ツイッター小説 お気に入りセレクト 2010/11/30

のおの @noz_on_tw

勢いよく顔を洗う。水を被りつつ、「ふしゅっふしゅっ」と息を吐く。こんな癖がついたのは父を見ていたからだ。家畜に餌やりを終えると、彼は手と顔を洗う。蛇口から20センチ、青いホースが伸びている。ふしゅっふしゅっ。顔を上げると、鏡の向こうから父の眉をした顔が見ていた。 #twnovel

Yoshihiro Hayashi @yosha_01

公園のベンチにくたびれた老人がいる。彼は砂場で遊んでいる子供を視ている。お母さんはその子供を視ている。子供は気持ちよさそうに散歩している犬を視ている。犬は飼い主を視ている。飼い主は鼻唄を唄いながら空を視ている。特別な事件は今日もなにも起こらない。いつもの公園。 #twnovel

@cool_in_open

今日は離婚記念日。毎年この日は元気？とメールを入れる。当然ながら元妻からの返信は一度もない。別れて７年目の今日水槽に入った金魚が届いた。部屋に置くと金魚はじっと見ている。部屋を出ようとすると激しく暴れた。僕は何処に行くにも金魚を連れ歩くようになった #twnovel

あまたす @amatasu

中古のデジカメを買った。いろいろいじっていると、前の持ち主の写真が残っていた。笑顔の女性の写真。なぜか後ろめたくなって、すぐ消した。その晩、夢にその女性が出てきた。悲しそうな顔で「ありがとう」とだけ言って、彼女は消えた。次の日から、そのデジカメは動かなくなった。 #twnovel

丸山政也 ©︎ @masaya_maruyama

#twnovel ペットのチワワを抱き上げる。直ぐに甘えたりそうかと思うと怒ったりする気まぐれな所も愛おしい。でも何を考えているのかさっぱり分からない。顔をチワワの頭にくっつけて犬の視線になってみた。なるほど。こう見えているのか。瞬間、チワワの思惑が分かったような気がした。

明日やる代 @Kmama0208

#twnovel 「赤と青、一体どちらを切ったらいいんだっ！？」時限爆弾を前に俺は頭を抱えた。「大丈夫よ、ミシェル、好きな方を選べばいいわ」「サマンサ、もう時間が無いんだ！」「いずれにせよ、必ず爆発は阻止できるわ。セットを爆破する予算が無いのよ、この映画は」

N.T.Works/凪司工房＠介護生活中＠脱落者 @nagi_tter

#twnovel 毎回見た目も雰囲気も全然異なる男と付き合う親友の彼女が、ある日わたしに告白した。「実は私、匂いフェチなの」それで見た目や性格じゃなく「匂い」で彼氏を決めてきたという訳か。納得したわたしに寄り添い、彼女は何故か匂いを嗅いで恍惚の表情。「実はもう一つ告白があって」

ゆず @nanakoro8

#twnovel 僕の名前は真です、どうして真なのかお母さんに聞いてみました「前の旦那と結婚してた時に未婚だって言って今のお父さんと不倫しちゃってね、嘘付いて付き合ってたの。それでも愛し合って出来た子があなた。うふふ、嘘から出た真、だからあなたの名前は真なのよ」

ぬこ @sakuranuko

商売繁盛で有名な稲荷神社。毎月末は夜通し参拝客で賑わう。月に一度参拝を口実に彼に会う為通う。お互い家庭のある身。待ち合わせの参道口、足音で彼と分かる。油揚げと蝋燭を買い参拝する。ふと小動物がすれ違う気配がした。「商売は手伝うけど、色恋沙汰はねぇ」お狐様が笑う。 #twnovel

八本正幸 @nekogamihakase

人間豹は飢えていた。今宵の獲物はオートバイに乗ったジャンプスーツの美女だった。襲いかかると、小気味よい金属音とともにオートバイが変形して、美女と合体して戦闘ロボットになった。その美しいフォルムに見とれてしまい、あやうく蜂の巣にされるところだった。 #twnovel

しーな@GO2完走 @xsheeenax

お互い眼鏡をかけたままだとキスするときにぶつかってしまうのは僕らがそういうことに慣れていなかったから。「顔を傾けたらぶつからないって学習したもんね」「八回目からね」「数えてたの？」「ううん、適当」そう言って、君に近づいて顔を少し傾ける。僕たちだけの最適な角度で。 #twnovel

画家　絵本作家　塚本やすし @tsukamoto_ya2

熊五郎は気怠い午前中の仕込みをしていた。昨日の組合の会合での衝突で少々憂鬱な気分でいる。耳に苛立つような電話のベルが鳴った。「注文お願いー」と男の声。「チャーハン4つとねラーメン2つとねおいしい餃子4人前ね」熊五郎は「はい」と無愛想に受話器を置いた。寿司屋なのに #twnovel

