「アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル」

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

長い長い下降を経て、茶室は不気味な機械音とともに停止する。いま茶室と接しているのは巨大なシャッターである。「もうすぐ開きます」録音されたゲイシャの声が鳴り響いた。ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。「生体反応は?」「大量だ」ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさず即答した。「備えろ」

2010-08-27 17:14:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは入り口のクローン・ヤクザから調達したNN445アサルトライフルを構えた。手馴れた仕草である。「開きます」ゲイシャ音声が告げる。機構部からスチームを噴出しながら、大仰なシャッターがゆっくりと開いた。

2010-08-27 17:18:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

おお、なんたる光景!あんな貧相なオカキ工場の下にこのような工場設備が隠されていようなどと、誰が予想し得たろうか?二人は今、巨大な地下プラントを天井際の渡り廊下から見下ろしているのだった。縦横に張り渡されたベルトコンベアー、10メートル四方はあろうかという水槽(ヴァット)の数々…。

2010-08-27 17:27:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

工場は今も忙しく稼働している最中であった。白光タイプの電気ボンボリの冷たい明かりが水槽に満たされた怪しげなバイオ液に反射し、地下空間は緑色に照らされている。ヨロシサンの家紋がレリーフされた得体のしれない機械の数々が、コンベアーを流れる怪しげな物体を右へ左へ、やり取りしていく。

2010-08-27 17:32:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして、おお、ナムアミダブツ!なんたる禁忌!ナンシーが震える手で指差す先を見よ、水槽の中、等間隔で並んでいるのは、裸の人間たちである。あの水槽は培養装置なのだ。二人は今まさにクローン・ヤクザの製造工場を見下ろしているのだ!

2010-08-27 17:37:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんて……なんてこと」「生体反応の正体はこれか」ニンジャスレイヤーは注意深く眼下の警備体制を確認しようとした。広大なプラントであるが、設備は完全に自動化されており、人影は無かった。機密保持の意味もあろうか。警戒しつつも、二人は螺旋状の階段を降りていった。

2010-08-27 17:44:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

階段を降りきったニンジャスレイヤーとナンシー・リーは、地図上に記された別区画へ向けて歩き出す。今いる広大な区画は一年前の地図にも「ヤクザ」と記載がある。二人が目指すのはさらに奥に存在するはずの「マッポ」区画だ。

2010-08-29 12:16:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

緑色に光る水槽の中で、裸体のクローン・ヤクザY12型が、朝礼するサラリマンのように規則正しく列を作り、直列している。目は瞑想のように閉じられ、胸には「ヨロシサン」の文字。二人は水槽を横目で見ながら先を急いだ。「でも、こうも手薄なものなのかしら」ナンシーは訝った。

2010-08-29 12:22:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて、二人は下へ向かって傾斜する通路の入り口に辿り着いた。通路の入り口にはノレンがかかり、仰々しい字体で「マッポ」「大事」と書かれている。地図にはこの先の区画の記載は無い。ナンシーはアサルトライフルを構え直した。

2010-08-29 12:26:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「情報が確かなら、この通路の先にバイオマッポの実験区画がある」早足で歩きながら、ナンシーは手筈を確認する。「モニタ室に入って、そこにあるコンピュータに、このUSBメモリを挿す。それでウイルスプログラムがインストールされる。同時に、『タヌキ』に関する情報を盗み取るってわけ」

2010-08-29 12:39:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

言葉にすれば、なんとも地味な計画である。プラントの水槽を根こそぎ叩き割る事も無ければ、バンザイ・ニュークで施設ごと吹き飛ばすわけでも無い。しかし、ナンシーの目的は、もとよりこの施設の破壊ではない。彼女の目的はもっと深奥の陰謀を捉える事だ。すなわち、タヌキ。

2010-08-29 12:44:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーの協力をあおぐにあたりナンシーが提示したのもの。それはアンタイ・ニンジャ・ウイルス「タケウチ」の解毒剤である。ヨロシサンの機密情報を盗み出せば、自ずとアンプルの所在も明らかになる。ナンシーはドラゴン・センセイを気遣うニンジャスレイヤーの切なる願いを把握していた。

