ、今日のところはこれくらいで」とニヤリと笑いながらハッチを一回り小さくするために使った自信作の木製ダミー枠をクルクル回す。三木が頷いて「喫水線まで浮上し停船。艦長と畠山の回収開始せよ」と命じる。 #swamou
2014-11-01 23:16:56凪いだ海に停船するとハッチから乗組員達が飛び出してロープを引っ張り、ドラム缶から二人を回収した。「全くお前らは!なんてことをするんだ!」と叫びながら再び司令塔に上がってきた真中艦長。 #swamou
2014-11-01 23:17:59士官達に、まあまあ。艦内で訓練計画を立てましょうと促されると、ブツブツ言いながらもハッチから梯子を降りようとする。「あ、あれ?」と声をあげ、士官たちを悲しげにそっと見上げる。三木副長が溜息混じりに「回頭180、一旦帰港する」と北風よりも冷たい声で下令した。 #swamou
2014-11-01 23:20:29…結局、木枠を取ったハッチからも入れなかった二人は魚雷搬入用ハッチから工廠のクレーンで入れられた。「ああ、果てしない航海になりそうだ」高津航海長がそうボヤいた。 潜水艦ス-77航海日誌1頁目「練習航海」完 #swamou
2014-11-01 23:21:57