十五年後のケータとウィスパー

鳥野郎 @toriyarou23

妖怪ウォッチを見始めた。そして見ていて思った。きっとあの妖怪ウォッチが壊れたら、ケータくんは妖怪を見る力を失うのだろう。ウィスパーも何故か見えなくなって、ケータくんはウォッチが壊れたからだと思うだろうけど、それは実は彼が大人になったから。という妄想をした。

鳥野郎 @toriyarou23

十五年後、彼は実家に帰り引き出しにしまってあった妖怪ウォッチを取り出す。「やっぱ、夢じゃねぇよなぁ」二十六歳になった彼は大手企業で営業として働いている。子供の頃にあった不思議な体験のことを話したことは一度もない。もし願いが叶うなら、せめてもう一度だけ、あの楽しい奴らに会いたい。

鳥野郎 @toriyarou23

「セットオン、なーんて」彼は手首に妖怪ウォッチをはめようとしたが、大人になって太くなった手首には負けなかった。ちょこんと手首に載っているおもちゃのようなそれは、ホコリを被っているが昔の記憶のままだった。「メダル、どこにしまったっけ」彼はぽろりと呟きながら、側面のボタンを押す。

鳥野郎 @toriyarou23

見えるはずのないもの。子供の頃に置いてきたもの。懐かしさに鼻の奥がツンとした、その時だった。「やぁっと帰ってきたんですねぇ。お母様は毎日心配してるんですよ」よく聞いていた声。え、と思ってベッドを見ると、いた。あのソフトクリームだかとぐろだか分からない頭をしたやつが。あいつが。

鳥野郎 @toriyarou23

「えええ！？」ベッドの上の物体に向かって叫ぶと、そいつは「え」と目を丸くした。「ええええ！？」そして絶叫した。なんだ、こちらは見えていなかったくせにそいつは話しかけていたのか。「け、ケータくん…私が見えるざーすか！？」「は、え、ウィ」十五年前、見えなくなったあの日のままのそいつ。

鳥野郎 @toriyarou23

「みえ、え？　みえる」「ケータくん……」「十五年も、ずっとここにいたのかよ」彼がそういうと、妖怪は笑った。「だって私、ケータくんの執事ですから」妖怪のくせに。彼は俯いた。妖怪のくせになんてやつだ。「俺、もう二十六だ。大人になっちまった」「成人式も見ておりましたとも」

鳥野郎 @toriyarou23

「ウィスパー」記憶の中に眠っていた歯車が動き出した。彼は妖怪に手を伸ばす。触れた。彼は確かに、十五年前のあの日から始まった日々のように、妖怪に触れた。「このやろう。寂しかったんだぞ」彼は妖怪を抱きしめた。妖怪も短い腕を伸ばしてきた。

鳥野郎 @toriyarou23

「これからどうしましょうか」妖怪は言った。「どうするって」「また見えるようになったからには、何かあるはずです。ケータくん、妖怪不祥事案件はまだまだ起こってるんですよ」妖怪は嬉しそうに弾んだ声を出した。「え、こういうのって見えた途端に満足して成仏するパターンじゃねぇの」

鳥野郎 @toriyarou23

「なんて失礼なことをっ！　まだ成仏なんぞいたしません！」「そっか。そうなんだ。ウィスパー、まだ俺のそばにいたいって思ってくれてんだ…」彼はベッドに腰掛けた。十八のとき、反抗期になってイラついた余り壊した壁が目線の先にある。大人になった。自分は、もう子供じゃない。なのに、妖怪は。

鳥野郎 @toriyarou23

「大人の魔法少年がいたってぜーんぜんおかしかありゃーせんよぉ？」「魔法少年て。大体子供の頃だって魔法少年じゃなかっただろ」彼はぷっと吹き出した。見えるはずのないもの。子供の頃に置いてきたもの。それが今、タイムカプセルを開けた途端色づき始めた思い出のように動き出している。

鳥野郎 @toriyarou23

世界のどこかで毎日起きている不思議に比べれば、妖怪と喋っている自分がいたって何もおかしくない。そう思えるのは、きっと彼も望んでいたから。願っていたから。「ウィスパー」「はい、なんでしょう」「俺も会いたかったよ。ずっと、ずーっと」妖怪は、優しく笑った。

鳥野郎 @toriyarou23

はっ

鳥野郎 @toriyarou23

私は一体何をしているんだ

鳥野郎 @toriyarou23

「ところでケータくん、妖怪メダルは全部散らばったのでもう一度集めなおす必要があります」「はぁ！？　なんで散らばったんだよ」「いやあ、カードキャプター的なハプニングが起きてですねぇカードキャプターケータ始まりですかねぇへへへへ」

鳥野郎 @toriyarou23

ジバニャンがいつ「ぐんそーさーん」とか言わないかドキドキしている