2010-08-29 12:54:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

通路の突き当たりに、「とても秘密」と書かれたゲートが現れた。ナンシーはゲート脇の数字キーを素早く叩いた。4、6、4、3、8、9、3。ヨロシサンとソウカイヤのつながりを象徴する恐るべきパスワードだ。「開きます」ゲイシャ音声が響き、ゲートが重苦しい音を立てて開いた。

2010-08-29 13:00:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゲートが開くと、そこは円柱状の巨大空間の底であった。天井はあまりに高いため、闇に飲まれて目視することができない。円柱の壁面には、見えなくなる高さまで、びっしりとシリンダー状の細長い水槽が並べられていた。

2010-08-29 14:20:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ひとつのシリンダーに一体ずつ、クローン・ヤクザとはまた違った体格の、屈強な全裸の男が収まっていた。胸にはすべからく、「ヨロシサン、マッポ」と書かれていた。「これが全部バイオマッポなの!?」ナンシーは虚空を見上げ、呆然と呟いた。

2010-08-29 14:25:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムサン!ここまで計画が進行していたとは。そしてこの数!これだけのバイオマッポがネオサイタマの治安機構に食いこめば、もはやソウカイ・シンジケートをとどめるものは無くなるであろう。待ち受けるのは暗黒の未来である!

2010-08-29 15:21:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナンシー=サン。急げ。あれではないのか」ニンジャスレイヤーが反対側のゲートを示した。ゲートには「モニタ室」「管理」と書かれている。ナンシーは緊張した面持ちで頷き、駆け出した……。 「イヤーッ!」

2010-08-29 15:24:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一瞬の出来事であった! 頭上の闇から一直線に落下してきたなにかが、ナンシーの身体をつかみ上げた。ニンジャスレイヤーのニンジャ反射神経は、かろうじてその正体を捉えた。落下してきた存在は、背中にくくりつけたザイルでバンジージャンプのように落下し、ナンシーを抱きかかえたのだ。

2010-08-29 15:27:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げつけた。「イヤーッ!」謎の存在は軽やかにザイルを背中から取り外し、ナンシーを抱きかかえたまま、くるくると回りながら着地した。迷彩色のニンジャ装束、そして、異様な円錐形の編笠……。「ハジメマシテ。フォレスト・サワタリです」

2010-08-29 15:32:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハジメマシテ、フォレスト=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツをかえした。「なるほど、セキュリティが薄いとは思ったが、ニンジャに護らせているわけか。フォレスト=サン。だが、俺と会ったが運の尽きだ」ニンジャスレイヤーは構えた。「ニンジャ殺すべし」

2010-08-29 15:36:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「噂は聴いておるぞ、ニンジャスレイヤー=サン」フォレスト・サワタリはナンシーを床に投げ捨てた。なんと!わずかな時間で彼女の肢体はザイルによってきつく縛り上げられていた。猿轡まで噛ませる念の入りようである。フォレストは笑い、背中の竹槍を取り出した。

2010-08-29 15:41:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「残念ながらすこしガテンが違うぞ、ニンジャスレイヤー=サン。おれはヨロシサンのセキュリティでは無い」「何だと」「むしろ、道中を掃除してやった事を感謝しろ。おれはついさっきヨロシサンを退職したのだ。このバイオ筋力とニンジャソウルがあわされば千人力。サラリマン生活ともオサラバだ」

2010-08-29 15:56:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはフォレストに攻撃を加えるべく、ゆっくりとフットワークする。しかし竹槍を構えたフォレストに、つけいる隙は見当たらなかった。フォレストは続けた。「おれはソウカイヤにも興味はない。だが、この美女は連れ帰っておれのヨメにしようと思う。そこをどけ」「断わる」

2010-08-29 16:01:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」フォレストが先制した。竹槍をしごきながらの突進だ。ニンジャスレイヤーの回避方向を巧みに牽制しながら、網笠ニンジャが迫る。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは竹槍をかわしつつ、チョップで叩き折ろうとした。しかし竹はニンジャスレイヤーのチョップを受けてもびくともしない。

2010-08-29 16:09:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無駄だニンジャスレイヤー=サン。バイオ・バンブーは鋼の四倍の強度を誇る」フォレストの容赦無い連続攻撃は反撃を許さず、ニンジャスレイヤーは壁際へと追い詰められていた。

2010-08-29 16:11:25