まる @kuroi_kitsuneko

ゴトゴトと揺れる電車の中を、僕は角砂糖を片手に歩いてゆく。大きく口を開いて眠っているひとを見つけては、そうっと角砂糖を放り込む。じんわりと唾液に溶ける砂糖の甘みが、寝顔に微笑みを浮かばせる。僕は満足して、次の車両へとうつってゆく。角砂糖はたくさんある #twnovel

在原リコ @sumupi

#twnovel あれから毎年、星祭りの前日には手紙が届く。宛名も差出人の名前もない。封を開け真っ白な便箋を取り出せば、真ん中には見知った筆跡で綴られた一文。あの夜に見た宇宙の色をしたインクに触れる。今年も届いたよ、と写真立ての母に見せてから抽斗に仕舞った。「おげんきですか」

まる @kuroi_kitsuneko

上司の食べる速度があまりにも早いので、何かコツでもあるのですかと聞いてみたら「よくぞ聞いてくれた」と涙ぐんで話し始めた。「実は手品を使って身体に仕込んだ袋に移しているんだよ」という。「これまで１２年間誰も聞いてくれなかったんだ」 #twnovel

まる @kuroi_kitsuneko

「僕はいつでも結婚指輪を外す準備ができているよ」そう得意げに語っていたプレイボーイの彼。とうとう誰かが奥さんに告げ口をしたらしい。ある日彼を見かけると、結婚指輪はふかぶかと彼の鼻を貫き、口の前にぶら下がっていた。まるで種牛みたいだった #twnovel

Shimada Yuichi @chimada

「自分の小説のキャラクターに、あまり強い思い入れを持たないほうがいいでしょう」「それは、作者のこだわりが作品の柔軟性を損ねる、ということでしょうか」「いえ、別れが辛くなってしまうからです」（ノーマン・アジェスティヴ『私が出会った奇妙な作家たちとの対話』より） #twnovel

すわぞ @suwazo

#twnovel あの頃、私は毎日のように友人の病室を訪れた。ランドセルを背負ったまま。薬くさい病室で遅くまで二人で過ごした。私には家に帰りたくない理由があった。病弱な友人のための病室は私のシェルターでもあった。あの頃、私たちは生き残るために戦っていた。静かに。ふたりきりで。

翼 @keith_mild

#twnovel あるみすぼらしい犬がひっそりと息を引き取った。弱者として、何も得られずに。食い甲斐のない身体は虫にすら敬遠されたのか、蠅すら寄らない始末。それが余計に哀れみを誘うものだから、やるせない気持ちになる。せめて、生きている頃にその哀れさがあれば施しもあったろうに、と。

いでゆのまち @ideimachi

#twnovel いちばん上の姉が亡くなった。私を可愛がってくれた優しいひと。自分より赤ちゃんを選んだ強いひと。喪服の母から、姪っ子を抱かせてもらう。泣かせばきっと姉が悲しむから、大事に抱いた。本当は眠る顔が憎らしい。私が泣いたのは、心が整理できないせい。もらい泣きなんてご免だ。

泥辺五郎 @dorobe56u

#twnovel 僕は君のおっぱいを揉みたいってついぽろっと口走ったわけだけど、まだ揉んでないけれど、それは言葉の意味そのままじゃなく、本当のところをいえば、君と接したい、関わりたい、君と話したい会いたい、の意訳なんだ、簡潔にまとめればおっぱいになったんだ、要するに、好きです。

丸山政也 ©︎ @masaya_maruyama

#twnovel 「あ、また」マンションの外で激しい事故の音が聞こえた。半年の内に十回。多すぎる。不謹慎にも最近では音がするのを心待ちにしていさえした。窓外を見ると小さな子供達が二、三人血塗れの運転手の上を飛び乗ったり引っ張ったりして遊んでいた。

ミカナギ@アラミゴ @mikanagi69

#twnovel 初めて男の子から花を貰ったのは十八の時だった。帰宅途中の通学路で、同級生から刺もついたままの真っ赤な薔薇をいきなりプレゼントされたのだ。知ってるか、好きな女に贈る花を盗んだ泥棒は罪にならないんだぜ、なんて。得意に言って笑った子の顔も声も、私はもう思い出せない。

すわぞ @suwazo

#twnovel ずっと前、ママが動物園に連れていってくれました。パンダを指差してママは言いました。「あれがあなたのパパよ。悪者に改造されてしまったの」もちろんそれは嘘でした。改造されたのはママの方だったのです。私のパパとママはパンダと元パンダです。だから私もほぼパンダです。

夕凪奏恵 @k_you_nagi

#twnovel ありとあらゆる物語が禁止になった。創ったり、読んだり、話したり、何をしてもいけない。悲しい物語は悲しくなるから禁止で、楽しい物語は辛い思いをしている人の気持ちを考えて禁止で、危険な物語は危険だから禁止で、とにかく何もかも禁止だ。誰の人生もつまらないものになった。